猫が母になつきません 第280話「まもる」
最近、母の記憶力がなくなって毎日何度も同じ会話を繰り返す。これが家の中だけならまだいいのですが、母は電話でも同じ用件で同じ人に何度も電話をして迷惑をかけています。申し訳ないので電話をしないように言いますがもちろんそれも忘れてしまいます。何度も同じことを注意していたらイライラしてきて、語気も荒くなってくるのが人ってもの。さらに母の耳が遠くなり私の声がどんどん大きくなっていて、もともと声量小さめの私からするとほとんど怒鳴っているに近い感じです。その日もかなり大きな声で母に注意していたと思います。すると他の部屋にいたさびが走ってきて、母の足元をくるくるまわりながら何度もスリスリしたのです。大人になってからさびはあまり母に近づかなくなっていたので、そんな光景は何年かぶり。さびは母にスリスリするところを私に見せることで「おばあちゃんのこと好きだから怒らないで」と伝えてきたのです。私にもスリスリしてからまっすぐに見上げてくるさびの顔…勘忍袋もしゅーっとしぼみます。しかし、さびのように愛情を示すことで母をまもるということだけではすまないのが現実の厳しさ。認知症であっても体は元気でよくしゃべり自分のしたいように行動する…そんな母親をまもるのはかなり大変。自由に動けることや、携帯電話、インターネットなど便利なツールがあることなど、本来はいいことであるはずなのに認知症では大きなリスクになってしまう場合もあるのだということをこのごろ実感しています。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。