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大ヒット『梨泰院クラス』は残酷な老いの物語でもある|「人生の終い方」が痛切なNetflix傑作3選

 まだまだ安心して外で楽しめない日々が続く。この生活の中で需要を伸ばしているのが「動画配信サービス」。なかでも『愛の不時着』『梨泰院クラス』などの大ヒットで知られるNetflixは、190か国以上で2億400万人の有料メンバーが利用する世界最大級の配信サービスに成長した。あまりにも膨大な作品群から、気持ちに合う、楽しめる1本にたどり着くには、目利きに教えてもらうのがいちばん。今回は「よりよい老いのかたち、人生の終い方」をテーマに、ゲーム作家・米光一成さんにNetflix作品を3作選んでもらった。

Netflixの作品で考える「老いと死」

 人は誰でも死ぬ。死ぬのは恐ろしい。どのように死ぬのか予測がつかない。それどころか、死に対して、どう準備すればいいのかすら分からない。愛する人の死、肉親の死、そして自分の死を、どのように受け止めればいいのか。死について考えさせられる『梨泰院クラス』『After Life/アフター・ライフ』『ディック・ジョンソンの死』の3作を紹介します。

『梨泰院クラス』:権力をふりまわす男の老いざま

 大ヒット韓国ドラマ『梨泰院クラス』。全16話。主人公パク・セロイが復讐するためにのしあがっていく物語だ。 

 最大の敵は、外食産業を牛耳る企業「長家」のチャン・デヒ会長。そのデヒ会長側に視点を移すと、これは、まさに老いと死の物語。

 会長は、(自分に屈すれば)寛容であろうという態度だ。

 自分の息子を殴ったパク・セロイに対しても、土下座すれば許してやろうと言う。デヒ会長は、権力に忖度する人たちで周囲を固めているのだ。忖度も従順も拒絶し、本音でぶつかってくるのは、パク・セロイだけだ。

 パク・セロイと対照的に配置されるのが会長の長男グンウォン。

 権力の忖度構造にどっぷり浸かり、父親から「弱肉強食」のポリシーを叩きこまれた長男の失態で、「長家」はピンチになる。ピンチになると、人々はどんどん離れていく。

 権力をふりまわしていた男が、権力を失ったとき、どのようになってしまうのか。その様子が描かれる。

 周囲から見捨てられ、自分の命があとわずかだと知ったデヒ会長は、パク・セロイにこう言う。

「そうだ、私の最後の楽しみは君だ」

 人生の終焉で、自分自分の生き方がそのまま跳ね返ってくる恐ろしさを描いたドラマとしても傑作。

『梨泰院クラス』
演出:キム・ソンユン 原作脚本:チョ・ガンジン
キャスト:パク・ソジュン(パク・セロイ) キム・ダミ(チョ・イソ) ユ・ジェミョン(チャン・デヒ) アン・ボヒョン(チャン・グンウォン) クォン・ナラ(オ・スア)

『After Life/アフター・ライフ』:最悪な状況のなかで生きる苦笑い

 リッキー・ジャーヴェイス監督主演脚本のコメディドラマ。シーズン1と2合わせて全12話。1話30分なので気楽に観られる。

 妻をガンで失ったトニーが主人公。彼は、落ち込んで自殺を図る。だが、妻といっしょに飼っていた犬を見て、どうにか死なずに生きていくことにする。

「本当なら死んでるはずだった。そこで考えた。最低の奴になってやりたい放題やって、それが限界を超えたら自殺する。一種のスーパーパワーだ」

 死んでもいいと思っているトニーは、ぐっと飲み込むべきことを、飲み込まない。嫌なことがあれば、遠慮なく暴言を吐く。エゴイストで口が悪い。場の空気など読まず、言わなくて言いことを言って困惑させる。

 社会生活を円満に過ごすつもりがない主人公の毒舌や行動に苦笑いするシニカルなコメディだ。社会からあぶれた、とんでもないやつらが次々と登場するが、観ているうちに、共感してしまう。

 最悪な状況のなかで、どうにかこうにか生きていく。そのための苦笑いが満載で、勇気すら与えられる。

『After Life/アフター・ライフ』
出演:リッキー・ジャーヴェイス、トム・バスデン、トニー・ウェイ
原作・制作:リッキー・ジャーヴェイス

『ディック・ジョンソンの死』:死を受け入れるユーモア

 1時間29分の長編ドキュメンタリー作品。

 監督のキルステン・ジョンソンが、86歳の父親ディック・ジョンソンを撮影している。しかも、父親が死ぬ場面を作り上げて。

「娘に何度も殺されるんだ」

 頭上に電子機器が落ちてきて死ぬ。階段から落ちて死ぬ。首から血を噴出させて死ぬ。棺桶に入っている。天国にいる。自分の葬式をのぞいているディック・ジョンソン。スタントマンを使い、血糊を噴出する装置を使い、お父さんと協力して、死の場面を撮影する。

 お父さんがノリノリで撮影現場にいて、うれしそうにしているのが楽しい。

 父親と彼女の日常もていねいに描かれる。

 車を手放さなくてはならなくなった悲しさ。記憶力が低下していくことへの恐れ。「どうしてドキュメンタリーを撮るんだ?」と父親から問われて答える場面。死について語り合う表情。

 オープニングは、孫と遊ぶディック・ジョンソン。

 お手製のブランコで騒いだ孫が、おじいちゃんのところに来て「死にかけたよ」と言う。

「死にかけた? そりゃ怖いな。どんな感じだ?」
「楽しかったよ」
「楽しい?」
「死ぬほどね」

 いつかは死ぬ。どのように死んでいくのか、どのように老いていくのか。誰にも分からない。死をどのようにして受け入れていくのか、その葛藤をユーモアを持って乗り越えていこうとしている家族の物語だ。

『ディック・ジョンソンの死』
監督:キルステン・ジョンソン

文/米光一成(よねみつ・かずなり)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。

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