猫が母になつきません 第281話「かばんのなかみ」
母の鞄が重い…。時々整理するために中身を出しますが、いつも思うのはなぜこれを…なぜこんなに…。財布やカードケースなどのほかにハンカチは常に5〜6枚、ティッシュも必要以上に。もう片方の靴下はどこへ? 箱マッチは焚き火をたくらんでいるため。焚き火は町の条例で禁止されていますが、母はいつも焚き火をしたがってマッチを買ってきては隠し、私が探し出しては処分するということをずっと繰り返しています。鞄の中だけでなく、タンスの中とか洋服のポケットなどいろんなところから出てくる。パスポートを入れていたのはどこかに行きたいという気持ちの表れでしょうか?期限はまだ切れていません。アルバムが入っていたこともあります。お友達と一緒に旅行に行ったときのアルバムでしたが、パスポートと同じように、まだ元気で自分で歩けるうちに旅行に行きたいという気持ちがあるのでしょう。先日久しぶりに町内の方たちと日帰り旅行に出かけたのですが、前日にデジカメを出したものの、母は使い慣れているはずのそのカメラの充電の仕方から写真の撮り方まですっかり忘れていました。教えても全然覚えないし「携帯で撮ればいいじゃん」と言いはしましたが、最近は愛用のガラケーの使い方もわからなくなることが多く…。母の頭の中には何も入っていかず、入っていたことも出ていくばかり。そのかわりのように母は思いつくまま鞄にものを詰め込み、どんどん重くなっていくのかもしれません。
【関連の回】
第261話 むそうする
第242話 たびする
第214話 ぜんぶいり
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。