毒蝮三太夫が「姑に何も言えない夫」に腹を立てる女性の悩みに贈った言葉
「親との同居」は一筋縄ではいかない。それぞれの価値観がぶつかり合い、しかも夫婦の関係と親子の関係が複雑に絡み合ってしまう。夢だったパン屋の開業を前に、夫の母親と同居することになった52歳の女性。義母への不満を夫に伝えても、夫は何もしてくれない。「離婚も考えている」と憤る相談者に、マムシさんが打開策を授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「義母に何も言ってくれない夫にがっかり」
相談を読みながら、自分の昔のことを思い出しちゃったよ。結婚してまだそんなに経ってない頃、カミさんが実家に帰っちゃったことがあった。お袋とごちゃごちゃあってね。3か月ぐらいひとりでいたかな。親が自分ちの敷地に建てたアパートに安い家賃で住んでたんだけど、距離が近すぎるとなかなか難しくてね。
今回の相談を送ってくれたのは52歳の女性。ずいぶん腹を立ててるみたいだな。
「結婚して10年、パン屋さんで働いて修業を重ねてきた夫と、二人で自分たちの店を持つことを夢見て、倹約を心がけて暮らしてきました。ようやく開業の目途が立った時に、夫の父が他界して、義母と同居することになりました。もともと義母は、私が再婚だということもあって折り合いが良くなかったのですが、同居をするようになってから、私たち夫婦のことにいろいろと口出しをするようになりました。
まだ70代前半の義母は体力があり、開業する店も手伝いたいと言っています。それ自体はありがたいことだとわかっているのですが、私がイメージしていた店作り、内装などに対して、義母は贅沢だと言っていちいち否定します。
私が腹が立つのは、そんな義母に何も意見できない夫です。夫を亡くして寂しい母を思う息子の気持ちは、私なりに理解しようと努力しています。でも、これまで二人で店を持つ夢を持って自分なりに考えてきたのに、少しも私の側に立ってくれない夫にがっかりです。何度も夫に私の気持ちを伝えましたが、『もう少し時間をかけて説得するから』と言うばかりで何もしてくれません。夫の態度に離婚も考えるこの頃です。私はわがままでしょうか?」
回答:「離婚も覚悟で、『お義母さんと私、どっちを選ぶの』と腹を割って話した方がいいね」
これはね、旦那が良くない。わがままなんかじゃないよ。あなたの中では、旦那に対する信頼が地に落ちてる。このままお店を開いたとしても、お姑さんが何か言ってくるたびに腹が立つだろうし、旦那には不満がたまるいっぽうだしで、不幸な毎日を送ることになるだろうね。
あなたはたぶん、今のところは本気で離婚しようとは思ってないだろうけど、離婚することになってもいいと覚悟を決めたほうがいいかもしれない。きっと旦那は、自分の女房がそこまで苦しい思いをしてるってことがわかってないんだろう。いや、察してはいても現実から目をそらしているのかな。旦那にとっては厄介で面倒な状況だからね。
まずは旦那と膝を突き合わせて、気持ちを伝えることだな。「私と親と、どっちが大事なの。どっちを選ぶの」って聞いたっていいよ。それで「親が大事」と答えたり、グズグズした態度を続けたりするようなら、「じゃあ、別れます」って言ってやれ。「離婚したっていい」と腹をくくれば、遠慮なく本音をぶつけられるはずだ。
大げさでも何でもなく、あなたは今、人生の重大な岐路に立っている。お姑さんと別居するのか、一緒には暮らすけど店のことに口は出さないでくれと言うのか、それはこれからの話だ。まずは旦那が目を覚まして心を入れ替えないと、事態は良くはならない。「一生に一度の大事な相談があるの」って言えば、旦那も真剣に聞くだろう。
最初のところで、俺もカミさんに出て行かれたことがあるって話をしたけど、あれは自分がバカだった。やっぱりカミさんに「お義母さんを取るか私を取るか、どっちなの」と聞かれて、お袋の具合も良くなかったし長男だしっていうんで、カッコつけて「お袋を取る」って言っちゃった。そりゃ、出て行かれても仕方ないよな。
本気で別れる気はないだろうとは思ってたし、俺も別れる気はなかったけど、戻ってきてくれって言うきっかけがなかった。ある時、カミさんが「親孝行っていうのは、親と一緒に住んでなくてもできるんじゃないの」って。その一言で、アパートを探して引っ越した。あとから考えると、カミさんの手のひらで転がされたわけだ。それで良かったんだけどね。
いつの間にか俺の話になっちゃったけど、つまり夫婦っていうのはなるようになるってことだ。あなた自身も、もしかしたら意固地になってる部分もあるかもしれない。お姑さんは人生の先輩なんだから、学ぶところもあるだろう。最愛の旦那を産んでくれたことへの感謝も忘れちゃいけない。いい関係を続けられる方法がきっと見つかるよ。
そういうことも含めて、必要なのは旦那との腹を割った話し合いだ。とことん旦那に幻滅することになるかもしれないけど、その時は離婚すればいい。相談を読んだ感じでは、そうはならないと思うけどね。怒りや不満をため込んでいるとロクなことがない。勇気を出して旦那に自分の気持ちをすべて話すことで、結果的に夫婦の絆が強まるんじゃないかな。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。去年の暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。映画『老後の資金がありません!』では、元警察官の頑固ジジイ役で名演技を見せている。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。