3年ぶり介護保険改正で何が変わる?ここだけは知っておきたい「施設の居住費の引き上げ」など改正ポイントを解説
3年ごとに改正される介護保険だが、2024年は改正が施行される年。実際に何が変わるの?介護中の人にとってどんな影響があるのか? 4月から施行されたもの、8月に予定されている施行内容のうち、介護保険の利用者が知っておくべきポイントについて、ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
介護保険法の改正で何が変わる?
介護保険法は、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして2000年に施行されました。この介護保険は、3年に1度改正が繰り返され、2024年は改正の年にあたります。
4月からすでに施行されたもの、8月から施行予定の改正について、介護保険の利用者にかかわる主なポイントを解説します。
・介護保険の基本
40才から加入する制度で、2000年の施行以来、保険料は年々上昇している。65才以上の人(第1号被保険者)は、要介護認定を受けることで介護保険サービスを利用することができます。40才以上65才未満の人(第2号被保険者)は、国が定める特定疾病により介護または支援が必要な状態となった場合に、介護保険サービスを利用することができます。
改正ポイント1:保険料の標準段階が変更(2024年4月施行)
第1号被保険者の保険料は、所得などによりいくつかの段階に分かれています。2006年の改正時に5段階から6段階へ、2015年4月からは9段階に改正されました。
2024年4月から国の標準段階を9段階から13段階に細分化されました。これにより、高所得者ほど負担が増え、低所得者(第1段階~第3段階)の保険料負担の上昇を抑える仕組みになっています。
なお、この段階については、市区町村によって柔軟に設定ができるため、2020年4月1日時点では、標準の9段階を超えて多段化を行っている自治体が約半数を超えています。最高段階を25段階と設定している自治体もあります。
・何が変わる?「高所得者ほど介護保険料が増える」
低所得者は介護保険料が負担減、高所得者は負担増となります。
※参考/厚生労働省 老健局「給付と負担について」(令和5年12月22日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001182065.pdf
改正ポイント2:介護サービス事業者の財務諸表公開へ(2024年4月)
社会福祉法人や障害福祉サービス事業所においては、すでに事業所等の財務状況を公表しています。今回の改正で、新たに営利法人などの介護サービス事業者においても同様に財務状況を公表することが義務化されることになりました。
なお、職員1人当たりの賃金等の公表については任意となっています。
・何が変わる?「施設選びの参考になる」
財務状況の公表により、利用者にとっては事業者の経営状況を把握することが可能になります。介護施設を選ぶときの目安のひとつになるでしょう。
厚生労働省 老健局「改正介護保険法の施行等について」(令和5年12月7日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001176038.pdf
厚生労働省 老健局「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」(令和6年1月22日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf
改正ポイント3:介護保険施設の居住費の引き上げへ(2024年8月)
介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院)に入所などした場合、介護サービス費(1割~3割)に加え、食費(基準費用額)、居住費(基準費用額)、日常生活費などがかかります。
昨今、高齢者世帯の光熱費が上昇していることから、令和5年度介護経営実態調査の費用の状況等を総合的に勘案し、居住費の引き上げが施行される予定です(2024年8月施行)。
・何が変わる?「居住費が月額1800円UP」
居住費の引き上げは、1日あたり60円となっています。1か月(30日)あたりに換算すると、1800円負担が増えることになります。
一例ですが、介護老人福祉施設に入所した場合、第1段階~第3段階(2)1日あたり60円負担増となります。ただし、第1段階の多床室利用者については負担が増えることはありません。
改正ポイント4:介護老人保健施設と介護医療院の居住費の引き上げ(2025年8月)
2015年度から、介護老人福祉施設の多床室では死亡退所が多く、事実上の生活の場として選択されていることから、在宅で生活する者との負担の均衡を図る目的で、一定の所得のある入所者は、居住費(多床室の室料)を負担することになりました。
この居住費の負担は、これまで介護老人保健施設や介護医療院は対象外となっていました。しかし、介護老人福祉施設と同様の理由から、一定の所得のある入所者について、2025年8月から介護老人保健施設(療養型、その他型)や介護医療院(Ⅱ型)の居住費が、月額8000円相当の負担が増えることになります。
・何が変わる?「多床室の負担増」
介護老人保健施設(療養型、その他型)や介護医療院(Ⅱ型)の室料(多床室)が所得により月額8000円UP。
※参考/厚生労働省「介護保険の解説」「サービスにかかる利用料」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
厚生労働省 老健局「介護報酬改定率、多床室の室料負担、基準費用額(居住費) について(報告)(令和5年12月27日)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001184569.pdf
2024年介護保険法改正のポイント【まとめ】
第1号被保険者の保険料は、第9期(2024年度~2026年度)の全国平均は6,225円となっており、毎年増え続けています。介護保険のスタート時には2,911円だったのでおおよそ2.1倍になっています。
2040年度には9,000円程度に達すると見込まれ、今後も増加することが予測されます。
参考/厚生労働省「第9期計画期間における介護保険料の第1号保険料について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12303500/001253798.pdf
厚生労働省 老健局「給付と負担に関する指摘事項について」(令和4年9月26日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000992849.pdf
今回の改正により、2024年度4月から第1号保険料の国が定める標準段階が9段階から13段階へ細分化し、高所得者の負担が増えることになります。
また、2024年8月からは介護保険施設の居住費が1日あたり60円の負担増へ。そして、2025年8月には介護老人保健施設(療養型、その他型)や介護医療院(Ⅱ型)の室料が一定の所得のある入所者は、月額8000円相当負担が増えることになります。
なお、今回の改正で先送りされた「2割負担者の範囲拡大」については、2027年度の前までに結論が先送りとなっています。今後の介護保険の改正については、注視していく必要があるでしょう。
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