「認知症は前段階なら食い止められる」医師が解説するグレーゾーンの見分け方と7つの対策
「あの人の名前なんだっけ?」「同じものを何度も買っちゃう」―― そんな症状が出始めたら要注意。そのまま進めば認知症に一直線だが、逆にその「サイン」に気づけたのなら、後戻りは可能だと専門医は語る。認知症の前段階”グレーゾーン”の気づき方と対処法を医師に解説してもらった。
MC
教えてくれた人
九段坂病院院長 山田正仁さん
筑波大学名誉教授・メモリークリニックお茶の水院長 朝田隆さん
認知症の人と同数いる「軽度認知障害(MCI)」
<買い物中の74才女性が行方不明になり、自宅から遠く離れた駅で保護された>
<料理中に電話が来たことでガスコンロの火を消し忘れた81才女性が火事から助け出された>
近年、認知症が原因とみられる事故やトラブルの件数は右肩上がりに増えている。
平均寿命が延び、「人生100年時代」を謳歌する人が増える一方、病に脳と体を蝕まれるリスクも高まっているのだ。
九段坂病院院長の山田正仁さんは「社会の超高齢化に伴い、認知症の罹患者が急増している」と話す。
「現在、65才以上の17%が認知症を有しているとされています。さらに、認知症の前段階の『軽度認知障害(MCI)』の人も認知症とほぼ同数います。原因をみると、全体の6~7割を占めるのが『アルツハイマー病』で、アミロイドβとタウというたんぱく質が脳に蓄積して沈着することで発病します。そのほかに『レビー小体型』『血管性』『前頭側頭型』などがあり、それらが混ざった混合型もあります」
さらに気がかりなのは、認知症は女性の方がなりやすいと山田さんは続ける。
「認知症の有病率をみると85~89才では男性の35%に対し、女性は48%近くに上ります。90才を超えると男性は42%に留まるのに対し、女性は70%に達します」
高い発症率に加え、恐ろしいのは一度認知症になると治療の手だてがほとんどないこと。しかし、筑波大学名誉教授でメモリークリニックお茶の水院長の朝田隆さんは「その前段階であれば食い止められる」と説明する。
認知症はグレーゾーン「MCI」なら引き返せる
「認知症になる人は必ず、MCIを通ります。日常生活に大きな支障はないものの、例えば10個入りパックの卵を買ったことを忘れて3日連続で買ってしまうなど、本人や家族が“最近ちょっとおかしいなぁ”と感じる、いわば『認知症グレーゾーン』です。
この状態から認知症に移行するまで、平均7年かかるといわれており、この期間に適切な対応をすれば認知機能の低下を緩やかにすることも、さらに健常な脳の状態にUターンできることもわかっています。しかし翻っていえば、一度発症してしまうと後戻りはできない。グレーゾーンのときにいかに対処するかが明暗を分けるのです」
朝田さんによればMCIの状態から4人に1人は回復するという。つまり、なにより大事なのは、グレーゾーンの状態に気づくことだ。
「キーワードは“めんどうくさい”。認知症は『記憶の低下』より『意欲の低下』から始まるので、その言葉を頻繁に口にするようになったら要注意です」(朝田さん・以下同)
ほかにもさまざまなサインがあるので、次の「チェックリスト」で自身や家族にあてはまるものがないか確認してほしい。
●あなたは大丈夫?「認知症グレーゾーン」チェックリスト
□ 物の名前が出てこない。「あれ」「これ」を多用する
□ 曜日や日にちを聞かれてもすぐに答えられない
□ 薬の管理ができない
□ 医師・薬剤師の指導内容を覚えていない
□ 生返事で、何を聞いても「はい」「大丈夫」などと答える
□ 些細なことで泣いたり大喜びしたり、激怒したり感情の揺れ幅が大きい
□ 発言の内容や散歩コースなどが固定化し、同じ行動を繰り返す
□ 時間を過度に気にして、予定時間のかなり前から行動を開始する
□ 昨日のことを思い出せない
□ 処方箋や診察券を紛失する
□ 検査室へたどりつけないなど医療施設内で迷う
□ よだれや唾液が増える
□ ろれつが回っておらず、言語が不明瞭である
本人がチェックして該当する行動が3個以上ある場合、または家族が疑わしい人を見て、該当行為が5個以上あれば認知症グレーゾーンの可能性がある。
※日本老年精神医学会が掲載しているMCIチェックリストをもとに本誌作成