久しぶりに会う親に違和感、異変を感じたら【認知症のチェックポイント】と【介護の始め方】「できるだけ一緒に暮らさない方がいい」と識者
年末年始は、郷里に帰省、久しぶり家族揃って過ごすという人は多いかもしれない。コロナ禍を経て「なかなか会えなかった親が年を取った」「少し元気がないかも」…などと変化を感じることも。このタイミングで、今後の暮らし、介護やお金について話し合ってみてはどうだろうか。これまで紹介した記事から役立つ内容をピックアップしてご紹介する。
そろそろ一緒に暮らした方がいいのだろうか…
「親御さんが元気なうちは、別居をおすすめします。配偶者に先立たれた場合でも、親にはひとり暮らしをしてもらったほうがいいです。なぜなら、同居して毎日顔を合わせていると、価値観や生活習慣の違いから、いさかいになることが多いからです。適度な距離があったほうが、お互いに気にかけあえて優しくなれますよ」
こう話すのは、『離れて暮らす親と上手に付き合うための本』の著書があり、セレモニーホールを運営しながら、高齢者やその家族のサポートをしている三村麻子さんだ。これまでに多くの家族から、介護や看取りに関する相談を受けている。
三村さんのところにも「離れて暮らす親が心配だから、同居したほうがいいのか?」という相談が多く寄せられるという。
「介護を通して親子の関係が崩れる例をたくさん見てきました。親御さんは住み慣れた生活圏で老後も過ごすことを希望しているのに、無理に子の住まいに引っ越しをさせてしまうと、親は慣れない環境にストレスを感じてしまいます。
親御さんが元気なうちは、できるだけ親御さんの気持ちを尊重してあげてほしいです。その間は親の様子を確認しながら、近い将来におとずれる本格的な介護に備えて準備してください」
親に興味を持つ「好きな花を知っている?」
親の見守りや遠距離介護に一番大切なのは、親に興味を持つことだという。三村さんが葬儀の相談を受けたとき、「お母さまのお好きな花は何でしたか?」と聞いても、答えられない人が多いという。
「親に興味がない人もいるのです。特に同居してしまうと親が空気みたいな存在になって、気にもとめない方もいます。恋愛が始まるときって、相手に興味を持つじゃないですか。何しているだろうか?どんなものを食べているのかしら? 今日は何をしたのだろう? などと、親にも恋愛相手のように興味を持っていただくと、自然と気にかけられるようになります。こちらが気にかけていると、親の方も心配してくれていると嬉しく感じるものです」
親との良い思い出を10個あげてみる
「私は『今まで親にしてもらった良い思い出を10個あげてください』と、相談者様にお話しています。幼少時代や学生時代などかなりさかのぼられる方も多いのですが、具体的なエピソードをあげていくことで、親からの愛や自分から親への愛情も思い出すことができ、見守りや介護に対して前向きになれます」
遠距離介護に限らず同居介護においても、親に興味を持って接することでそれからの介護もスムーズに進められるという。
親の介護を事業計画化する
「親御さんがお元気なうちに、親御さんの資産状況、老後生活や身体状況、病院や薬についてなど興味を持って情報収集してください。そして介護をひとつの家庭内事業として、家族で綿密な計画を立てることが必要です」
おざなりでスタートすると、家族間で意見が分かれたり、介護にどれだけの予算を割けるのかわからず兄弟間でトラブルになったりするという。親の介護という事業計画をなるべくスムーズに進行するために、数字をもとにした具体的なビジョンを関わる家族や身内で共有することが大切とのこと。
円満介護の秘訣は100%を求めないこと
介護生活がスムーズにやれている人はどういう人なのだろうか?
「あきらめのいい人です」と、三村さんは断言する。
「介護に限らず自分で100%できることなんてないんです。がむしゃらに自分や家族だけで介護しようとしても、疲れたりもめたりして決して満足の得られるものにはなりません。最悪の場合、介護者が介護うつになったり、自分たちのお金を親の介護費用にあててしまい、自分たちの老後を危うくしてしまったりすることもあるのです。
ですから、親の介護は無理せずできることだけしてください。幸い今はいろいろとサポートしてくれる制度やサービスが充実してきているので、周りに頼ることが大切です。
たとえ認知症になった親でも、身体が不自由になった親でも、自分たちの介護で子どもが苦しむことを望んでいません。ここまでならできそうという線引きをして、それ以上は、頑張り過ぎないことが大切です」
では、具体的にはどういう点に気をつければいいのだろうか?
