ぼやける・ゆがむ…「加齢黄斑変性」はどんな病気?最新治療研究の成果
「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」は、50歳以上の80人に1人に起きる目の病気だ。加齢とともに起こりやすいことから、高齢化にともなって患者数は増加。有病率は1998年には0.9%だったが、2007年には1.3%、2012年には1.6%と徐々に増加。失明など視覚障害の原因となる目の病気のなかで、黄斑変性は8.0%で第4位となっている。
この病気の治療に関する最新研究の成果を、関西医科大学 眼科学教室主任教授高橋寛二先生が発表した(2018年10月)。
加齢黄斑変性とはどんな病気?
眼球の中で、映像を映すフィルムにあたる部分が「網膜」だ。網膜のなかでもっとも視力・色覚の感度がよい部分を「黄斑(おうはん)」という。ここに異常が起きる病気が加齢黄斑変性だ。
加齢黄斑変性が起きると、物がゆがんで見えたり、視力が低下してぼやけて見えたりする。症状が進むと視界の中心部に暗い点ができてものが見えづらくなる。
●ぼやけて見える
●ゆがんで見える
●中心部が見えにくい
このような症状のため、日常生活には次のようなさまざまなトラブルが起きる。
「両眼にこの病気がおきると読書などの趣味に打ち込むこともできないため、うつ傾向が高くなります」(以下、「」内は高橋先生)
加齢黄斑変性によって起きるトラブルの一例
●買い物の際、値札や財布から出したお金が見えない。
●まな板の上にある食材が見えず、調理ができない。
●外出中は遠くから来る人の顔が識別できず「無愛想になった」などと言われる。
●道路標識や信号が見えないため、出歩いたり運転したりするのが困難になる。
日本人に多いのは「滲出型」
加齢黄斑変性には主に「萎縮型」と「滲出型(しんしゅつがた)」がある。
日本人では、加齢黄斑変性の9割を占めるのが滲出型だ。滲出型加齢黄斑変性(wAMD)は網膜の奥に不要な血管ができ、網膜に浮腫や出血が起きて、視力が急激に低下するというもので、失明など重い視覚障害のリスクが高い。治療を受けないまま2年間放置すると、視力が約0.4から約0.1未満に下がり、両眼に発症すると視覚障害者の認定が必要になるほどだ。
危険因子は、第1は加齢で第2は喫煙。wAMDは日本では3:1の割合で男性に多いが、これは男性のほうが喫煙率が高いからと考えられている。ほかに、高脂肪食や肥満、ビタミンA・C・Eなどの抗酸化物質の摂取不足もwAMDの要因になる。
「wAMDに対しては30年ほど前までは治療法がありませんでした。その後、さまざまな治療法が開発され、2008年には『抗VEGE薬』が登場しました。これは分子標的薬の一種で、これを眼球の内部に注射することで不要な血管を小さくし、網膜の浮腫や出血を抑えるというものです」
抗VEGE薬が登場したことで初めて、wAMDにかかっても視力の改善・維持ができるようになった。現在では、抗VEGE薬がwAMDの標準治療となっている。
治療を長続きさせるためのスケジュール作り
抗VEGE薬が登場して以来、問題となってきたのは投与スケジュールだ。
「2008年にこの薬が出たときは、毎月投与するのが理想とされてきました。しかしそれでは患者さんとドクター双方の負担が大きすぎる。そこで3ヶ月ごとの投与にしてみたら効果が持続せず、視力が下がってしまいました。そこで生み出されたのが『PRN』という方法です。これは毎月検査をして、悪くなったときだけ薬を投与するという方法です」
しかしPRNの場合、投与の回数を減らすことができても、視力や病状がどう変化するかを調べるために眼科を毎月受診しなければならない。それでは患者とドクターの負担はさほど軽減されない。
そこで開発された投与スケジュールが「トリート&エクステンド」だ。まず、導入期の3ヶ月間は4週間おきに3回投与する。その後、検査をして眼の状態を見ながら、主治医がその人に合わせて調子がよければ6週ごと、8週ごと、10週ごとなど、投与スケジュールを決めてゆくというもの。投与の前にはかならず検査を行い、視力と病状が安定していれば投与の間隔を開け、調子が悪ければ間隔を短くする。
ここでポイントとなるのは、どの抗VEGE薬を選ぶかということ。
2013年に新たな抗VEGE薬として登場した『アイリーア』は眼球内に長く止まり、効果を発揮するという特性がある。そのため海外で行われた臨床試験によって、維持期の投与間隔を2ヶ月おきにしても従来の薬と遜色のない効果が期待できることがわかった。また最近、日本国内でもトリート&エクステンド法を用いた臨床試験が行われ、『アイリーア』を使用した患者では96週間(2年)にわたって改善した視力が維持できたと発表された。
「これまでは薬を投与する間隔を2週間幅で調整していましたが、日本国内での試験によって『アイリーア』を使った場合、投与の間隔を4週間幅で調整できることがわかりました。また、試験に参加した50%近くの人で4ヶ月ごとまで間隔を開けても視力と病状に悪影響がありませんでした。これは、患者さんにとっても医師にとっても負担が大きく減るということ。
加齢黄斑変性は今のところ完治させる方法がなく、長く付き合わなければならない病気です。そのためにも、目の状態を維持しながら、患者さんもその家族もできるだけ楽に治療に取り組める方法を医師と一緒に探してほしいのです」
画像提供/バイエル薬品 取材・文/市原淳子