猫が母になつきません 第268話「みずをやる」
そのサボテンがいつからあるのか、誰が持ってきたのかも記憶がなく、気がついたらそこにあったという感じで、そんなに大きくないので存在を主張するでもなく、でもよく考えたら家の中にある唯一の鉢植えで。観葉植物なんてものに縁のなかった母は水やりや育て方など野菜と大差ないだろうという感じで、たまに人からいただいたりしてもたいてい枯らしてしまうのですが、このサボテンだけは枯れることなく、かといって育つわけでもなくずっと同じ姿でそこにいます。もともとミニサボテンは一年に1cmくらい伸びるか伸びないからしいのですが、それにしても全く大きくなっている印象はない。母には幾度となく水をやりすぎだと注意したのですが、最近とみに記憶力の低下が激しい母には全然効果がない。忘れないように大事なことはメモに書いて貼るなどという方法が有効な時期もありましたが、この頃は文字が書いてあっても母はそれを読まなくなり、ほとんど役に立ちません。リモコンなどもボタンの文字を読まないので操作ができなくなっています。いつか根腐れしてしまうだろうと思っていたサボテンは意外と元気で変わらぬ姿でいてくれている、そのことがなんとなく頼もしく、でも申し訳ないような気持ちもあって、謝りながらできるだけ陽当たりのよい場所に置く。水が必要なのはたぶん私のほう。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。