赤毛のアン、ルパン、ホームズ…少年少女時代のときめきがよみがえるNetflix傑作3選
コロナ禍の収束はまだなかなか見えない。ワクチン接種の見通しは立ったけれども、気軽に友人と飲み交わす日々はまた遠そう。今日もニュースを見てはついため息をついてしまうし、オリンピックを手放しに歓迎するほど楽天的にもなれない。元気やパワーを取り戻すにはどうしたら? 多種多様なNetflixの作品群から、ゲームデザイナーの米光一成さんに、こころのワクチンになりそうな作品を探してもらいました。キーワードは「少年少女時代のときめき」です。
アン、ルパン、ホームズに会いに行く
少年少女時代にこころをときめかせた作品は一生の宝物。図書室の本、夕方のアニメ、古い映画などさまざまな出会いがあったのではないでしょうか。そんな名作たちを現代によみがえらせた作品をNetflixにたずねてみました。今回紹介するのは『アンという名の少女』(原案/『赤毛のアン』)『Lupin/ルパン』(原案/アルセーヌ・ルパンシリーズ)『エノーラ・ホームズの事件簿』(原案/シャーロック・ホームズシリーズ)の3作です。
『アンという名の少女』:大胆なアレンジに驚くが、紛うことなき現代の傑作『赤毛のアン』だ
『アンという名の少女』は、カナダCBCとNetflixの共同制作。2020年9月6日からNHKでシーズン1が全8回に編集されて放送された。Netflixではシーズン3まで公開されている。原作は、ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』シリーズ。
日本には、原作に忠実なうえに大傑作の高畑勲監督のTVアニメシリーズ『赤毛のアン』がある。原作やアニメ版の懐かしさを期待して『アンという名の少女』を観ると裏切られて衝撃を受けるだろう。
『アンという名の少女』は、原作を大胆にアレンジして、物語そのものも大幅に改変。アイデンティティ、ジェンダー、人種、格差などの現代的な問題をぶちこんでダークな展開もみせるのだ。
「アンのスピリッツを受け継いだ大胆なアレンジが最高!」という意見もあるが、「こんなに変えちゃうと、アンじゃなくなっちゃう!」と拒絶の声もあがる。原作ファンのあいだでは大激論になるほどの問題作だ。
何しろ寡黙で引っ込み思案のマシューが、機敏に馬を駆ってハイヤーッ!と大疾走する。原作に忠実じゃないと許せないファンはこのあたりで脱落するが、スピリッツを多様なスタイルで受け継ぐアレンジを歓迎する者であればここで衝撃を受けてのめり込む。
プリンス・エドワード島。アヴォンリー村のグリーン・ゲイブルズに住むカスバート家の兄マシューと妹マリラは、孤児院から男の子を養子に迎えようとするが手違いで女の子がやってくる。それがアンだ。
アンを演じるのは、エイミーベス・マクナルティ。1800人以上の中から選ばれた。
やせっぽちで赤毛で、そばかすが散っている。アンは自分のことを「器量が悪い」と思っているけれど、観察力がある人なら彼女の魅力に気づくはずだ。原作のそういった描写にぴったりのアンを演じきる。
製作総指揮は『ブレイキング・バッド』のプロデューサー・脚本家のモイラ・ウォリー=ベケット。『赤毛のアン』のファンとマニアが集結して作ったでしょう!っていうぐらい「アン愛」が込められた作品だ。
残念なのは、シーズン3の後、打ち切りになったことだ。打ち切りの理由は、人気がなかったからではなく制作上層部のいざこざらしい。シーズン4制作の嘆願運動が起こっているが、未だ制作される気配はない。
少年少女時代に『赤毛のアン』を読んだ人は、大胆なアレンジ版『アンという名の少女』を観て、懐かしい気持ちと現代的なアレンジを同時に味わってみてほしい。
『アンという名の少女』
出演:エイミーベス・マクナルティ、ジェラルディン・ジェームズ、R・H・トムソン 原作・制作:モイラ・ウォリー=ベケット
『Lupin/ルパン』:怪盗紳士の神出鬼没っぷりの現代的解釈が深い
モーリス・ルブランが生み出した怪盗紳士アルセーヌ・ルパン。日本ではアニメ『ルパン三世』も大人気だ。
『Lupin/ルパン』は、本場フランスの実写版。原作のエピソードや雰囲気をちゃんと残しているが、大胆アレンジも成功している。
最大のアレンジは、ルパンの人物造形だ。映画『最強のふたり』のオマール・シーがルパンであるところのアサン・ディオプを演じている。黒人のルパンなんである。
「俺を見くびったな。つまり——俺のことが目に入らない。ヤツらと同じ」
ヤツらというのは「上流階級」の人々。人種差別によってヤツらが見くびることで、黒人の怪盗紳士ルパンが神出鬼没になっているというのがこのドラマの鍵だ。
財閥で権力者で金持ちのペレグリニ家と因縁があり(父の冤罪と自殺を引き起こしたのがペレグリニ家のおっさんなのだ)、その復讐譚がシーズン1全10話で描かれる。
とにかく軽妙でテンポがいい。第1話からさっそく派手。
ルーブル美術館のマリーアントワネットの首飾りを盗む大作戦! ネットのフェイクニュースも利用した変装あり、どんでん返しの裏切りあり、ルーブル美術館に車ごとぶっこむカーチェイスあり、あっという間にルパンに感情移入させる。
『トランスポーター』『グランド・イリュージョン』のルイ・レテリエ監督が手がけた最初の3話は特に痛快娯楽作として仕上がっている。
『Lupin/ルパン』
出演:オマール・シー、リュディヴィーヌ・サニエ、クロチルド・エム 原作・制作:ジョージ・ケイ
『エノーラ・ホームズの事件簿』:シャーロック・ホームズの妹が大冒険
ナンシー・スプリンガー原作のミステリ小説「エノーラ・ホームズの事件簿シリーズ」が原作。シャーロック・ホームズの妹であるエノーラ・ホームズが大冒険する作品。
シャーロック・ホームズを演じるのは、『ジャスティス・リーグ』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のヘンリー・カヴィル。
主人公エノーラ・ホームズは、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のイレブン役で大ブレイクしたミリー・ボビー・ブラウンが演じる。
1884年のイギリス。16歳の誕生日に、母がいなくなり、謎の暗号が残されている。エノーラは、兄のシャーロック・ホームズとマイクロフトに相談するがあてにできそうにない。自分の手と足を使って捜査を開始するが、どんどん大変な陰謀に巻き込まれて行って……。
「刺繍は習ってない。だけど、観察して、聞いて、戦うことを教わった」
若き侯爵との出会い、母親の過去、アナグラム、殺し屋、変装、陰謀、権力、脱走。ワクワクする要素をめいいっぱいつめこんだ元気いっぱいの推理冒険譚だ。ジュブナイルドラマとしての完成度も高く、ホームズ以外の懐かしの冒険譚をあれこれ思い出す人も多いだろう。
監督ハリー・ブラッドビア、脚本ジャック・ソーン。続編の制作も発表された。
『エノーラ・ホームズの事件簿』
出演:ミリー・ボビー・ブラウン、ヘンリー・カヴィル、サム・クラフリン
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。