「二人暮らしの両親、父が作った料理を母が残して困ると父が嘆いています」娘からの相談に毒蝮三太夫が提言
二人で暮らしている高齢の両親。本人たちはまだまだ元気なつもりでも、子どもとしては心配が尽きない。「もう炊事は一切しない」と宣言した母親と、それまでしたことがなかった料理に奮闘するようになった父親。ちょっとすれ違い気味の二人の間に挟まれて気を揉む57歳の娘に、マムシさんが現実的な対処法を提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「母が父の作った料理をホメない」
北京で冬のオリンピックをやってるけど、やっぱりスポーツっていうのはいいもんだな。メダルを獲ることはもちろん素晴らしいんだけど、大会の前半では獲れなかった選手に大きな感動をもらった。とくにスキージャンプの高梨沙羅選手と、フィギュアスケートの羽生結弦選手には、力いっぱい拍手を贈りたいね。ホント、よくやったよ。
今回は、57歳の会社員の女性が送ってくれた80代の両親についての相談だ。
「80歳の母と85歳の父は二人暮らし。このたび母が『もう炊事は一切しない』宣言をしました。もともと料理が苦手でお総菜を買って食卓に並べることが多かったのですが、宣言した後は、お茶を淹れるどころかお湯をわかすことさえしなくなりました。
そこで、料理とは無縁だった父が料理本を読み込み、日々料理に奮闘するようになりました。母は気が楽になり、父も新たな張り合いができたのはいいのですが、母は食が細く、父の作った食事をたくさん残します。それを父はとても気にして、私に連絡をしてきます。
父の料理を何度も食べましたが、レシピ通りに作っているので、ちゃんとおいしくできています。『お母さんが食べないのは、まずいからじゃないから気にしないで』と伝えるのですが、父は父で一生懸命作ったものを認めてもらえないと嘆きます。だんだん調理も負担になってきているようで、母に嫌みを言うようにもなりました。
母は母で、もう少し感謝の言葉を言えばいいのですが、今までどれだけ自分が大変だったかという話ばかり。母の気持ちも父の気持ちもわかるだけに、切なくなってしまいます。二人にどんな言葉をかけるのがいいでしょうか」
回答:「奮闘しているお父さんは偉いけど、恩着せがましい態度はだめだと思うよ」
なるほどねえ。娘のあなたとしては両方の言い分を汲んであげたいだろうけど、衝突の原因は明らかにお父さんにあるよ。歳をとったら、どうしても食が細くなる。いらないってものを無理に食わせようとするお父さんがよくない。お寺で山伏が山盛りのご飯を「食え、食えー」ってやる強飯式(ごうはんしき)じゃないんだから。
お父さんも、やったことがなかった料理に目覚めて、奮闘しているのは偉いと思う。俺だったら、やれって言われたってできないからね。ただ、「頑張って作ったんだから残さずに食べろ、もっとホメろ、もっと感謝しろ」ってのは、独りよがりな要求だよ。認められたい気持ちはわかるけど、相手の都合や気持ちも考えなきゃね。
お母さんだって、毎度毎度、恩着せがましい態度を取られたら、だんだん「意地でもホメてやるもんか」っていう気になってくる。しかも、勝手に負担を感じて嫌みを言われたんじゃたまったもんじゃない。本末転倒っていうか、悪循環になってるみたいだな。
まあでも、あなたに電話してきて愚痴をこぼすなんて、お父さんもかわいいところがあるじゃない。まずは、お母さんの代わりに、あなたが「お父さんにここまでしてもらって、お母さんは幸せね」とか何とかたっぷりホメてやってくれ。お父さんばっかりホメるとお母さんがスネるから、「今まで本当に大変だったわよね」とねぎらうことも忘れずにな。
お父さんはヤル気はあるわけだから、食が細いお母さんでも食べられる工夫をしてほしいね。4種類か5種類のおかずを少しずつ盛り付けて、バイキング形式で「好きなものをどうぞ」と出してみるとか、子ども用のお弁当箱を利用して盛り付けを工夫するとか。それだったら、お母さんだって手を付けやすいはずだ。
もちろん手間はかかるけど、お母さんも「ここまでしてくれるなんて」と感謝して、「この煮物はなかなかね」なんてホメ言葉も自然に言うようになるよ。お父さんが「そんな面倒なことができるか」なんて言ったら、「お父さんの料理の腕を見せつけてあげなさいよ」「お母さんに尊敬されるわよ」てな感じでおだててみよう。
そもそもお父さんは「今日は何を食べたい?」ってことすら、お母さんに聞いてないんじゃないかな。俺たちの世代の悪い癖だけど、とくに夫婦だと、肝心なことを聞いたり言ったりしないことが多い。いきなり「今日はこれを食え」じゃなくて、ひとしきり会話があって「じゃあ、魚の煮付けにするか」となったほうが、食事中の会話もはずむはずだ。
ともあれ、二人とも元気なのは何よりだね。高齢の夫婦の場合は、相手の文句を言うことがストレス解消になっていることもある。そこはあなたが、うまい具合にクッションになってやってくれ。ケンカばっかりしてても、じつは仲がよかったりするもんだ。あんまり深刻になり過ぎないで、なだめたりおだてたりを楽しむぐらいでいいんじゃないかな
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。去年の暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。映画『老後の資金がありません!』では、元警察官の頑固ジジイ役で名演技を見せている。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
いしはら・そういちろう 1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。