歯周病でコロナ重症化リスク!?キスで虫歯菌はうつる?|歯周病と虫歯にまつわる最新事情
8割の大人が歯周病で、先進国で最も虫歯が多いといわれる日本人。ただの歯トラブルだと侮るなかれ、がんも心筋梗塞も、認知症も糖尿病も「歯周病と虫歯」が引き起こす可能性があるのだ。病気のリスクほか、「歯周病と虫歯」にまつわる最新事情を医師に聞いた。
歯周病と虫歯が引き起こす病とは
母親を自宅で介護する近藤貴子さん(仮名・52才)は、歯の健康の重要性を目の当たりにしたと話す。
「母は70才を過ぎてすぐ、歯周病の悪化でほとんどの歯を失いました。すると、みるみる容体が悪化。やわらかい介護食しか食べられず、ほぼ寝たきり状態になってしまいました」
歯周病は、日本人が歯を失う最大の理由だ。自分の歯で噛めないことが、認知症の悪化や衰弱につながることは介護の現場では常識といわれている。
新型コロナの重症化リスクと関係も…
2020年7には、英リーズ大学歯学部などの研究チームが、新型コロナウイルス感染での死亡、重症化リスクを高める要因として、歯周病などの口腔内細菌が関係していると報告して注目を集めた。
たとえ歯を失っていなくても、口腔内の状態はあらゆる健康リスクと関連することが近年の研究で次々に判明している。
食道がんリスクは32倍上昇
歯周病学に詳しい東京医科歯科大学助教の池田裕一さんを含む研究グループは、昨年、歯周病原細菌である「アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス菌(A.a菌)」が食道がんのリスクになることを初めて突きとめた。
「食道がんの患者は、がんではない患者と比較すると、喫煙率や飲酒習慣の高さに加え歯周病の状態が悪いことがわかりました。
なかでもA.a菌は、非がん患者では1人しか検出されませんでしたが、がん患者からは16人も検出されました。
さらに、歯垢の中に特定の口腔内細菌が検出されると食道がんリスクが最大で32倍上昇することもわかっています」(池田さん・以下同)
歯周病菌の有無は遺伝が関与
「酒は百薬の長」と、高齢になっても飲酒や喫煙をやめずに元気な人もいる。その人たちは、口内に歯周病菌がいないのかもしれない。というのも、歯周病菌の有無には、遺伝が関与しているのだ。
「歯周病菌は常在細菌ですが、ある人とない人がいます。さらに、歯周病菌に対する免疫が強い人、弱い人の差もあります。
自分の親が歯周病の人は、遺伝的に歯周病になりやすい可能性がある。ただし、歯周病に強い体質だったとしても、口腔衛生が悪ければ歯周病になるリスクは高まります」
虫歯になりやすいかは3才までに決まる
遺伝が関与しないところでも、生活習慣によって、親から子に菌がうつることもある。国立循環器病研究センター病院の猪原匡史さんが解説する。
「細菌の集まりである『口腔内フローラ』は、3才までに確立されるといわれています。それより前に、虫歯菌を保有する親とコップの共有をするなどにより、そこに付着した唾液から感染してしまう。虫歯になりやすいか否かは3才までに決まります」
大人はキスをしても虫歯菌はうつらない
大人になれば口腔内フローラが安定するため、キスをしても菌がうつる心配はない。
しかし、一方で、夫婦間では他人よりも口腔内の細菌バランスが似ていたという研究もある。
「同じ生活スタイルで暮らすことで、夫婦間で菌の共有が起こり、口の中の細菌バランスも同じになりやすいと考えられます」(池田さん)
口内も家族は運命共同体。夫や親に歯周病や虫歯の症状が表れた場合は、子供も含め、みんなで歯医者へ行こう。
歯周病の治療で糖尿病の改善も…
