猫が母になつきません 第346話「あたたかい」
不本意ながら自転車ではなく電動カートに乗せられる母。練習で近くのスーパーまで行ってみる。頭には帽子型ヘルメット。一見帽子に見えますが、ヘルメットを布で覆ったようなもので、顎紐もついています。「段差!段差!」「止まって!」「ゆっくり!」ガミガミ言いながら追っかけて行く私とマイペースな母。2人の関係は一目瞭然。ドライバーや歩行者の方たちはみな道をゆずってくれました。でもそれは見るからに危なかしいからというだけではなく、あたたかく見守ってくれている感じもあってありがたいと思いました。途中、ひとりで散歩しているおじいさんに話しかけられました。まだ乗り始めたばかりで練習中なんですと話すと「うちのばあさんにもこんなの買ってやろうと思ってたのに、その前に死んでしまった」とぽつり。淋しさと優しさが入り混じった眼差しが前を行く母の後ろ姿に注がれていました。本人が不本意とは知るよしもなく。結局、この時は母がまだ歩けるからいらないとカートは一カ月で返却しました。しかしその後認知症が進んでしまって今は運転操作なんて無理、母がカートに乗ることは事はもうないのです。
【関連の回】
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。