兄のシモ問題に悩む女性と介護経験をもつイラストレーターが本音トーク「涙が出るときがありますね」
介護ポストセブンのご長寿人気連載『兄がボケました ~若年性認知症の家族との暮らし』。執筆者のツガエマナミコさんと、介護経験を持つイラストレーターのなとみみわさんによるSpecial対談・後編は、悩み深い“シモ”の話題からスタート。ツガエさんは、読者の声に励まされているというが――。
お兄さんのシモ問題に読者の反響が続々!
ツガエマナミコさんのお兄さんは、57才のときに若年性認知症を発症し、現在63才。兄とふたり暮らしの日常を綴った連載『兄がボケました ~若年性認知症の家族との暮らし』は、今年で3年目。
連載でタッグを組む執筆者のツガエさんとイラストレーターのなとみさんによる対談・後編は、お兄さんの“シモ問題”を中心にトークが盛り上がりました。
なとみみわさん(以下、なとみ):「コップにオシッコ事件」(69回)から始まって、本当に日々いろんなことが起きていますよね。あのときは、コップの液体を見て驚くツガエさんをスーパーサイヤ人風に描いてみました。
ツガエマナミコさん(以下、ツガエ):洗面所で兄が歯磨きで使っているコップに黄色い液体が入っていて、あれは衝撃でした。最近はコップにはしなくなりましたが、洗面所で直接している形跡があるんですよ。
なとみ:えええっ、形跡ってどういうこと!?
ツガエ:濡れたような跡がついています。もうトイレがどこかわからないし、トイレに入って便器を見ても、そこで用を足すということ自体もわからないようで。
洗面所にしても、ベランダにしても、わかっていてやっているのか、わからないのか…もう理解ができませんよ。
なとみ:本当に困っちゃいますよね。ばあさん(義理母。88才で他界※)もそうでしたが、認知症の人の行動は想像の範囲を超えてくるときがありますね。
ベランダでオシッコをしてしまう件(81回)にしても、読者のコメントが本当にたくさんあって、色々とアドバイスが寄せられていますよね。
私もブログでばあさんの介護について書いてきましたが、みなさん熱いコメントが多い。特に福祉用具、介護ベッドだとかシルバーカーについて書くと、読者の投稿がすごくって、いろんなことを教わりました。
※義理母の介護を綴ったコミックエッセイ『ばあさんとの愛しき日々』(イースト・プレス)で描いている。
ツガエ:読者さまからの投稿は、全部読ませていただいて、取り入れられるものは試してみています。
ベランダを掃除するのに熱湯を流していたことを書いたら、「ベランダの排水溝に熱湯はよくない」というコメントをいただいて、色々勉強させていただいています。
排水溝にわいたうじ虫のようなものを熱湯で死滅させようと思ったのですけれど…。
なとみ:お便さまの一件も、シリーズ化していますよね。ツガエさんご自身で「大人気企画!」(91回)と書かれていますが、私もいつしかツガエ節に心を捕まれていて、不謹慎だけど「待ってました!」って思ってしまって。読者のみなさんも毎回熱いエールを送っていますよ。
ツガエ:ええ、ありがたいことです。それにしても、早朝から“お便さま”を目の当たりにしたときは、もはや悲しみを通り越して、可哀そうになってしまいました(85回)。
なとみ:本当に涙が出ちゃうときもありますよね。
介護する側とされる人の心のすれ違い
ツガエ:シモの問題もそうですけど、色々失敗しちゃったとき、兄は「ごめんね」って謝ってくれるんですけど、そう言われると自分が責めているような気がして…。
なとみ:お兄さん、穏やかな人ですもんね。ばあさんもあまり多くを語らない人だったから、お互い理解できないということも多かったですね。
先日近所の知り合いのお婆さんが、座れるタイプのシルバーカーを使っていて、「外でひとりだと怖くて座れないよ」って言うんですね。
