兄ボケSpecial「お兄さんはポール・マッカートニー似!?」涙と笑いの介護対談
介護ポストセブンの好評連載『兄がボケました ~若年性認知症の家族との暮らし』。執筆者・ツガエマナミコさんと、挿絵を担当するイラストレーター・なとみみわさんによるSpecial対談をお届け! キャラクター誕生秘話から介護の泣き笑いエピソードまで、介護経験を持つ2人のホンネが赤裸々に――。
人気連載のコンビが初顔合わせ!
連載スタートから3年目を迎える『兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし』(以下、兄ボケ)。
執筆を手がけるのは、兄との生活を“明るく、時にシュールに”綴るツガエマナミコさん。そして、兄妹の日常をほのぼのとしたタッチで描いているのが、イラストレーターのなとみみわさんだ。
なとみさんは、義理母を介護して看取った経験をブログやコミックエッセイ『ばあさんとの愛しき日々』(イースト・プレス)などで発信してきた。
介護経験を持つふたりがタッグを組むこの連載は、読者からの投稿が圧倒的に多く、熱いファンが多い。そこで、ファンの皆様に感謝を込めてSpecial企画・兄ボケ対談を開催!
毎週毎週原稿とイラストのやり取りをしている連載・名コンビのツガエさんとなとみさんだが、この対談が初の顔合わせとなる。さて、お互いの印象は?
ツガエマナミコさん(以下、ツガエ):いつも可愛いイラストをありがとうございます。我が家の様子の再現率がとても高くて、透視能力があるんじゃないかと思うほど!
なとみみわさん(以下、なとみ):生ツガエさんにお会いするのは初めてなので興奮しています(笑い)。イラストのイメージとご本人はちょっと違うかな? メガネをかけていないんですね。
ツガエ:いえいえ、メガネはかけることもありますよ。あれです、「ブルーライト横浜♪」みたいなやつ。
なとみ:のっけから(笑い)。ブルーライトカットメガネですね。ツガエさんの文章は、毎回何かしら「笑い」が仕込んでありますよね。本当にご苦労が絶えないシモの話題ですら、クスっと笑ってしまう。
大便は「お便さま」、ベランダにおしっこをしてしまうお兄さんを「小便小僧さま」と、表現がなんだか微笑ましい。その発想の原点はどこから?
ツガエ:シモの話題は、内容が内容だけに、暗い話にはしたくなくて、言葉で面白くしようと思ってはいます。笑いの原点は…ザ・ドリフターズかな。
なとみ:お互い昭和世代ですからね(笑い)。毎回イラストには、どこか昭和を入れたいなって思って描いているんです。リビングのテーブルクロスも色々と調べて、昭和の食卓風の柄にしました(70回)。
ツガエ:我が家はテーブルクロスはないんですが(笑い)。兄の行動や表情なんて、そうそうこういう感じって、いつもイラストを見て感心していますよ。
兄はポール・マッカートニー似!?
なとみ:お兄さんとツガエさんは似てらっしゃるんですか?
ツガエ:いえ、全然! 兄は父親に似て、結構ハンサムなんですよ。誰に似ているかといえば…そうですね、ポール・マッカートニーかなぁ。
なとみ:えええ、イラストと全然違うじゃないですか(笑い)。似ていないからよく夫婦に間違われることもあるんですかね。
ツガエ:先日も兄の主治医の財前先生(仮称)に「奥さん」って呼ばれましたよ。何度も会っているのに…。あのキャラ、本当にそっくりなんですよ。
なとみ:白い巨塔の財前五郎をもじって、財前四郎(88回)。あのキャラと一緒で、冷たい先生ですよね。私の中では冷たい医療従事者といえば、『キャンディ キャンディ』のフラニー、“氷メガネ”※なんですよ。
それから、「わたくしが死んだら兄はどうなるのだろう?」と考える回(64回)は、フランダースの犬の最終回。
毎回いろんな妄想を膨らませながら楽しく描かせてもらっています。
※フラニー・ハミルトン/キャンディの看護学校時代のルームメイト。厳しく冷徹で“氷メガネ”のあだ名で呼ばれる。
さまざまなキャラに変身する兄
なとみ:お兄さんの表情やキャラクターを色々変えて毎回描いていて楽しいんですよ。いつもやさしいお兄さんですが、ときどきブラックなものも描きたくなるんです。悪い表情をしたお兄さん、結構気に入ってます(47回)。
