連載

認知症の母に「最期まで自宅で暮らして欲しい」と願う息子が10年ぶりに介護施設を見学した理由

 認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。遠距離介護歴は10年を超え、できる限り在宅で介護を続けると決めている工藤さんだが、ある思いから、介護施設の見学をすることに…。母にふさわしい施設を選ぶ基準とは?見学前のポイントを教えてもらった。

要介護4の母の在宅介護はいつまで可能か?

 母は可能な限り、住み慣れた自宅で生活したいと言っています。

 わたしもその思いを実現すべく、自宅で介護をすることにこだわり続け、すでに10年以上経ちました。それなのになぜ、介護施設の見学をしたのでしょう?

 介護が始まった2012年から今日までずっと、母を施設に預けようと思ったことはありません。できれば、自宅で看取りができたらいいと思っています。

 しかし、母の認知症は重度まで進行しています。手足の筋肉が萎縮する難病も抱えていて、転倒するリスクが高く、いつ骨折してもおかしくありません。今は自宅で介護を続けられていますが、急に続けられなくなる可能性もあります。

 また、自宅での介護にこだわり過ぎると、介護者のわたしがムリをして倒れてしまうかもしれません。母と一緒にエンディングノートを書いたとき、もし自分の介護が大変になったら、施設を利用してもいいと言っていました。

 本当はもっと早く、施設を見学するつもりでしたが、新型コロナウイルスの影響で見学できない施設がほとんどだったので、今のタイミングになりました。

→要介護3の認知症の母の区分変更を申請 遠距離介護を続けていくための準備と覚悟

10年前に祖母のために施設見学を経験

 母の施設見学は今回が初めてですが、実は10年前に祖母の施設を探した経験があります。

 子宮頸がんで療養型病床に入院していた祖母は、病院のベッドから転落して大腿骨を骨折。リハビリの成果が思うように上がらず、ベッドで寝る時間が増え、弱っていく祖母を見て、退院させて日常生活を取り戻そうと考えました。

 当時、母の認知症が見つかったばかりで、祖母と母を同時に遠距離で介護はできないだろうと考え、祖母を施設に預けようとしました。

 病院の医療ソーシャルワーカーに相談し、紹介されたのは、介護老人保健施設と住宅型有料老人ホームの2か所。施設の種類を理解していませんでしたが、施設の前まで行って、建物の雰囲気だけ確認しました。

 しかし、施設の中に入って、見学することはありませんでした。というのも、退院を検討しようとすると、なぜか発熱する祖母。これを何度か繰り返した後、医師から「このまま病院に居たほうがいい」と言われ、施設の利用を諦めてしまったのです。

→20代30代にも迫る「孫介護」の実態|祖母の介護で後悔していること

 10年ぶりに施設を検討することになったので、改めて自分の施設選びの基準をまとめてみることにしました。

母のための介護施設を選ぶポイントと見学の経緯

 一般的に、介護施設を見学する際のチェックポイントとして、下記のようなものがあります。

・建物や部屋の広さなど、ハード面の環境チェック

・施設スタッフの雰囲気

・利用者の表情

・食事の内容

・退去条件の確認

 どれもチェックしておくべきだと思いますが、わたしの施設選びの基準には入れませんでした。なぜかというと、1回の施設見学では判断できないものが多いからです。

 例えば施設スタッフの雰囲気は、シフトで交代するので毎日変わります。利用者の表情も、体調や他の利用者との相性など、日によって違うのであまり参考になりません。

 何度も見学をすれば、チェックポイントの精度は上がると思います。しかし今回は、何度も見学する予定はなく、あくまで在宅介護ができなくなったときのための保険であり、母を本気で施設に預けるわけではありません。

 では、見学した施設をどうやって選んだかというと、信頼できる介護職のかたの情報がポイントです。母と長く接している介護職のかたなら、母の性格や施設との相性を考えて、選んでくれると考えたからです。

 そのかたは、わたし以上に施設を何度も訪れているので、施設のいいところも悪いところも見えているはずです。その施設を利用した人の情報もきっと、持っているでしょう。

 以上の理由から、わたしの施設選びは、母をよく知る介護職のかたにおすすめの施設を聞くところから、始めるようにしています。

→「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方

住宅型有料老人ホームを見学した理由

 今回見学したのは、住宅型有料老人ホームでした。認知症の人が利用するグループホームや、要介護4の母なら特別養護老人ホームも選択肢としてはあったのですが、母との相性を最優先に考えての選択だったようです。

 ケアマネさんやデイサービス、訪問リハビリなどすべてに満足しているわが家としては、今のサービスは維持したいと考えています。住宅型であれば、これらサービスを維持したまま入居できるので、見学して良かったと思っています。

 また在宅介護を10年以上続けているので、母が施設で生活するイメージもしやすかったです。廊下は広いから歩行車のレンタルが必要とか、使い慣れたタンスを持ち込んだら、母も落ち着くかもとか、施設長と話しながらそんなことを考えました。

今後の施設見学についての方針

 今回見学した施設は、母と相性がいいように思いました。今後も同じ方法でいくつか施設を見学したあと、候補を絞っていきたいと思っています。

 とはいえ、目標はやはり自宅で介護を続けることです。それが母の望みであり、わたしの望みでもあるからです。これからも在宅介護の工夫を重ねつつ、施設利用の選択肢は捨てないようにします。

 今日もしれっと、しれっと。

→この連載の他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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