かつて私もばあさんに座ればいいじゃんって言っていたんですよ。よかれと思って言っていたけど、介護する側の都合を押しつけていたなあって思うこともありますよ。
ツガエ:私も兄の行動は、本当にわからないことだらけですけど、兄と話すときは、なるべくキツい口調にならないようにはしていますね。
認知症でも穏やかな人と、暴言を吐くなど人格が変わってしまう人もいると聞いていますし、豹変してしまうんじゃないかという怖さもあります。
なとみ:そうそう認知症には、「仏タイプ」と「鬼タイプ」があると思いますね。お兄さんはやさしくて穏やかな「仏タイプ」。「鬼タイプ」が晩年穏やかになったというケースはよく聞くけど、「仏」が「鬼」になるっていうのはあまり聞いたことがないから…。
ツガエ:先のことを考えすぎると不安が渦巻いてしまうので、本当に穏やかなままでいて欲しいと思いますね。
なとみ:ばあさんも仏タイプだったけど、とても頑固なところがあって。あるとき、夕飯にカレーを作って出かけたら、大きな鍋のカレーが半分になっていたことがあって、「ばあさん、カレー食べたでしょ」って聞いても、「食べてない!」って言い張る。
床にカレーの食べこぼしが点々とついていて、足で踏んで靴下にもカレーがついているから、「そこにカレーがついてるよ、食べたんでしょ?」って言っても、「絶対食べてない!」の一点張り。イラっとするんだけど、思い出すと笑っちゃうんですよ。
ツガエ:なんだか落語みたいですね(笑い)。
思うようにはいかない介護、日々を乗り切る工夫
ツガエ:シモのこともそうなんですけど、兄がやらかしてしまうことを、先回りして失敗を防ぐとか、賢くやりたいなって欲もあったんですが、考えるだけ無駄になるというか…。
やっぱり思ったようにはならないんですよ。その都度、悩みながらやっている感じです。
なとみ:そうですよね。私も介護真っ最中のとき、仕事も忙しくて辛くなってきたことがあって、何も進んでいないんじゃないかと自己否定しがちでした。
だから、1日のうちに小さなことでもできたことがあったら、それでいいじゃないかと。
「ばあさんがご飯を残さず食べてくれた」とか、「天気が良くて洗濯物が乾いてよかった」とか、夜寝る前に自分に言い聞かせて、その日1日を“よしとして”終わらせるっていうのを日課にしていましたね。
ツガエ:それ、いいですね。翌日に否定的な気持ちを持ち越さないようにしたいですよね。
ベランダにオシッコしないためにはどうしたらいいかっていつも思っていて、「転ばぬ先の杖」をやりたいんですけど、張り紙をしてみたり、いろんなことをしても止まらないので、もう、やっちゃったものを片づけるしかいまのところ手がない。目の前で起こったことに対処していくしかなくて…。
なとみ:本当に骨が折れるけど、いつか終わるときがくる。そして振り返れるようになりましたから。
義理母を看取ってから4年経ちますけど、介護をしてきて、本当に学びが多かったんですよ。だから、これまでの介護を漢字1文字であらわすなら、「学」ですね。ツガエさんは?
ツガエ:うーん、そうですね。お便さまもしかり、ベランダのアンモニア臭問題、そして昨年はコロナに罹って嗅覚障害も経験しまして(117回)、色々と“匂い”の問題がありましたのでね、「匂」でしょうか。
なとみ:そうきたか!! しかも文字が大きいっ。
プロフィール
ツガエマナミコさん
介護ポストセブンの人気連載『兄がボケました ~若年性認知症の家族との暮らし』を執筆する職業ライター。58才女性。若年性認知症の5才年上の兄(現在63才)とふたり暮らし。趣味はひとりカラオケ。
なとみみわさん
イラストレーター・漫画家。同連載のイラストを担当。義理母の介護をした経験を綴った著書『毎日があっけらかん』『ばあさんとの愛しき日々』(ともにイースト・プレス)のほか、『コミックエッセイ 1ヵ月でいらないモノ8割捨てられた! 私の断捨離』(講談社)が話題に。
撮影/柴田愛子 構成・文/介護ポストセブン編集部