野菜は生よりスープで食べたほうがいい3つの理由|がん権威が教えるメディカルスープ
「食事で治らない病気は医者でも治せない」―― これは“医学の父”こと古代ギリシャの医学者・ヒポクラテスが残した言葉。その言葉通り、ヒポクラテスは野菜スープを治療に使っていたとされている。2000年以上が経過した現代、その効果は最新研究による医学的見地によって次々に明らかになりつつある。
最近の研究では野菜は“生”より“スープ”
肉や魚の“付け合わせ”ではなく、それ自体がメインディッシュとなるチョップドサラダにインスタ映えするジャーサラダ、「家で作るかスーパーで買うか」の大論争を巻き起こしたポテトサラダまで、近年は空前のサラダブームだ。
しかし、最新の研究に基づく医学的見地では、野菜は生よりも熱を加えて煮込んだスープにした方が体にいいということが明らかになりつつある。
人間の体は生野菜を摂りづらい?
『本当は危ない国産食品』(新潮新書)などの著書があるジャーナリストの奥野修司さんは人間の体は生野菜から栄養素を摂りづらいと指摘する。
「抗がん剤研究の世界的権威だった熊本大学名誉教授の前田浩さんは生前に“野菜の抗酸化成分は、生のままだとほとんど体に吸収されることなく排出されてしまう”と話していました」
その理由は野菜の栄養を覆っている「細胞壁」にある。
「この細胞壁は相当頑丈で、よく噛んだり刻んだりしても壊すことが難しいうえ、人間の体内では消化することができません。しかし、熱を加えればあっさり崩れるという特徴がある。つまり、野菜を煮込んでスープにすることで、栄養素が溶け出すうえ、それを余すことなく液体に溶け込んだ分も体内に取り入れることができるのです」(奥野さん)
野菜には加熱によって失われる栄養素があまりないこともポイントだ。
「前田教授の研究では、人工的に合成されたビタミンCは加熱で壊れてしまう一方で野菜に含まれる自然のビタミンCは加熱しても7~8割はそのまま残っていました。もともと、江戸時代の日本人は野菜を生で食べる習慣はなかったものの、ビタミンCが不足していたという記録は残っていません」(奥野さん)
野菜は生より“スープで食べるべき”4つの理由
【1】がん予防
多くの野菜が含有する、がんの原因物質・活性酸素を取り除く効能のある抗酸化物質は、火を通すことで体内に取り入れやすくなる。
【2】腸内環境の活性化
熱を加えた野菜は重量が2~3割減少するが、含有する食物繊維の量は変わらない。より多くの食物繊維を摂取し、腸内環境を整えるうえ温かいスープで腸の温度も上がり、活性化する。
【3】心臓病リスクの低下
2021年5月に豪州エディスコーワン大学の研究チームが発表した論文によれば1日に半カップ調理済みの葉物野菜を摂る人は、心臓病リスクが12~26%低下するという。
【4】かさが減り食べやすく腸も温まる
スープとして野菜を食べることは野菜の摂取量そのものも増やすことができる。腸の専門医であり『医師が教える発酵食スープ』(小学館集英社プロダクション)の著書もある松生(まついけ)クリニック院長の松生恒夫さんが言う。
「“ボウルいっぱいのサラダよりも、お椀一杯のスープ”を合言葉に、患者にも野菜スープを作って飲むことを推奨しています。野菜は煮込むことでかさが減って食べやすくなりますが、含まれる食物繊維の量に変わりはありません。加えて、温かいスープを飲めば腸も温まって活性化します。健康のために、野菜スープを活用しない手はありません」
がん予防のために考案された「メディカルスープ」
野菜の力を余すところなく取り入れられるスープだが、その味も使う具材も選択肢は無数にある。一体、どんなスープを飲めば健康を実現できるのか。食と健康の専門家に「究極の一杯」を取材した。