解明されつつある歯周病とそのほかの疾患の関連性だが、複数のエビデンスでリスクが明らかになっているものの1つが糖尿病だ。東京国際クリニック歯科院長の清水智幸さんがメカニズムを説明する。
「糖尿病と歯周病は、炎症を引き起こす原因となる物質がよく似ています。そのため、糖尿病の人は歯周病になりやすく、血糖値が高い人は歯周病が悪化しやすくなります」
糖尿病と歯周病は切っても切れない関係にある。それは、改善の足がかりにもなるということ。
「わずかな数値ではありますが、歯周病を治療すると糖尿病の血糖値が下がるというデータがあります。糖尿病の患者で歯周病をもっている人は、歯周病を治療することで糖尿病を改善できるということです」(池田さん・以下同)
脳梗塞、心筋梗塞、慢性腎炎の高リスク
歯周病がリスクを高める病気には、ほかにも脳梗塞、心筋梗塞、慢性腎炎、リウマチなど数多くある。
「動物実験で、歯周病菌は腸内細菌のバランスに悪影響を与えることもわかっています。これは、歯周病を発症していない人でも、歯周病菌が口内に増えていると、健康になんらかの悪影響を与えると考えられます」
なかでも、特に注意が必要なのは妊娠中の女性だ。
「歯周病の毒素は子宮の筋肉を収縮させる作用があります。出産のときの“いきみ”と比べれば弱い力ですが、自分の意思とは無関係に、ずっと“いきみ”が続いているような状態になる。すると妊娠期間が短くなり、早産につながります。乳幼児の原因不明の突然死は、早産による低出生体重児に多いことが知られている。歯周病はたばこや酒よりも早産リスクを高めるといわれています」(清水さん)
「悪玉虫歯菌」で認知症リスク上昇
昨年11月、国立循環器病研究センターなどが“悪玉虫歯菌”と呼ばれる「cnm陽性ミュータンス菌」と脳出血の関係を報告した。調査に携わった猪原さんが解説する。
「悪玉虫歯菌が血液の中に入ると、血管の壁に菌が付着し、炎症を起こします。炎症の場所が脳であれば脳出血になりますが、それが転じて血管性認知症となる可能性があります」
日本人にとって、認知症というと「アルツハイマー型」のイメージが強い。しかし、20%は脳卒中が原因で起こる血管性認知症で、65才未満の勤労世代の認知症では最も多い原因だ。
「虫歯菌は血管に入れば体中どこにでも到達する。心臓、腎臓、肝臓など、体の大切な臓器すべてで悪さをしかねません」(猪原さん)
5人に1人が、この悪玉虫歯菌を保有しているという。前述のとおり、3才未満のうちに親などから菌をもらっているかどうかが分岐点だ。
歯磨きによる出血で細菌が…
毎日の歯みがきを徹底しようと心をあらためた人もいるだろう。しかし、その心がけが、リスクとなる恐れがある。猪原さんが言う。
「近年、研究でわかってきましたが、ブラッシングしすぎて出血するような歯みがきはかえってよくない。ブラッシングにより出血すると10~20%程度の人が菌血症(血液中に細菌が認められる状態)になっているといわれるほど、口の中の菌は血液の中に入り込みやすいのです。いかに出血しないよう、上手に磨くかがポイントです」
だからといって、歯みがきを簡単に済ませていると、歯周病は永遠に治らない。
「歯周病は治らないという人もいますが、治療や手術で治すことが可能です。ただし、ブラッシングがしっかりできていないと、治療した部分に歯垢がついて、1週間もすれば治療を行う前の口腔内の状態に戻ってしまいます」(清水さん)
健康のためと薬やサプリメントに頼る前に、歯科で正しいブラッシングを学ぶ方がよさそうだ。
→ウイルスの侵入を防ぐ正しい歯磨き|口腔ケアもコロナ予防のカギ
教えてくれた人
池田裕一さん/東京医科歯科大学助教、猪原匡史さん/国立循環器病研究センター病院、清水智幸さん/東京国際クリニック歯科院長※女性セブン2021年1月28日号
https://josei7.com/