「自然療法」を確立した自然食研究家・東城百合子さんの生き方「どんなに暗い夜でも必ず明るい朝が来る」
東城百合子さんは、自身の闘病体験をきっかけに自然食を中心とする「自然療法」を確立。生涯を人々の健康のために尽くし、2020年に94才でその生命を全うした彼女が、闘病時に実践した食生活や療養法を丁寧にまとめた著書『家庭でできる自然療法』は、1978年に刊行されて以来、累計100万部を突破したロングセラーとなっている。彼女が語った「自分を生かす言葉」とは――。
自然療法とは生き方を変えること
自然療法はそうそう簡単なことじゃないのよ。「どれをどれだけ食べればいいですか?」とか「何をすれば治りますか?」なんて薬と勘違いしてるんじゃないかしら。
自然療法というのはね、まずは生き方から変えていかなきゃだめなんです──これは東城さんが84才のとき、インタビュアーを相手に熱弁をふるった発言の一部だ。
頭痛がすればすぐに鎮痛剤をのむことができ、足りない栄養があればサプリメントによってピンポイント補給できる一方、薬への依存やがん患者の増加などが問題になっている現代だからこそ、その言葉が深く心に響く人が多いといえるだろう。フードコーディネーターの根本きこさんが言う。
「最近は、医師や薬に頼って治してもらうのではなく、自分で何とかしてみよう、という気持ちが芽生えている人が増えている印象を受けます。私はそもそも、体には自然治癒力が備わっていると体感しています。それを底上げするもののひとつが毎日の食であり、それに併せて自然療法といった手当ても助けてくれると思います」
→いま改めて注目が集まる伝説の自然食研究家東城百合子さんの“人生を変える自然療法”とは?「食を制するは人生をも制す」
なぜいま「自然療法」に注目が集まっているのか?
環境問題や食の安全・安心への関心の高まりも、自然療法に注目が集まる要因だろう。あしかりクリニック院長の芦刈伊世子さんが言う。
「いまはネットで調べればすぐに、残留農薬や合成調味料の健康への悪影響がわかる時代。できるだけ自然の食材がいいと考えるのは、当然の帰結ともいえます。また、働く女性が増え、特別なことをする時間がないなかで、子供も自分も体にいい生活をするためにはどうしたらいいのかと考える人が増えている。そのひとつの答えが、東城さんが身をもって実践してきた自然療法なのだと思います」
実際、東城さんも2人の子供を育てながら健康運動に奔走した「働く母」のひとりだった。
かつてのインタビューで「いちばん大変だったのは健康運動がようやく軌道に乗ってきた頃、二人三脚で頑張ってきた主人が、突然家を捨て、2人の子供も捨てて、別の女性と一緒になってしまったときです」と明かしていたように、病気の苦しみだけではなく、ひとりの女性として人生の岐路に立たされながらも必死に活動してきた。
そうした経験に基づき、「気の持ちよう」も健康につながると考え、「自然療法は生き方であって心の在り方。方法ではない」とも訴えてきた。そんな東城さんの教えを知る、現役の歯科医として働く鈴木歯科医院(千葉県東金市)の鈴木能文さんは、「私も患者さんに、『食べ物と気の持ちようが大切』だと伝えている」と話す。
「歯は単に治療すればよくなるのではなく、食べるものと気の持ちようが健康を作る。それを伝えたいという思いで、日々患者さんに向き合っています」
厳しくて優しい人だった
数々の教えを残し、3年前、94才で亡くなった東城さん。生前を知る人たちは、“厳しくて優しい人だった”と口を揃える。佐藤市子さんは、そんな東城さんの人柄を表す思い出を振り返る。
「15、16年ほど前に一度、先生が私の地元に講演にいらっしゃったので、昼食を作ったことがあります。その頃はまだ玄米をうまく炊けなかったので、先生は『おいしくないわ』とはっきりおっしゃいましたが、手作りの梅干しを『とてもおいしい』とほめてくださったことをはっきりと覚えています。その言葉が励みになって、いまも毎年、15㎏くらい梅干しを漬けています。
先生の自然食を伝える料理教室を始めたとお伝えしたときは、『伝えていくということはいいことだから、がんばりなさい』とおっしゃっていただきました。普段は厳しい先生だからこそ、言葉の重みや温かさを感じました」
「先生の厳しい面を講演会で見たことがある」と話すのは、芦刈さんだ。
「講演会が終わると『そこに座っているあなた、どう考えられてるの?』と壇上から当てられるのでこちらも気が気ではない(笑い)。例えばあるとき、先生に『子供が朝、起きてこないんです』と相談した女性がいたのですが、それに『いまの人は甘やかしすぎているのではないか。洗濯ものは朝、必ず子供にさせるなど“仕事”を作ってやらせることを習慣化するべきです』と答えた後、ほかの男性に『それではあなたがもし、子供から学校に行きたくないと言われたら、どうしますか?』と問いかけたことがありました。
子供の教育は、誰もが当事者であるという先生の信念の表れだったのだと思います。そんなふうに、聞かれたらドキッとするような、人間の本質に迫る質問を簡抜入れずになさるのが東城先生でした。ご自身の考えをしっかりお持ちなので、みんなの前でも思ったことをズバリとおっしゃるんです」(芦刈さん)
その根底にあるのは「心も体も健やかに生きてほしい」という切なる願いだったのだろう。
実際、晩年に出版した著書の中で乳がんを患い、必死に甘いものをセーブしようとするも「どうしてもやめられない」と悩む料理教室の生徒に「食べたかったら食べればいいじゃない」と言葉をかけ、その代わりに2つのルールを設けたという。
1つ目は「中和させるために野菜など体にいいものをしっかり食べること」、2つ目は「よく動いてエネルギーとして使ってしまうために、料理教室の助手を務めること」だった。その生徒は東城さんのもとで忙しく働き回るうちに次第に甘いもののことが頭から消え、気がつくと病気も治っていたのだという。責任ゆえ、愛ゆえの厳しさなのだ。
鈴木さんが、強く覚えているのは、「どんなに暗い夜でも必ず明るい朝が来る」という一言だ。
「これは人生に迷ったときに支えになる、非常にいい言葉です。私自身、診察を受けに来た患者さんには、来たときよりも元気な気持ちで帰ってほしいと思っています。そのためには、つらいときほどよく笑うこと。東城先生のように自分の信念を持って、明るい気持ちを持つと、周りの人も明るくなるんです」(鈴木さん)
自然を敬い、命を大事に、人を大切にして生きること。東城さんの健康運動には、健康法というメソッドを超えた生き方の極意がちりばめられている。
→医師も実践!東城百合子さんが確立した『自然療法』|薬に頼らず体を治す“手当て”とは?痛みや熱に「こんにゃく」や「豆腐」を対処する方法
東城百合子さんの「自分を生かす言葉」
◆「自然療法というのは、まずは生き方から変えていかなければだめ」
◆「生きることは、掃除・洗濯・料理です」
◆「食べ物は天からいただいたもの。野菜は皮だって全部使います」
◆「気の持ちようが健康につながる」
◆「どんなに暗い夜でも必ず明るい朝が来る」
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2023年6月22日号
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