連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第64回 めまい」

 ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らし。病院への付き添いや日々の生活サポートなどを行う中、自身の体調にも異変が!?「もし、自分の身に何か起きたら…」と考えてしまったツガエさん。その不安の大きさは計り知れず…

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。 

前の話を読む 

 * * *

わたくしがいなくなったら…という妄想をしてみた

 ウエストは細く、太ももは太くありたいと願う、無い物ねだりのツガエ57歳半ばでございます。

 膝痛で走るのが怖くなりました。昨年までは1か月に一度、テニスを嗜んでいた身なのに情けない。こうやって大人は走らなくなるのですね。このところ脚がシナシナになってきたのでパーンと張りのある立派な女子の脚を見る度に「若いってこういうことだわ」と羨望のまなざしを向けております。

 それはそうと最近、時折、頭の中がふらふらするめまいのような症状に見舞われております。といってもこの半年間に3回だけなのですが…。パソコンで原稿を書いていたらだんだんとか、歩いてきてカフェに座ったらなぜか急になど、これといったきっかけはわかりません。首を動かすとふわ~と浮くような不安定感があって気持ちが悪くなりますが、吐くまでには至らないという中途半端な症状です。

「バカは風邪ひかない」という名言通り、健康だけが自慢で長年やってきたわたくしは、体調不良にめっきり弱い一面を持っております。熱など滅多に出ないので、37℃でも「あ、休もう」となりますし、頭痛や腹痛などがあったら最後、どんなにお仕事が溜まっていても何もできません。そのくせ病院は嫌いですし、薬はなるべく飲みたくない昔気質なので、すべてをストップして「即寝る」の一点張りでございます。

 今回のめまいも2時間ぐらい横になれば、すっかり治っているので大したことはないのですけれども、具合の悪い間は「これはもしかして脳の病気なのでは?」と勝手な重病説を妄想して、そのあげく「わたくしが死んだら兄はどうなるのだろう?」と考えてしまいました。

 これまでは自分が兄を看取る将来しか見えていませんでした。なので「どうせ死ぬまで介護だ」とか「一生兄のお守りで終わりか」と嘆いてきましたが、わたくしが先に逝くこともゼロではないと気付いたのです。

 真っ先に浮かんだのは「そうなったら楽ちんだな」という無責任な本音でございます。でも現実的には、兄1人では暮らせないでしょうし、施設に入ってもらうにも大金が必要で、施設に入っても親戚にかかる多大な負担と迷惑は計り知れません。結局「先に逝くことはできないのだな」という諦めに似た決意がぐるっと戻ってきました。

 もっといえば、寝たきりや入院もわたくしには許されません。最低でも炊事・洗濯ができる体力と気力を兄が生きている限りキープしなければなりません。MCI(前回をご参照ください)からも逃げなければなりませんので、わたくしの課題は山積しております。

 その一方で兄はマイペース。

 2か月に1度の病院の日、「妹さんから見て最近はどうですか?」という主治医の問いに「特に変わっていませんが」と前置きして、非常ボタンを押してアルソックが来た話(第59回をご参照ください)をご報告させていただきました。「そのこと覚えていますか?」と主治医に問われた兄は「覚えてないです」と即答。「…でしょうね」と「覚えてないんか~い!」が入り交じったわたくしの感情をお察しください。

 でも、あんな事件も忘れてしまうくらいなら、わたくしがどんなに具合悪そうにしていても、どんなに冷たい態度をとっても、そんなに響かないということ。それはそれで少し気が楽でございます。昨日、食事の準備中に手が滑ってガチャ音を立てたとき、兄が大げさに振り向いて「大丈夫?」と言ったので、「大丈夫じゃなかったら何かしてくれるの?」という心の声がうっかり口から漏れてしまったことも、もう忘れてくれたと信じます。

つづく…(次回は10月29日公開予定)

◀前の話を読む  次の話を読む 

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

#介護が始まるときに知っておきたいこと

#家族の介護

#介護保険制度の基礎知識

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

この記事へのみんなのコメント

  • maemu

    いつも拝見しております58歳(兄61)です。兄より先に逝けないというお気持ち痛いほどわかります。めまいご心配ですね。ストレスで三半規管の耳石が剥がれた時の症状と似ていると思いました。違ったら申し訳ないのですが、リハビリの体操で改善することがあるみたいです。多分ググると出てくるかと。私の兄は20代から統合失調症で、高齢の母と2人暮らしです。父亡きあと、私が通いで、自立支援やら精神障害申請やら、今日やっと障害者年金の申請書類を受理してもらいました。気力体力、日々限界との闘っている中、お優しいツガエさまのシリーズに支えて頂いています。めまい、良くなりますように。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!