介護職員が入所者に「ジジイ」「ババア」と言っても大丈夫?|「マムちゃんの毒入り相談室」
2022年の幕が切って落とされた。「まだまだ青春ど真ん中! 今年も楽しい1年にしたいね」と、マムシさんはますます意気軒高である。年明け最初の相談は、若い頃からマムシさんの大ファンで、「ジジイ、ババア」を連発するマムシ節に憧れてきたという介護施設勤務の男性から。欲求に負けて人生を台無しにしない方法を伝授する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「高齢者に愛をこめてジジイ、ババアと言いたい」
謹賀新年だ。正月はどうだったかな。誰にだってそれぞれ悩みや苦労はあるけど、新しい年は新しい気分でスタートしちまおう。俺も、まだまだおとなしくするつもりはない。ジジイもババアも、気持ちだけは「青春ど真ん中」で行こうじゃないか。
今回は、47歳の介護施設に勤める男性からの相談だ。深刻なのかそうでもないのかよくわからないけど、きっと当人にとっては深刻なんだろうな。
「若い頃からマムシさんの大ファンです。『この佃煮ババア』『鰹節みたいなジジイだな』といったマムシ節に憧れています。高齢者に対する愛と尊敬の念を感じるし、言われた側もそれを感じて大喜びしているのが本当にすごいと思います。
今は介護施設で働いていて、まわりはジジイとババアばかりです。マムシさんのように、入所者さんに愛をこめて『ジジイ、ババア』と言いたいのですが、さすがに言えません。言えないとなると、ますます言いたくなります。この突き上げてくる欲求をどう抑えればいいでしょうか。いつか我慢できずに言ってしまいそうな自分が怖いです」
回答:「山に登って『佃煮ババアー』『鰹節ジジイー』って叫ぶといいよ」
佃煮はよく言ってるけど、鰹節は言ったかな。以前、俺が中継の中でジジイやババアになんて言ったか、一覧表にしてくれた人がいたんだよ。自分でも忘れてて「えっ、こんなこと言ったの?」ってのがずいぶんあった。だからきっと言ってるんだろうね。
だいぶ前に、介護施設で「ジジイ、ババア」って言ったことがある。職員はビックリした顔してたけど、そこにいるジジイやババアたちが大笑いした。あとで職員さんが「普段は見たことがない笑顔でした。ああいうふうに笑えるんだということを発見しました」って感激してたな。「だけど、私たちにはできません」とも言ってた。
俺が言ったから笑ってくれたわけだ。そういう意味じゃ、毒蝮三太夫っていうのは特異な存在なんだね。俺が育った下町では「おい、ババア、まだ生きてるか」っていうのが挨拶の言葉だった。おふくろとおやじも、いつもそんな会話をしてた。下地があるから、言われたほうもスッと受け止めてくれる。ひとつ間違えたらケンカを売る言葉だからね。まあでも、許されているいちばんの理由は、この類まれなる知性と美貌のおかげかな。ハハハ。
ラジオの中継で言い始めた頃は、「ババア」って言われて怒って帰っちゃった人もいた。あとで知ったんだけど、リスナーからもずいぶん苦情が来たらしい。だけど、スタッフが偉かったね。「マムシさんはあれでいいんです」って言って守ってくれて、俺には「その調子でもっとやってください」としか言わなかった。
憧れてくれるのは嬉しいけど、同じことをしようとは思わないほうがいい。言ったらクビだろうね。それはわかってるけど、言いたい気持ちを抑えるのに苦労してるわけか。感情を抑え過ぎると人間はロクなことにならない。いっそのこと、口に出してみたらどうだ。
ただし、施設にいるジジイやババアに向かってじゃないぞ。自分の部屋でぬいぐるみの人形に向かって、気が済むまで「ジジイ、ババア」って言ってやれ。腹が立つことを堪忍袋に詰め込むのと同じだ。それでもまだ言いたかったら、山に登って「ヤッホー」の代わりに「佃煮ババアー」「鰹節ジジイー」って叫ぶといいよ。海に向かって叫ぶのもオツだね。
人から見たら笑い話かもしれないけど、あなたにとっては切実な悩みだし、言えないことが大きなストレスになってる。我慢の限界を超えてしまわないうちに、上手に発散してくれ。こうやって相談を送るのも、ちょっとは発散になったかな。
介護職っていうのは、とってもストレスがたまる仕事だ。常に死と向き合いながら、人生の最後を少しでも快適に過ごしてもらえるように、使命感を持ってがんばってくれてる。こんな高貴な仕事はないよ。認知症の入所者に暴言を吐かれることもあるだろうし、下の世話もしなきゃいけない。まさに「聖職」だよね。
だけど、待遇面ではぜんぜん報われていない。俺は前からいろんなところで言ってるけど、とにかく介護職の給料を上げることが大事だ。岸田首相も就任したときは「大幅にアップします」なんて言ってたけど、フタを開けてみたらたった3%だった。元が安いんだから、そんなんじゃぜんぜん追っつかない。50%ぐらい増やしてあげなきゃダメだよ。
日々の仕事もたいへんだし、言いたいことを言えないのもたいへんだけど、目の前の高齢者も日本の社会も、あなたたちに支えられている。心からのエールと感謝を送らせてほしい。からだに気を付けて、今年もがんばってくれ!
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。このほど、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。公開中の映画『老後の資金がありません!』では、元警察官の頑固ジジイ役で名演技を見せている。
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。