「認知症で別人になってしまった母が嫌い」と嘆く女性に毒蝮三太夫が説く気持ちの切り替え方
「親の老い」は、子どもにとって深刻で切ない問題だ。頼もしい存在だっただけに、今の姿をすんなり受け入れられないこともある。認知症が進んで“別人”になった母親を「嫌い」と思ってしまい、そんな自分も嫌いだと悩む57歳の女性。マムシさんがやさしく肩をたたきながら、気持ちをどう切り替えるかをアドバイスする。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「認知症が進んだ母親を『嫌い』だと思ってしまう」
オミクロンだか何だか知らないけど、コロナの野郎もしぶといね。そういえば昔、『ミクロの決死圏』って映画があった。あれを丁寧に言ったみたいな名前だな。そんなこと言ってる場合じゃないか。とにかく、引き続きしっかり感染対策をしていこう。
今回は、認知症が進んだお母さんの面倒を見ている57歳の女性からの相談だ。うん、これはつらいよな。相談を送るのもつらかったと思う。よくぞ話してくれたよ。
「80代の母についての相談です。父はもういません。やさしくて働き者で、とてもいい母だったんです。大好きでした。いい思い出もたくさんあります。でも、数年前から認知症が進んで、すっかり変わってしまいました。
今の母は食べることにしか興味がありません。私との会話も『ご飯は何?』『ご飯はまだ?』ばかりです。食べたすぐあとに『早くご飯にして』と言い出すことも……。こんな母が嫌いです。母を嫌ってしまう自分も嫌いです。認知症だから仕方ないとわかってはいるんですが、自分の気持ちにどう折り合いをつければいいのかわかりません」
回答:「お母さんはもう“別の人”と思おう。でも大丈夫、大切な思い出はなくならない」
まず言いたいのは、あなたは自分を責める必要はないっていうこと。それだけ一生懸命に毎日お世話をしてるってことだし、今もお母さんが大好きだってことなんだから。
人間の感情ってのは厄介なもんで、「嫌いと思うなんて許されない」と自分を抑えようとすればするほど、逆にその感情がふくらんでくる。とりあえずは「本当は大好きだけど、嫌いと思ってしまうこともある」ってことで、そんな自分を許してあげてほしいね。
認知症というのは、その人を大きく変えてしまう。同じ顔してるから元気だった頃と重ねて見ちゃうけど、もう「別の人」になってると思ったほうがいい。過去のイメージを持ち続けていると、毎日「なんでこんなこともできないの」「なんでこうなっちゃったの」と思うことばっかりで、腹が立つし嫌いにもなっちゃうだろうね。
あなたのお母さんは、今は夢の中で生きている「夢追い人」になったわけだ。いっしょの家に暮らしてるのは、あなたが覚えているお母さんじゃなくて、姿かたちがよく似ている別の人なんだよ。しかも、記憶力や理解力があんまりなかったりするから、世話をするのはたいへんだ。本人は夢の中に生きているからいいんだけどね。
もちろん、そう簡単に「別の人なんだ」とは思えない。介護する側はかなりの覚悟がいるよ。経験者やお医者さんの話を聞くと、誰しも最初はしっかりしてた頃の姿を引きずって見ちゃって、イライラしたり憎しみを抱いたりするみたいだ。それがエスカレートすると、虐待なんてことにつながりかねない。そういう事件も、よく聞くよな。覚悟を決めて過去のイメージから切り離して見るようにしないと、お互いが不幸になってしまう。
その上で、ちょっと個性的なタイプなんだと思って、ご飯を食べたことをすぐ忘れちゃったとしても、「そういう人なんだ」と受け止めて許すことが大事だ。もうひとつ大事なのが、相手の尊厳を傷つけないこと。「さっき言ったでしょ!」「もう食べたでしょ!」なんて怒ったって、相手は理解できないんだから。だけど、怒られたらプライドは傷つく。イライラして乱暴な言葉をぶつけると、自分自身が余計にイライラしてくるしな。
先祖返りっていうか、お母さんは幼児になったんだよ。昔のイメージとは切り離して相手を見ることは、認知症になった身近な人を介護する側の義務と言ってもいい。難しいし、お母さんとのいい思い出までなくなっちゃうみたいで抵抗があるかもしれないけど、やらなかったら自分が苦しむことになる。大丈夫、今は今、過去は過去だ。大切な思い出や記憶はなくならないよ。
俺だって家では、カミさんに「3歳児」って言われてるからね。それだけ手がかかるってことらしい。このあいだ電話で誰かと話してて、「3歳児が今起きたから、ご飯の支度してるのよ」なんて言ってた。かなり態度がでかい3歳児だけどな。ハハハ。
親が長生きしてくれるのは、嬉しいことではあるけど、いろいろたいへんなことも起きてくる。お母さんはあなたといっしょに家で過ごせて、きっと嬉しいはずだ。上手に息抜きして、穏やかな気持ちを保って、快適に過ごさせてあげてください。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。昨年の暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。映画『老後の資金がありません!』では、元警察官の頑固ジジイ役で名演技を見せている。
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取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。