「加齢黄斑変性」介助者の負担を軽減も考えた治療の進め方
「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」とは、高齢者に多い目の病気のひとつ。
日本の患者数は70万人で、視力を失うなど視覚障害の原因の第4位となっている。しかし現在では、適切な治療を受ければ加齢黄斑変性にかかっても視力の改善・維持ができるようになってきた。
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問題は、患者に付き添う家族の負担だ。加齢黄斑変性にかかると視力が急激に落ちるため、運転はできなくなり、信号などの交通標識を認識するのが難しくなる。そのため家族などの介助者が患者を眼科の病院まで送迎する必要がある。また、視力が回復しても、それを維持するために長期間にわたり通院しなければならない。
眼科医の塙本宰(はねもと・つかさ)先生はバイエル薬品が開催したプレスセミナー(2018年10月)で、「加齢黄斑変性の治療には時間がかかるため、患者さんご本人だけでなく、付き添いをする患者さんのご家族にも大きな負担となります。それをできるだけ軽減するために、“治療の進め方”をよく考える必要があるのです」 と話した。
加齢黄斑変性の9割が「滲出型」
眼球の奥の中心部分で、視力がもっとも高い部分を「黄斑(おうはん)」という。ここに異常が起こり、視界がゆがんだり、視界の中心に暗い部分ができたりして目が見えにくくなる病気が加齢黄斑変性だ。
加齢黄斑変性には、滲出型(しんしゅつがた)と萎縮型の2タイプがあり、滲出型が約9割を占める。
「どんな人でも、黄斑には徐々に汚れのようなものがたまります。若いうちは汚れを自然に取り除く力があるのですが、年齢を重ねると掃除がヘタになり、汚れがたまったままになるため黄斑に傷が入ってしまいます。その傷を治そうと、その部分に血管や肉の塊のようなものができて腫れ上がり、視力が落ちるのが滲出型加齢黄斑変性(wAMD)です。眼球の奥に良性の腫瘍のようなものができる病気ととらえればよいでしょう」(塙本先生、以下「」内同)
治療スケジュールの選び方で介助者の負担が変わる
wAMDに対しては現在、「抗VEGF薬」を投与するのが標準治療となっている。まず、麻酔の点眼薬をして、しっかりと消毒した後、まぶたを開く「開瞼機(かいけんき)」で目を開き、ごく細い注射針で、黒目から3.5~4mmのところに抗VEGF薬を0.05ml注射するというものだ。
最初の「導入期」には、これを4週間おきに3回行う。その後は患者の状態に合わせて、2つの投与スケジュールのうちいずれかを選ぶことになる。
「その選び方が、介助者の負担を大きく左右するのです。以前、患者さんの家族にヒアリングしたところ、付き添いのために仕事を休む人が多いことがわかりました。検査と治療には合計4時間ほどかかります。患者さんは70代以上の高齢者がほとんどで、視力が低下していて運転ができません。
私の病院がある水戸市は地方都市の御多分に洩れず、公共交通機関があまり発達していませんから、誰かが患者さんを病院に送迎しなければなりません」
どのような治療スケジュールを立てれば、治療の効果を維持しつつ、介助者の負担を減らせるか。塙本先生は、ご自身が副院長を務める茨城県水戸市の小沢眼科内科病院でwAMDの治療を受けている患者71人とその家族を対象に調査を行なった。
介助者にアンケート調査を行なったところ、55%が患者の配偶者かパートナーで38%が子供と、家族が付き添うケースがほとんど。また、介助者の47%が有職者で、月に1~2回、付き添いのために休みをとっていた。8割の患者が、毎回同じ人に付き添われていることもわかった。
2つの治療スケジュール、どっちが楽か?
wAMDの治療スケジュールには「PRN」と「トリート&エクステンド(T&E)」の2つがある。いずれも導入期は4週間ごとに3回、抗VEGF薬を投与するのは同様だ。
その後、PRNでは眼科検査のためにほぼ月1回通院し、状態が悪くなったときだけ投与を行う。一方、トリート&エクステンドでは最初の2年間は状態がよくても、診察と投与を2~4ヶ月ごとに定期的に行う(投与の間隔は主治医の判断による)。
実際の通院回数を比べたところ、治療1年目はPRNでは14.0回だったのに対し、トリート&エクステンドでは7.9回と、後者のほうが有意に少なかった。ちなみに2年目はPNRは9.0回、トリート&エクステンドは5.7回で、後者のほうが少ないものの、有意差は見られなかった(下グラフ参照)。
会社を休んだり、交通費をかけたりすることによる経済的損失についても比較したところ、トリート&エクステンドの損失の方が少なかった。
1年目の損失額はPRNでは約15万3000円なのに対し、トリート&エクステンドは約7万9000円。2年目はPRNが約9万9000円でトリート&エクステンドが5万8000円だった。
「介助者の方にお話を聞いたところ、『(トリート&エクステンドで)来院のスケジュールが決まっていたほうが休みが取りやすくて助かる』という声が聞かれました。調査の結果でも、それが裏付けられました」
視力の維持にもトリート&エクステンドが有効
介助者の負担が減っても、加齢黄斑変性の症状がよくならなければ本末転倒だ。その点についても、塙本先生は確認を行なった。
抗VEGF薬の投与回数を比べると、1年目でも2年目でも、トリート&エクステンドのほうが平均投与回数が多かった(1年目、2年目の投与回数は、トリート&エクステンドが3.4回と6.0回、PNRは1.4回と4.1回)。
患者の視力を調べたところ、トリート&エクステンドでは治療開始から2年後も視力をほぼ維持できたが、PRNでは視力がもっともよくなった時期から比べると低下していた(下グラフ参照)。
「PRNを選んだ人では、毎月検査にきていて、ちょっと変化があっても『もう少し様子を見たい』と注射を敬遠してしまいます。その結果、視力の低下を招いたと考えられます。視力を守るには、『いつ注射するか』をあらかじめ決めておいたほうがよいのです」
クルマが足代わりとなっている地方都市ではとくに、治療スケジュールの立て方によって家族の負担は大きく変わる。wAMDのように選択肢がある場合は、患者にもご家族にもメリットがある方法を医師に相談してみることが大切だ。
取材・文/市原淳子
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