離れて暮らす親の介護や見守りを円滑にする4つのヒント「GWなど帰省時に準備すべきこと」
ひとり暮らしの高齢の親が心配になったとき「同居したほうがいいのか?」と悩む人もいるのではないだろうか? 離れて暮らす親の介護をするときにどうやって見守り、ケアをすればいいのか? 注意すべきポイントや対策を専門家に伺った。ゴールデンウイークなど長期のお休みのときには、親と一緒に過ごすいい機会だろう。円満介護に向けての具体的なポイントを解説していく。
離れて暮らす親の介護を円滑にするコツ
「親子は遠距離恋愛ぐらいがベストの関係です」
こう話すのは、『離れて暮らす親と上手に付き合うための本』の著書があり、セレモニーホールを運営しながら、高齢者やその家族のサポートをしている三村麻子さんだ。これまでに多くの家族から、介護や看取りに関する相談を受けている。
「親御さんが元気なうちは、別居をおすすめします。配偶者に先立たれた場合でも、親にはひとり暮らしをしてもらったほうがいいです。なぜなら、同居して毎日顔を合わせていると、価値観や生活習慣の違いから、いさかいになることが多いからです。適度な距離があったほうが、お互いに気にかけあえて優しくなれますよ」(三村さん、以下同)
三村さんのところにも「離れて暮らす親が心配だから、同居したほうがいいのか?」という相談が多く寄せられるという。
「介護を通して親子の関係が崩れる例をたくさん見てきました。親御さんは住み慣れた生活圏で老後も過ごすことを希望しているのに、無理に子の住まいに引っ越しをさせてしまうと、親は慣れない環境にストレスを感じてしまいます。
親御さんが元気なうちは、できるだけ親御さんの気持ちを尊重してあげてほしいです。その間は親の様子を確認しながら、近い将来におとずれる本格的な介護に備えて準備してください」
親に興味を持つ「好きな花を知っている?」
親の見守りや遠距離介護に一番大切なのは、親に興味を持つことだという。三村さんが葬儀の相談を受けたとき、「お母さまのお好きな花は何でしたか?」と聞いても、答えられない人が多いという。
「親に興味がない人もいるのです。特に同居してしまうと親が空気みたいな存在になって、気にもとめない方もいます。恋愛が始まるときって、相手に興味を持つじゃないですか。何しているだろうか?どんなものを食べているのかしら? 今日は何をしたのだろう? などと、親にも恋愛相手のように興味を持っていただくと、自然と気にかけられるようになります。こちらが気にかけていると、親の方も心配してくれていると嬉しく感じるものです」
親との良い思い出を10個あげてみる
「私は『今まで親にしてもらった良い思い出を10個あげてください』と、相談者様にお話しています。幼少時代や学生時代などかなりさかのぼられる方も多いのですが、具体的なエピソードをあげていくことで、親からの愛や自分から親への愛情も思い出すことができ、見守りや介護に対して前向きになれます」
遠距離介護に限らず同居介護においても、親に興味を持って接することでそれからの介護もスムーズに進められるという。
親の介護を事業計画化する
「親御さんがお元気なうちに、親御さんの資産状況、老後生活や身体状況、病院や薬についてなど興味を持って情報収集してください。そして介護をひとつの家庭内事業として、家族で綿密な計画を立てることが必要です」
おざなりでスタートすると、家族間で意見が分かれたり、介護にどれだけの予算を割けるのかわからず兄弟間でトラブルになったりするという。親の介護という事業計画をなるべくスムーズに進行するために、数字をもとにした具体的なビジョンを関わる家族や身内で共有することが大切とのこと。
円満介護の秘訣は100%を求めないこと
介護生活がスムーズにやれている人はどういう人なのだろうか?
「あきらめのいい人です」と、三村さんは断言する。
「介護に限らず自分で100%できることなんてないんです。がむしゃらに自分や家族だけで介護しようとしても、疲れたりもめたりして決して満足の得られるものにはなりません。最悪の場合、介護者が介護うつになったり、自分たちのお金を親の介護費用にあててしまい、自分たちの老後を危うくしてしまったりすることもあるのです。
ですから、親の介護は無理せずできることだけしてください。幸い今はいろいろとサポートしてくれる制度やサービスが充実してきているので、周りに頼ることが大切です。
たとえ認知症になった親でも、身体が不自由になった親でも、自分たちの介護で子どもが苦しむことを望んでいません。ここまでならできそうという線引きをして、それ以上は、頑張り過ぎないことが大切です」
では、具体的にはどういう点に気をつければいいのだろうか?
離れて暮らす親の介護・見守りの4つのポイント
同居はしないとしても高齢者だけで住むのは心配があるので、見守りや心身の健康面の確認はすべきだと三村さんは話す。三村さんが指摘するイントは以下。
【1】親との連絡は電話やビデオ通話で
メールやLINE、チャットなど文字だけのやり取りに頼らず、電話やビデオ通話などで顔の表情や声のトーンで心身の様子を確認することが大切。週1~2回は連絡を取って。
【2】親の行動や予定をカレンダーに書く
親専用のカレンダーを用意し生活の様子や予定をそれとなく電話で聞き書いておく。しっかりと食事をしているか、薬の飲み忘れがないかも確認でき、変化に早めに気づける。
【3】親が暮らす地域の高齢者向け行政サービスなどの情報収集をする
「離れて暮らす親の生活をサポートするには、フルに行政サービスを利用してください。介護度認定を受けるためにはどうすればいいか?認定を受けたらどういう福祉サービスがあるのか? など、親が住む都道府県や市区町村のサービスを把握することが大切です。
行政のホームページでもおおまかな情報は見られますが、一部のサービスしか掲載されていない場合もあるので、帰省したときにでも自治体の高齢対策課などの窓口や地域包括支援センターに出向くことをおすすめします。
【4】GWなど帰省中に近所の人たちとコミュニケーションを
帰省したタイミングごとに実家のご近所さんや親の同級生などと親しくしておくのもいいでしょう。
便利なサービスや高齢者施設についてなど生の情報が得られることもあります」
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母親の通い介護を続けている記者も「そろそろ同居したほうがいいのでは?」と思い始めていたが、三村さんのお話を伺いもう少し様子を見ようと思った。「今、1番好きな花は何?」と母に聞いて、気持ちも新たに介護を続けていきたい。
教えてくれた人
三村麻子さん
看取りサポートや葬儀企画などを行う「あなたを忘れない」代表取締役。故人と家族が最後に過ごす時間を大切にするセレモニーホール「想送庵カノン」を運営。これまでに葬儀や看取りを通して1000件以上の相談にのった経験がある。自身の両親や義両親の介護などで培ったノウハウを生かして、相談者の心に寄り添い、各々の家族に沿ったアドバイスをしている。著書に『離れて暮らす親と上手に付き合うための本』(永岡書店)がある。https://www.tokyo-kanon.com/
取材・文/本上夕貴