認知症の母が暮らす盛岡の家で突然タンスが倒れてきた!思いがけない理由と改めて考える実家の耐震対策
認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。岩手・盛岡の実家で暮らす母のもとに帰省していたときのこと、大きなタンスが母に向かって倒れてしまう事件が起きた。その思いがけない理由とは? 能登半島地震から間もない今、認知症の母が暮らす実家の耐震対策についてを改めて考えてみたい。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(80才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。
著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
「ちょっとー!」大声で叫ぶ母にタンスが!?
母は手足の筋肉が萎縮する難病、シャルコー・マリー・トゥース病を抱えています。少しでも運動機能を維持するために、作業療法士さんによる訪問リハビリを自宅で行っています。その訪問リハビリが始まる1時間前に、事件は起きました。
寝室に居た母が「ちょっとー!」と大声で叫んだので、何事かと思って駆け付けたら、タンスが傾き、今にも倒れそうになっていました。
幸い、母は自分の力でタンスを押し戻し、下敷きにならずに済んだのですが、なぜこんな状態になってしまったのでしょう。
時を遡ってタンスが倒れた原因を考察
この日、わたしはトイレに居た母に呼ばれたので、行ってみるとリハビリパンツとズボンが便で汚れていました。トイレは間に合っていたはずなのに、なんで汚れるのだろうと思いながらも母を寝室へ連れて行きました。
手足が不自由な母は、ひとりでは立っていられません。壁を支えにするか、どこかに座って着替えをします。いつものように寝室にあったクッションの置いてある椅子に座って着替えを始めたところ、そのクッションに便がべっとりと付いてしまいました。
わたし:「えー!トイレで、お尻拭いてこなかったの!」
母のお尻の状態を確認してから、寝室に連れてくればよかったと後悔したものの、時すでに遅し。わたしはマスクとビニール手袋をして、おしり拭きで母のお尻を拭いたあと、新しいリハパンを母に渡しました。
次に便で汚れたクッションカバーを早く下洗いをすれば、カバーにシミが残らないかもしれないと思い、洗面器のある脱衣所まで走りました。カバーを洗面器に入れたあと、今度は家の外にある水洗い場へと急ぎました。
便や尿の汚れがひどい時は、外で下洗いをしたあと、洗面器に介護用洗剤を入れてすぐにつけ置き洗いをすれば、ニオイは消え、シミも残りません。
クッションカバーのつけ置き洗いを終えたあと、部屋にこもった便のニオイを逃がすために、家中の窓を開けました。訪問リハビリ開始まで、あと45分。
窓を開けて走り回っていたときに、寝室から母の大声がしたのです。
見守りカメラの録画映像で理由が判明!
なぜタンスは倒れてしまったのか? 寝室にある見守りカメラの録画された映像で原因を探ったところ、理由は“母のもの忘れ”でした。
わたしは母に着替えをお願いする際、新しいリハパンは渡したのですが、ズボンは準備しませんでした。母の目の前にタンスがあったので、自分で探せるだろうと思ったからです。
しかしこの日の母は、ズボンの場所が分からなかったようです。あろうことかタンスの引き出しを全部開けて探していたところ、衣類と引き出し自体の重みでタンスの重心が前に傾いて、倒れてしまったのです。
不幸中の幸いだったのが、一番下の引き出しが畳に引っかかり、ストッパーのような役目を果たしてくれたおかげで、力のない母でもタンスを押し戻すことができました。
実はこのタンスは母が手すり代わりに使っているのです。引き出しを少し出して、そこに捕まって立ち上がる姿を何度も見てきました。
母が体重を預けても倒れず、東日本大震災のときも倒れなかったタンス。だから絶対に倒れないと思っていたのですが、引き出しと衣類の重みには耐えられなかったようです。
今後も母が衣類を探すときに、引き出しを全部開ける可能性があります。そこで、タンスが倒れないよう、早速対策に乗り出しました。
家具転倒防止グッズを購入して対策
タンスが倒れないようにするためには、耐震対策と同様な「家具転倒防止対策をすればいい!」と考え、早速ホームセンターへ。耐震グッズ売り場へ行き、家具転倒防止グッズを探しました。
最初はタンスと天井を突っ張り棒で支えようと思いましたが、寝室の天井は傾斜があり、強度に不安がありました。
またL字型の金具でタンスの天板と壁面をビスで固定しようと考えたのですが、タンスの後ろを襖が通るので、これも使えません。結局、タンスと壁面をベルトでつなぐタイプの家具転倒防止グッズを購入しました。
実家の耐震事情
図らずも認知症介護がきっかけで、タンスの耐震対策をすることになりましたが、2024年元旦に起きた能登半島地震を受けて、我が家の耐震対策をしっかりをしなければならないと改め考えています。
旧耐震基準で建てられた、築50年以上が経つ木造住宅の岩手の実家は、東日本大震災は何とか耐え抜いたものの、とても安全とは言えません。
とはいえ近い将来、介護施設に入るかもしれない母が暮らす実家を、多額の費用をかけて耐震工事をする余裕もありません。できれば介護施設の費用のために、お金は取っておきたい。命より大切なものはありませんので大変悩ましいところです。
家具など自分でできる範囲の耐震対策を行いつつ、いずれ盛岡市の木造住宅の耐震診断※に申し込んでみようと思っています。
今日もしれっと、しれっと。
編集部注:自治体によっては木造住宅の耐震診断を実施しているところもある(岩手・盛岡市の場合は約3000円)。診断結果により、耐震性の補強や強化にかかった費用の一部を助成する事業を行っている場合も。
※岩手県「木造住宅の耐震診断について」
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kenchiku/saigai/mokuzou/1010330.html
『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)
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