猫が母になつきません 第339話「おわらない」
母の中では父がまだ生きていたり、行方不明だったり、病院に入っていたり、死んだけどまだお葬式はしていなかったり、いろんなパターンを繰り返しながら一ヶ月過ぎた頃、母は毎日お葬式の準備をするようになりました。朝は「お坊さんは何時にくるの?」と聞き、来ないと言っても家中をせかせかと動き回り、座布団を干したり掃除機をかけたり喪服に着替えたり…だいたい昼過ぎにはぐったりして昼寝をしていましたが、とにかくフル回転しているのでこのままで母の体が持たないと思い、とりあえずお坊さんに来ていただくことにしました。急ごしらえの小さな祭壇を一緒に用意して、お布施やお菓子も準備して、当日母はちゃんと喪服を着てお坊さんをお迎えしました。お坊さんには事情を話しておいたので、お経を読んだあと少しお話をして帰られました。正味30分…結果的には全く効果ありませんでした。コロナがまだおさまっていないから誰も呼ぶことはできないと母には言いきかせており、母も「そうよね」と納得したような返事でしたが、実際には誰も来ず、母の手をとって「大変でしたね」とか「元気出して」とか言ってくれないお葬式は意味がなかったのです。「明日は何時にお寺に行くの?」「ちゃんとしておかないと後々笑われるわ」母はお葬式をまだまだ終わらせる気はないのでした。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。