離れて暮らす親の介護・見守りの4つのポイント
同居はしないとしても高齢者だけで住むのは心配があるので、見守りや心身の健康面の確認はすべきだと三村さんは話す。三村さんが指摘するヒントは以下。
【1】親との連絡は電話やビデオ通話で
メールやLINE、チャットなど文字だけのやり取りに頼らず、電話やビデオ通話などで顔の表情や声のトーンで心身の様子を確認することが大切。週1~2回は連絡を取って。
【2】親の行動や予定をカレンダーに書く
親専用のカレンダーを用意し生活の様子や予定をそれとなく電話で聞き書いておく。しっかりと食事をしているか、薬の飲み忘れがないかも確認でき、変化に早めに気づける。
【3】親が暮らす地域の高齢者向け行政サービスなどの情報収集をする
「離れて暮らす親の生活をサポートするには、フルに行政サービスを利用してください。介護度認定を受けるためにはどうすればいいか?認定を受けたらどういう福祉サービスがあるのか? など、親が住む都道府県や市区町村のサービスを把握することが大切です。
行政のホームページでもおおまかな情報は見られますが、一部のサービスしか掲載されていない場合もあるので、帰省したときにでも自治体の高齢対策課などの窓口や地域包括支援センターに出向くことをおすすめします。
【4】帰省中に近所の人たちとコミュニケーションを
帰省したタイミングごとに実家のご近所さんや親の同級生などと親しくしておくのもいいでしょう。
便利なサービスや高齢者施設についてなど生の情報が得られることもあります」
教えてくれた人
三村麻子さん
看取りサポートや葬儀企画などを行う「あなたを忘れない」代表取締役。故人と家族が最後に過ごす時間を大切にするセレモニーホール「想送庵カノン」を運営。これまでに葬儀や看取りを通して1000件以上の相談にのった経験がある。自身の両親や義両親の介護などで培ったノウハウを生かして、相談者の心に寄り添い、各々の家族に沿ったアドバイスをしている。著書に『離れて暮らす親と上手に付き合うための本』(永岡書店)がある。https://www.tokyo-kanon.com/
初出/介護ポストセブン2023年4月29日公開
離れて暮らす親の介護や見守りを円滑にする4つのヒント「GWなど帰省時に準備すべきこと」より
https://kaigo-postseven.com/123465
親が認知症かも…確認したいポイント
認知症は、2025年には700万人前後に達するといわれる新たな“国民病”だ。あなたの家族も決して無縁ではいられなくなる。重要なのは、なるべく早く“異変”を感じ取ることだ。
「早期の認知症は分かりにくいのですが、早くに兆候に気が付くことができれば、より適切な対処が可能になります」
と言うのは、介護アドバイザーの横井孝治氏。
家族が認知症になると、介護する側の負担も重い。「あれ?」という違和感を感じた時にまず何をすべきか見ていく。
家族が見るべき「チェックポイント」
異変を感じた家族が、「検査を受けてほしい」と本人に勧めたところ、「俺は大丈夫だ」とはねつけられてしまった―。認知症については、そうした事例もよく耳にする。
前出・横井氏が語る。
「家族だからこそ言いにくい、という場合もあるでしょう。そうした場合に便利なのが、周りの人たちができる10項目のチェックです。合計14点以上なら、認知症の疑いが強い」
◆10項目のチェックポイント
※採点方法:ほとんどない=0点、時々ある=1点、頻繁にある=2点
□同じ話を無意識にに繰り返す…点
□知っている人の名前が思い出せない…点
□物のしまい場所を忘れる…点
□漢字を忘れるようになった…点
□今しようとしていることを忘れる…点
□家電などの説明書を読むのを面倒くさがる…点
□理由もないのに気がふさぐ…点
□身だしなみに無関心になった…点
□外出をおっくうがるようになった…点
□財布などの物が見当たらないことを他人のせいにするようになった…点
採点結果:0~8点=正常、9~13点=要注意、14~20点=専門医などの診断が必要
日常の異変に気づくためには?