ツガエ:元々穏やかな性格の人なんですけど、ときどきああいう風になるんです、先日も雨が降っていたせいか「デイケア」に行きたくないって暗い顔をしていて。
兄は動物が大好きだから、犬がいるデイケアを選んだんですが、犬を連れてきてくださっていたケアマネさまが退職するかもしれなくて。今は水曜だけ週1回だけなんとか通っていますが、土日はお休みという…。
なとみ:土日お休みのデイケアって珍しいかも? ばあさん(義理母)が通っていたのは、大手が運営しているデイサービスでしたが、正月も休みなくやっていましたよ。
ばあさんはデイサービスに行くのを楽しみにしていて、「うちのデイさまは年中無休よ」って自慢していました。
ツガエ:それは羨ましい。週に1度のひとりになれる時間、お迎えの時間が近づくと、ギリギリまでもうちょっと、もうちょっとって思いますよね。
なとみ:わかります、わかります。
※デイケアとは、医師の指示のもとリハビリを中心としたサービスを提供する場所。一方、デイサービスは、通所介護とも呼ばれ、日常生活の支援や、日中楽しい時間を過ごすためのサービスを提供する。
介護で笑ったこと、泣いたこと
なとみ:ばあさんは、「デイに行くよー」っていうと、「ちょっと待ってぇ」って、お化粧を始めるんですよ。ばあさん女子力高っ!っていつも思ってました。
震える手で口紅つけるから、おちょぼ口で縦にもはみ出してるし、昔のサザエさんみたいになっちゃって…。あれは笑いましたね。
ツガエ:私は兄の介護をしてきて、思い切り笑ったことはないかもしれないなぁ。着替えができなくなってきた兄を見て、失笑することはあるけれど…。
先日、病院に行くのに、着替えをしていたとき、ズボンをはいてセーターを着てその上にジャンパーを羽織るんですが、上に着たものを全部ズボンに入れようとするんですね。ズボンがパンパンなんですよ。
なとみ:なんだか可愛いけどね(笑い)。
ツガエ:それで、着替えて外に出たら、トイレに行きたいって言いだして。家に戻ったら今度はトイレの場所がわからない。家の中を行ったり来たりして、ようやくトイレに入ったと思ったら、壁にバンバンぶつかって、大騒ぎしながら、着た服を全部脱いで(大きいほうを)しているんですよ。
なとみ:その光景を想像するとクスっと笑っちゃいますけど、当事者は本当にしんどいですよね。私はばあさんのシモのお世話もしたし、腹が立ったこともたくさんあったけど、漫画のネタになる!って思った瞬間、俯瞰して見られるようになって、笑いに変えることができました。
ツガエ:私も執筆のネタになるっていう感覚はあるんですよ。だからある程度は冷静でいられるということはあるかもしれません。
なとみ:ばあさんが晩年、脳梗塞で倒れて病院に行ったとき、待合室で「わたしはもうだめかもしれない。びーちゃん(なとみさんの呼び名)には世話になったから、私、どこに行っても必ず恩返しするからね、絶対に恩返しするからね」って、一生懸命話してくれて。
あれは泣けました。それから3か月後、88才で他界しました。
ツガエ:義理母さま、なとみさんに感謝していたんですね。
私も涙が出そうになることはたびたびありますよ。スリッパのままベランダに出ておしっこして、そのままリビングに入ってくるから、床がなんだかいつもベタベタしている気がして。日々、悲しい…。いまごろ家で兄は“小便小僧さま”になっているんじゃないかしら(苦笑)。
なとみ:シモ問題は奥が深いですよね…。
ツガエさんは、介護の真っ最中ですからね。介護は終わってみれば、いいことも悪いことも、思い出として振り返れるんだと思うんですよ。
――対談後編は、ツガエさんを悩ます兄の“シモ問題”に迫ります(1月23日公開予定)。
プロフィール
ツガエマナミコさん
介護ポストセブンの人気連載『兄がボケました ~若年性認知症の家族との暮らし』を執筆する職業ライター。58才女性。若年性認知症の5才年上の兄(現在63才)とふたり暮らし。趣味はひとりカラオケ。
なとみみわさん
イラストレーター・漫画家。同連載のイラストを担当。義理母の介護をした経験を綴った著書『毎日があっけらかん』『ばあさんとの愛しき日々』(ともにイースト・プレス)のほか、『コミックエッセイ 1ヵ月でいらないモノ8割捨てられた! 私の断捨離』(講談社)が話題に。
撮影/柴田愛子 構成・文/介護ポストセブン編集部