特養に早く入所するための工夫やポイント8選「こまめに連絡をくれる入所希望者は印象に残る」
老人ホームの中でも人気が高い「特別養護老人ホーム」(以下、特養)。特養の入所待機者数は、全国で30万人近くいる。徐々に待機者数は減ってきてはいるのだが、それでもまだ特養の空きを待つ人は多い。そこで、介護施設の相談員として入退所の調整を担当していた経験がある中谷ミホさんに、特養に早く入所するためのポイントを教えてもらった。少しでも入所の優先順位を上げる工夫や対策とは?
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
特養の待機者数はどのくらい?待機期間を短くするポイントを解説
厚生労働省の調査※によると、2022年4月1日時点の特養の入所待機者数は、全国で27.5万人に上ります。2019年度の調査から待機者数は5.1万人減少したものの、依然として多くの高齢者が入所を待ち望んでいる状況です。
この厳しい現状の中で、入所までに数年以上かかるケースも少なくありません。しかし、さまざまな工夫を取り入れることで、特養の待機期間を短くできる可能性はあります。具体的なポイントについて、以下で解説していきます。
※厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000157884_00004.html
Point1:申込書の「特記事項」を詳しく記載する
特養に早く入所するには、施設側に入所の必要性を強く感じてもらうことが大切です。
特養の入所申込書には「特記事項」という欄があります。ここに入所の緊急性や在宅での介護が難しい理由などを詳しく記載することで、入所の優先順位が上がる可能性があるのです。
<記載例>
・ひとり暮らしで身近に介護してくれる人がいない
・認知症の症状が進行し、在宅介護の限界が近い
・要介護3に認定されたため、現在入居中の施設から退去を求められている
などと、具体的な状況を記載しましょう。
施設側はこの記載内容を見て、早期入所が必要なケースかどうかを判断します。記入欄に収まらない場合は、別紙を用意して詳しく書くことが重要です。できるだけ具体的に記載し、入所の必要性を強くアピールしましょう。
Point2:要介護度や介護状態の変化をこまめに報告する
待機中に入所希望者の状況に変化があれば、こまめに施設に報告することも特養へ早く入所するための工夫となります。
状態の変化をこまめに伝えることで、施設が次の入所候補者を決める「入所判定会議」を開催するときに優先順位が上がる可能性があります。
入所申込み書を提出後、施設側から入所希望者に連絡することは、ほとんどといってありません。施設側から連絡があるのは、入所の順番が近づいた頃に状況確認ための連絡が入るくらいです。
そのため、入所待機中に要介護4から要介護5と要介護度が重くなったり、介護する家族の状況が変わったりした場合は、その都度に施設に状況報告することが大切です。
ちなみに筆者は、介護保険施設の相談員として、入退所の調整を担当していた経験があります。こまめに連絡をくれる入所希望者は印象に残るので、空床が出た際に、次の入所候補者として検討されやすいことを実感しています。こまめな報告が早期入所につながるコツといえるでしょう。
Point3:家族全員が就業する
特養の入所判定では、介護者の就労状況も考慮されます。家族全員が仕事を持っていると、介護時間の確保が難しいと判断され、入所の優先度が上がる可能性があります。
そのため、介護者を含めた家族全員が就業しているケースは、在宅で十分な介護が難しい状況を施設側に伝えることが重要です。
たとえば、
・同居の家族はそれぞれ仕事があり、高齢者が日中独りで過ごす時間が長い状況が続いている
・遠方に住む家族には仕事があり、頻繁に帰省できないため緊急時の対応が難しい
このように入所申込書に記載すると、施設側に入所の必要性をアピールできます。施設側が「在宅では適切な介護が受けられない」と判断し、優先順位が上がる可能性があります。
Point4:数か所の特養に申し込む
特養は、複数の施設に同時に申し込みが可能です。第一希望の特養だけでなく、近隣の2〜3か所にも併せて申し込むことで、入所できる確率が上がるため待機期間を短縮できます。
とくに、経管栄養やストーマなど日常的に医療的な管理が必要なケースは、施設側の受け入れ人数に制限があるのが一般的です。
そのため、早期入所を希望する場合は、複数の施設に申し込むことをおすすめします。これにより、空きが出た施設への入所が可能となり、待機期間の短縮につながります。
Point5:ユニット型特養に申し込む
「ユニット型特養」に申し込むことも、特養へ早く入所するための工夫のひとつです。
特養は大きく分けて、一部屋の中に複数のベッドが設置されている「多床室型(従来型)」と完全個室の「個室ユニット型」に分けられ、部屋のタイプによって毎月の利用料が異なります。
費用負担の少ない「多床室型(従来型)」の方が人気が高く、待機者が多い傾向にあるため、早期入所を希望するかたは「個室ユニット型」への申し込みがおすすめです。
特別養護老人ホームの利用料の例
・多床室型(従来型):約13万円
・個室ユニット型:約15万円
(要介護3、利用者負担第4段階(住民税課税世帯)・30日間の場合)
Point6:地域を広げて申し込む
特養の待機者数は地域によって差があるため、エリアを広げて申し込むと、入所までの期間を短縮できる可能性があります。
とくに都心部は特養の待機者が多い傾向にあるため、郊外や隣接する市町村まで範囲を広げることで、待機者の少ない特養が見つかるかもしれません。
ただし、小規模タイプの「地域密着型特養」は、施設のある地域に住む高齢者が入所対象となっているため、地域を広げて探す場合は、居住地の制限がない「広域型特養」へ申し込みましょう。
Point7:ショートステイやデイサービスを利用する
入所を希望する特養が、デイサービスやショートステイを行っていたら、利用するのもおすすめです。
在宅介護をしているときから利用しておくと、施設のスタッフに顔を覚えてもらえます。
また、施設側にとっても、入居前から利用者の状況を把握できるため、受け入れがスムーズになり、場合によっては優先的に入所できるかもしれません。
Point8:グループ内の他施設に一時入所する
特養入所までの待機期間中、グループホームや有料老人ホームなどの施設に一時入居して順番を待つというかたもいるでしょう。
そのようなケースでは、入所を希望する特養と同じグループ法人の施設を選ぶと、入所が早くなる場合があるので検討してみると良いでしょう。
グループ法人であれば、施設間で情報共有がしやすいので、特養の空き状況に合わせて入所の順番を融通してくれることがあるからです。
たとえば、規模の大きな社会福祉法人では、特養のほかに有料老人ホームやグループホームなども運営している場合があります。特養の待機中に、一時的にほかの施設に入居する場合の選択肢のひとつとして検討してみても良いでしょう。
入所を諦めず積極的に取り組もう
今回ご紹介した方法は、あくまで手段であり、必ずしも早く入所できることを保証するものではありません。
しかし、積極的に活用することで、入所までの期間を短縮できる可能性があります。
入所する本人や家族の状況、経済面、地域の特養の空き状況などを考慮して、最適な方法を選択しましょう。
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