前出の佐藤氏は、日常生活の中でのちょっとした“異変”に気を付けるようアドバイスする。
「まずは会話の辻褄に注意。喋りはじめと結論がずれるといったことが増えてくる。毎日顔を合わせている家族だからこそ分かることですね。
離れて暮らしている場合、冷蔵庫に同じ商品が増えていたら要注意。卵とか納豆が食べきれないほど詰まっているというのはMCI(軽度認知障害)や認知症の人の特徴。ケアマネジャーの中には『まず冷蔵庫を確認する』と言う人もいます。
部屋やトイレの汚れにも現れます。意欲、やる気が相対的に低下し、片付けが億劫になる。また“匂い”に鈍感になり、トイレの汚れにも気付きにくくなる」
認知症のおそれがある場合、まずなにをする?
親に認知症の疑いが出てきたらどこに相談すればいいのか。介護評論家の佐藤恒伯氏が解説する。
かかりつけ医か地域包括支援センターに相談を
「かかりつけ医のいる方は、まずそこに相談しましょう。医師の診断で認知症である疑いがあれば、専門医を紹介してくれるはずです」
かかりつけ医のいない場合は、認知症や介護保険サービスなどにワンストップで対応する「地域包括支援センター」が頼りになる。
「中学校区程度の範囲にひとつずつ、地域包括支援センターはあります。ただ、自治体によっては『いきいきプラザ』などの名称だったりと分かりにくいこともあります。役所の高齢福祉課などに問い合わせるといいでしょう」(前出・佐藤氏)
また、「公益社団法人・認知症の人と家族の会」などの無料の電話相談窓口でも適切な情報をもらえる。
※公益社団法人・認知症の人と家族の会(https://www.alzheimer.or.jp/)
親を受診させるためにはどうする?
その後は「物忘れ外来」などの認知症専門医につなげ、検査を受けることが肝心だが“自分が認知症である”と認めたくない人は多く、うまくいくとは限らない。そういう時は、どのようにして病院に連れて行けばいいのか。
介護アドバイザーの横井孝治氏が指摘する。
●他の親族に『自分の認知症が心配だから病院についてきて』とひと芝居打ってもらう
「男性は特に、認知症の疑いがあるから検査に行ってほしいと伝えても素直に従いません。奥さんや友人、兄弟などにひと芝居打ってもらい、『自分の認知症が心配だから病院についてきて』とお願いする。すると『自分が大切にしている人のお願いなら』と、割と高確率で同行してくれます。
私も、父の友人に頼んで、この方法で父に検査を受けてもらいました。その際に医療機関にも連絡をしておきましょう」
認知症だと金融機関で口座が凍結されるので要注意!
介護とお金は切っても切れない。ところが認知症であることが金融機関に伝わると、口座が凍結され、家族であっても容易に引き出せなくなる。
→認知症が疑われ「銀行口座が凍結」すると本人も子供も引き出せない
「あらかじめ金融機関で『代理人カード』を作っておく方法があります。金融機関が、代理人が使えるキャッシュカードを発行してくれます。これがあれば万が一、親が認知症になっても家族の負担を減らせます。しかし、お金は家族間でも繊細な事項。普段から信頼関係を作ることが重要です」(前出・横井氏)
家族が認知症になっても、少しでも負担は減らしたい。そのためには、早期に異変を察知し、正しく対処することが何より肝心だ。
教えてくれた人
横井孝治氏/介護アドバイザー。介護情報サイト「親ケア.com」を運営する株式会社コミュニケーター代表取締役社長。
佐藤恒伯氏/介護評論家。
初出/週刊ポスト2020年10月30日号
認知症かな?と思ったら…家族が早期発見する10のチェックポイント
https://kaigo-postseven.com/87596
親が認知症かも…まずどこに相談?どのように受診させる?|手続き、流れを解説
https://kaigo-postseven.com/88021
いつか直面するかもしれない「介護」 今から覚えておきたいこと
40~50代になると周りで聞こえてくる親の介護の話。親と同居している人も、離れて暮らす人も、いつか直面するかもしれない“そのとき”のために、出来ること、知っておくといいことは何なのか、専門家に話を伺った。
「うちの親はまだ大丈夫」でも介護認定は早めに
親と一緒に暮らしていても離れていても、介護をスタートするうえで欠かせないのは、要支援・要介護の認定を受けることだ。65才になると市区町村から介護保険被保険者証が自宅に送られてくるが、それだけでは、いざというときに介護サービスを使えない。