ノーベル化学賞の有力候補者でもあった前田さんが自ら作って飲み、がん予防のためにレシピを考案したのが「メディカルスープ」だ。作り方は簡単で、玉ねぎやキャベツ、セロリやにんじんの葉など7~10種類ほどの野菜を細かく刻んで煮込むというもの。前田さんのもとに2年間通って、秘伝のスープを教わったという奥野さんが解説する。
「がんになる原因の1つは、体内の活性酸素であることがわかっています。活性酸素にはほかの物質を酸化させる強力な作用があり、細胞を傷つけてしまうため老化や動脈硬化、心疾患などの原因だともいわれています。一方、『メディカルスープ』の材料となっている野菜には抗酸化物質が多く含まれており、摂取することで体内の活性酸素を減らすことができるのです」
これらの野菜の抗酸化物質は加熱することでほとんどスープに溶け出すという。
「前田教授はがん化する前の細胞の炎症は、スープの抗酸化作用によって抑えることができると話していました。がんはある日突然できるわけではなく、活性酸素がたまり、正常な細胞が少しずつがんに変わっていく。この過程で、手を打つことが何より重要です」(奥野さん)
「大腸がんで闘病し、肝臓に7つの転移があった男性がメディカルスープを飲み続けたところ、4か月後にはそのうちの3つが壊死していたという例がありました。ほかにも、抗がん剤の副作用が和らいだり、白血球の数値がよくなって治療がうまくいったりと、メディカルスープを飲むことで体調がよくなったという人は数多くいます」(奥野さん)
メディカルスープの具材となっている野菜の持つ抗酸化作用は免疫力の向上にもつながるため、新型コロナ対策にもうってつけの一杯だ。
「前田教授は10種類ほど野菜を使っていましたが、数にこだわらなくても差し支えありません。ただし、露地栽培や旬の野菜の方が抗酸化力が高いため、意識して選んでみてほしい」(奥野さん)
メディカルスープの効果と理由
★死亡リスク11%ダウン↓
国立がん研究センターの24年間にわたる追跡調査の結果、キャベツに代表されるアブラナ科の植物を多く食べる女性は死亡リスクが11%低下することが明らかになった。アブラナ科植物には抗がん効果のあるイソチオシアネートを多く含むことから、慢性疾患の予防効果が期待できることが理由とされる。
★脳卒中発症リスク55%ダウン↓
フィンランドで行われた2012年の追跡調査によれば、リコピンを摂取した男性の方が、しない男性より脳卒中発症リスクが55%低くなることが明かになった。ほかにも乳がんや前立腺がんのリスクを下げると結論づけた研究結果もある。
メディカルスープの作り方
メディカルスープの野菜の量は、厳密に量る必要なし。旬のものや、抗酸化作用の高いものを積極的に取り入れたい。
【作り方】(2~3人分)
【1】かぼちゃ50 ~70gは種をとって、玉ねぎ1/4個(50g)は皮をむ き、にんじん1/3本(50g)は皮をむかず、以上すべてひと口大に切る。キャベツ50~70g、トマト1/4個(50g)はざく切りにする。セロリ(葉も含む)1/2本(50g)は茎を小口切りにし、葉はざく切りにする。
【2】鍋に、【1】の野菜と水4 1/2カップを入れ、蓋をして強火にする。煮立つ直前に弱火にして30分ほど煮込む。
基本的に味付けはせず、物足りない場合はチキンブイヨン、塩・こしょう、薄口しょうゆなどお好みの調味料を少量入れる。野菜は旬の食材や冷蔵庫の残り野菜を入れてもOK。
<ポイント>
スープが冷めた後、ハンドブレンダーやミキサーでかくはんして、ポタージュスープとして飲むのもおすすめ。
教えてくれた人
奥野修司さん/ジャーナリスト、前田浩さん/熊本大学名誉教授、松生恒夫さん/松生クリニック・院長
撮影/矢口和也
※女性セブン2021年9月30・10月7日
https://josei7.com/