介護エンターティナー石田竜生さん「老いを楽しむリハビリ体操」動画は980万回再生!
お笑い芸人と作業療法士を融合させた“介護エンターティナー”として活動する石田竜生さん。白髪のカツラをかぶり“たつバア”として全国の施設を巡る。YouTubeチャンネルで毎日配信しているリハビリ体操は総再生数980万回再生の人気だ。介護業界に笑いを届ける石田さんの活動の背景や想いを聞いた。
石田竜生さん
1983年 富山県出身。大学卒業後、作業療法士として老人保健施設で勤務。その後、デイケアで働きながら大阪よしもとの養成所に通い、フリーのお笑い芸人としても活動。介護とお笑いを融合させた「介護エンターテイナー」と名乗り、ボランティアやセミナーを日本各地で開催。YouTubeチャンネル「介護エンターテイメントチャンネル」で体操やレクレーションのコツを配信中。
石田竜生さん「介護エンターティナー」が誕生した理由
「ハイ、みなさん一緒に手拍子の体操をしましょう!」
高齢者施設のレクリエーションで、石田竜生さん(以下、石田さん)は、白髪のかつらをかぶって「利用者のみんなと”同い年”」に扮装してリハビリ体操を教える。
――手拍子のタイミングがちぐはぐになり、間違える人が増えるたびに、どっと笑いが起こる。石田さんの手にかかれば手拍子も体操になり、みんなが笑顔になる。
「利用者さんの前でリハビリ体操をすることは、お笑い芸人として学んできたことが生きていると感じています。
失敗することを笑ったり楽しんだりするのは、お笑いのカテゴリーのひとつ。失敗してもいいんだという空気を作るのが非常に大事で、うまくできなくてもそれを受け入れてみんなで笑うことで、元気になって欲しいと思っています」
介護エンターティナーとして約10年、全国の介護施設を回り、活動する石田さんの原点とは?
お笑い芸人と介護の仕事を始めた経緯
「お笑い芸人はずっと夢でしたが、20代の頃は勇気がなくて一歩踏み出せないでいました。お笑いの仕事1本でやっていくのはなかなか難しい世界なので、何か資格があれば役立つかもしれないと、大学で作業療法士の資格を取りました」
石田さんは大学を卒業後、富山県の老人保健施設(老健)に入社し、作業療法士として働いていた。
「23才のとき、どうしてもお笑いの夢が諦めきれず、大阪の吉本興業の養成所NSCに入りました。東大阪のデイケアでパートとして働きながら、並行してお笑い芸人として活動を続けていました」
お笑いと介護、二足の草鞋を履いた生活を7年続けていたが、ある時、決心をする。
「お笑い芸人をやって、作業療法士もパートでやって、どっちも中途半端だなぁと感じていて。“笑いと介護”この自分の強みをどうしたら生かせるのかと考え、ひらめいたのが『介護エンターティナー』。自らそう名乗ることで、夢と仕事を結びつけたんです。自分の好きなこと、強みを突き詰めていこうと腹をくくったんです」
僕の体操で立ち上がってくれた人がいた!
介護エンターティナーとして活動する中で、心がけていることがあるという。
「みなさん初対面ですし、体の状態も分からない状況で、リハビリ体操をするわけなので、イマイチ反応が薄かったり、こちらがボケて笑って欲しいのに、うなずかれて終わっちゃったり、いわいるスベることもあります(笑い)。
でも、僕のレクリエレーションは、笑わせることよりも、体を動かしてもらうことがゴール。ウケることがすべてではなく、しっかり体を動かしてくれて、しっかり声を出してくれたら、それがゴールだと思っています。一緒にその場の空気を楽しんでもらえるように心がけています」
ある施設に行った時、とても印象的な事があったという。
「東北地方の高齢者施設に行った時、後ろの方に車いすに座っている利用者さんが、僕の体操で『覚醒した!』と感じた瞬間がありました。普段は車いすでほとんど動かないかたが、僕の声かけに一生懸命手を動かして、さらには、立ち上がって体操もしてくれた。これは嬉しかったですね」
いつもと違う利用者さんの様子を見て、施設のスタッフたちがものすごく驚いていたという。
「僕のリハビリ体操がきかっけで、その場の空気が楽しくて、気持ちが乗ってきてくれたのかもしれない。リハビリ体操は、体を動かす以前に、やりたくなる“気持ち”が大事だと思うんですよね」
石田さん流「老い」を楽しむリハビリ体操
「高齢者のみなさんとレクリエーションをしている中で、“老いを楽しむ”ことが大切だと気がつかされました。リハビリ体操ができなくても、みんなで笑い飛ばせばいい。できないことを認識して、それじゃあ次に何ができるのかという、目標にもつながると思うんです。
人生100年時代なんて言われちゃうと、ずっと健康でいなくちゃいけない、病気しちゃいけない、動けないことはダメなんだという風潮になりがちですが、そうじゃなくて、いったんできなくなった自分を受け入れたうえで、努力していきましょう、楽しみに変えちゃいましょうと。僕はそういう気持ちでリハビリ体操を利用者のみなさんと楽しんでいます」
リハビリ体操は日常生活の中にある!
そんな石田さんのリハビリ体操は、YouTube「介護エンターテイメントチャンネル」でも大人気。1000本を超える動画を配信する中で、人気なのが15分間体操だ。
「僕のYouTubeを流して一緒に体操をしてくださっているデイケアや介護施設も多いみたいで、嬉しいですよね。15分くらいの時間がちょうどレクリエーションにあっているのかもしれません」
毎日新たな動画を配信し、数多くのリハビリ体操を編み出し続けているが、アイディアはどこから生まれるのだろう?
「着替えとか料理とか、日常生活の中でする動きってたくさんあるじゃないですか。たとえば、洋服を脱ぐときには腕を上げますよね、『じゃあ、服を脱ぎやすいようにするには片方の腕を上げましょう!』といった感じで。リハビリになるかどうかとか難しく考えずに、日常生活の動作に結びつけることで、いろいろな動きが出来上がってくるんです。
“季節”をテーマにしてみてもいいんです。夏だったらそうめん。そうめんは吸う力が大切だから、そうめんを食べる口の動きをやってみましょうとか。日々の生活と、春夏秋冬の行事や食べ物を取り入れることで、リハビリ体操のアイディアは無限!ネタ切れすることはありません(笑い)」
介護エンターティナーの今後の目標
「今後は、介護と一般企業を結びつける活動をしていきたいと考えています。なぜかというと、これだけ介護が必要な人が増えている世の中で、僕らのような専門職だけではなく、一般企業で働く人たちも介護のことを知る必要があると思うんです。
たとえば、飲食業で働いていて、認知症や障がいを持つお客さんが来たら、どう対応すればいいのか。金融業で働く人が、要介護の人やご家族に商品をすすめるには、どうするのか…。そう考えると、介護業界だけでなく、一般企業で働く人も、介護の知識が必要になりますよね。
さまざまな職種の人が介護の世界を知り、そこで得た知識を自分の仕事にいかすことで、世の中はもっと良くなるんじゃないか。介護エンターティナーとして、その橋渡しができたらいいなと思っています」
唯一無二のジャンル“介護エンターティナー”として注目の石田さんは、高齢者向けのユニークな商品を開発して話題に。次回、詳しく紹介します。
写真提供/石田竜生さん 取材・文/吉田麻衣子
■YouTubeチャンネル「介護エンターテイメントチャンネル」
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