ケアマネジャー歴20年以上の田中克典さんは、「認定はできるだけ早く受けておいた方がいい」とアドバイスする。
「“うちの親はまだ元気なので大丈夫”という場合でも、要支援・要介護認定を申請すると、意外とサービスを受けられることも少なくありません。75才や80才など節目の年齢で申請を持ちかけると、親の理解も得やすいでしょう。
区分は要支援1、2から要介護1~5に分かれていますが、要支援1や2の軽い状態に認定されたままだと、自宅で介護サービスを使う場合に不利です。状態に見合った介護サービスを受けるためには、必要に応じて変更申請を行い、日頃から適切な介護度を維持しておくことが大切です」(田中さん・以下同)
まずは、市区町村の担当窓口に問い合わせて、申請手続きをしよう。平日は仕事で時間がとれないという人には、地域包括支援センターが無料で代行をしてくれる。
申請が終われば、次は要介護度を決める「訪問調査」だ。市区町村から派遣された調査員が自宅を訪れて、本人や家族との面談が行われる。具体的な調査項目は、「訪問調査の主な内容」の表にある通りで、日常生活に必要な介助量や認知機能に関するもの、身体機能を見るものなど多岐にわたる。
介護認定手続きの流れ
【1】電話などで相談 (市区町村の担当窓口へ)
↓
【2】要介護認定の申請
↓
【3】主治医意見書 (市区町村の依頼で主治医が意見書を作成)
訪問調査(※1) (市区町村の職員が自宅を訪問して審査)
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【4】要介護度の決定
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【5】認定結果通知 (申請から30日以内に通知)
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【6】非該当と認定
要支援・要介護と認定
(※1)訪問調査の主な内容
調査項目/質問内容
★身体機能・起居動作
・両腕が肩の高さまで上がりますか?
・寝返りや起き上がりは1人でできますか?
・5mを1人で歩けますか?
・10秒間、1人で立っていられますか?
・片足で1秒間、立っていられますか?
★生活機能
・入浴や食事に介助が必要ですか?
・トイレで介助が必要ですか?
・歯磨きや洗顔、着替えに介助が必要ですか?
★認知機能
・名前や生年月日を教えてください
・今の季節は何ですか?
・ここはどこですか?
★精神・行動障害
・物を盗られたなどと被害的になることはありますか?
・介護に抵抗することはありますか?
・外出して戻れないことはありますか?
・物を壊したり衣類を破いたりすることはありますか?
★社会への適応
・買い物はできますか?
・薬の管理はできますか?
★医療行為
・最近2週間以内に、点滴の投与や床ずれの措置などの医療行為を受けましたか?
介護サービスを受けられるのは要支援・要介護の認定が出た後になる。結果は30日以内に通知されるが、突然転倒して動けなくなったなど急を要する場合は、暫定的に申請日から利用することも可能だ。
「ただし、要支援・要介護に該当しなかった場合、利用した費用は全額自己負担となります。また見込んでいた介護度より低く認定された場合は、保険枠を超えた分が全額自己負担となるので注意が必要です。正式に認定が下りるまでは最低限のサービスに抑えましょう」(田中さん)
共倒れを避けるため「離職」「私一人で」は厳禁
介護が始まっても、すぐに実家に帰る必要はない。太田さんは、「介護離職だけは避けてほしい」と強く訴える。
「特に正社員の場合、一度辞めたら簡単に以前と同じ収入を得ることはできません。介護は人によっていつまで続くかわからないし、人は終わりが見えないと頑張れないもの。何年も続く介護で次第に困窮し、うつになったり虐待したりすることは珍しくありません。家族から高齢者への虐待は、1対1の介護の場で起きています」(太田さん)
教えてくれた人
田中克典さん/ケアマネジャー、太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト
※初出:女性セブン2023年4月13日号
いつか直面する老親の介護、慌てないために「要介護認定は早めに、 一人で背負うのは厳禁」
https://kaigo-postseven.com/122621
構成/介護ポストセブン編集部