認知症の祖母、いよいよ施設入居へ…。どこがいいのか探してみたら
在宅で6年以上、要介護4で認知症の症状のある祖母を介護しているライターの奥村氏は、このところ、症状が悪化してきた祖母の施設入居の検討を始めた。
費用などを考慮しながら、祖母に合う施設について思案していたら、ケアマネジャーから思いがけない情報を教えてもらったというのだ。
* * *
症状が悪化した認知症の祖母
ここ数カ月、祖母の認知症進行スピードが早い。
徘徊(認知症患者の場合、徘徊と言わないという動きは知っているが、祖母の場合、わたしは徘徊と思っている)や急に興奮状態になることは減少傾向にあるものの、お箸の持ち方を忘れたり、食べ物とそうでない物の区別がつかなくなったり、排尿の失敗があったり…。おむつパッドを口に入れそうになったこともあり、在宅で介護を続けるのは限界間近な状態だ。
デイサービスやお泊まりデイサービスからも「要介護度が1から2段階進行された印象をもちます。以前ならご自身でできたお食事も難しくなってきましたし、自覚がなく排尿することがあります」と報告がくる。
そろそろ介護施設への入所を検討する時期になってきた。
特別養護老人ホーム(以下、特養)や介護老人保険施設(以下、老健)、グループホーム、サービス付高齢者住宅などの介護施設の中で、費用面だけを考えると特養か老健のどちらかに入居したいのだが、祖母の場合は、特養かなと思いながら、ケアマネジャーに相談すると「老健がよろしいんじゃないでしょうか、リハビリや病院との連携はもちろん最後まで看とってくださいますし」と提案してくれた。
「えっ!看取り?老健って在宅復帰を目指す場所じゃないの?」と私は耳を疑った。
看取り率はあまり変わらない特養と老健
ここで、老健と特養、それぞれの施設について少し説明する。
介護老人保健施設(老健)とは介護、介護保険法で「要介護であって、主にその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し……」と定められた厚生労働省が管轄する施設のこと。つまり、在宅復帰を目指す支援やリハビリを提供する役割を担う施設という位置づけだ。一般的には3~6か月毎に入所期間の見直しがある。
公的な施設のため初期費用はなく月10~15万程(居室タイプや要介護度で違う)で、民間施設と比較する安い。施設内は常駐医がいるが、入所先では介護保険、医療保険の両方を使うことができないので、高額な薬を使えない場合がある。レクリエーションは少なめといった特徴がある。
一方、特別養護老人ホーム(特養)は、老健と同じく、公的な施設で「要介護高齢者のための生活施設。入浴、排泄、食事等の介護その他日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行う」とされている。原則として入居期間に限定はなく、生活援助を中心に終始に渡って介護を受けられる施設だ。
老健同様、入居一時金はなく、月々の費用は老健と同程度。食事・入浴・排泄・健康管理・リハビリ・リクリエーションなどのサービスを受けられ、看取りに取り組む施設も多くなってきたという。24時間常駐医がいない施設もあり、入居資格は原則要介護が3~5で、一定の制限がある。
他の介護施設は費用に月30万円以上かかるところが多いとケアマネジャー。我が家の場合は、費用の関係で特養か老健の二択になるのだ。
で、先ほどの話に戻るが、「老健で看取り」と聞いて驚いたわたしは、ケアマネジャーに「老健はあくまでも在宅復帰を目指す場所ですよね」と聞くと、「一応、建前は在宅復帰ですが、そうとも限りませんよ。老健でも施設によって方針が違って最後の看取りまで対応してくれるところがあります。10年以上認定調査などでやり取りしている老健で、そのような対応をしているところを知っていますよ」と教えてくれた。
老健でも特養のような役割を果たす施設もあるのだという。
さらにケアマネジャーさんは「その老健は、中の職員さんもとても親切に対応してくださるし、リクリエーションもわりと活発にしているので、お祖母様にはよろしいのではないかと思います」と、紹介してくれた。
老健で看取り…。本当にそうなのかと思い、早速調べてみると、社会保障審議会・介護給付費分科会「介護報酬改定検証・研究委員会」に厚生労働省が提出した2015年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査で興味深いデータを見つけた。
施設での看取りは、実に特養76.1%、老健64.0%、介護療養の81.9%と、老健は特養とほぼ変わらないパーセンテージで行われていたのだ。
祖母らしく暮らせるためには
入所者のうち在宅介護が可能な人の割合をみると、特養は5.4%、介護療養が11.8%であるのに対し、老健は27.4%とダントツに高い。在宅復帰を目指す人が入居する施設なので、当然の数値とも言えるが、これは、別の見方をすると、祖母は比較的元気な利用者に囲まれながら生活を送ることができるという証ではないだろうか。
また、老健は、しっかりとリハビリを受けられるのが大きな特長だ。作業療法士・言語聴覚士・理学療法士といった専門的な資格を有した人たちが数多くいて、週3回程度リハビリをしてくれるという。
一般的に、老健はリハビリが中心でレクリエーションはそれほど活発でないところが多いというが、今回、ケアマネジャーが紹介してくれた老健では、夏祭り、クリスマス会、地域の祭り、誕生会など季節の催し物なども積極的に行っているというのも魅力的だ。
職員も親切だというし、祖母のケアマネジャーもよく知っているその老健だったら、ADL(日常生活動作)の低下を少しでも防ぎながら、祖母らしく過ごせるのはないかと思い、現在入所の方向で話を進めている。
私が紹介されたような老健のタイプはけっして少なくないとケアマネジャーは言う。
「在宅復帰は難しいかもしれない…」といった思いで、特養だけを探すつもりだったが、老健を視野に入れることができた。あくまで個人的な意見だが、我が家のように、それぞれの施設の特徴の固定概念を外してみると、施設探しに新しい気づきがあるかもしれない。
奥村シンゴ
プロフィール:大学卒業後、東証一部放送・通信業界で営業や顧客対応などの業務を経験し、6年前から祖母の認知症在宅介護を経験中。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディア、阪神地区のテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。他時折テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。