オーラルケアと病気の関係|歯周病でがん、認知症、糖尿病も
「8020運動」――80才で20本以上の歯を残そうとする動きが浸透して久しい。
それもそのはず、オーラルケアひとつでがんの罹患リスクまで変わるのだから。歯磨きでどんなリスクを回避できるか、さまざまな研究データを基に専門家が解説します。
オーラルケアで体全体の不調改善へ
口腔内を清潔に保ち、虫歯や歯周病を予防する「オーラルケア」という言葉が定着して久しい。需要は年々高まり、オーラルケア用品の市場規模も拡大の一途を辿っている。実際、大手消費財メーカーの『P&G』は2019年、AIが磨き残しを指摘する機能を搭載した最新の電動歯ブラシ『ジーニアスX』など新製品を次々に発売。その種類と質は「過去最大規模」といわれた。さらに新型コロナウイルスで揺れる株式市場で、生活用品メーカー『ライオン』株が急上昇。日経平均株価が3月に入って20%下がる中、ライオンは11%の逆行高を記録した。空前の“ハンドソープ特需”に加えて歯磨き粉や歯ブラシなどオーラルケアグッズの需要が高まっていることがその理由だとされている。
オーラルケアに力を入れると、口腔内だけでなく、体全体の不調も改善されることがわかってきたためだ。
草加ファミリー歯科院長の小垣佑一郎さんが解説する。
「人間は1日に平均1~1.5Lの唾液を飲み込んでいます。その中には約1兆個の細菌が含まれており、もし口腔内の環境が劣悪で、歯周病の原因となる悪玉菌が1%でもいれば、かなりの量が体内に取り込まれていることになる。メカニズムはまだはっきりわかっていませんが、歯周病菌が腸まで運ばれた結果、体に悪い影響を与えていると考えられます」
歯周病が大腸がんを招く可能性
オーラルケアと糖尿病の関係も明らかになっており、韓国の梨花(イフア)女子大学が行った研究によれば1日3回、定期的に歯磨きをしている人は、2型糖尿病発症リスクが低く、反対に歯周病の人や歯の本数が少ない人はリスクが高まるという。
「歯肉炎がひどくなって歯周病菌が繁殖すると、細菌が毛細血管内に侵入して全身に回ります。細菌は体内で死滅しますが、細菌に含まれる毒物は残り、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害するといわれています」(小垣さん)
認知機能を低下させる可能性も指摘されている。
「歯周病の原因菌の1つ『ジンジバリス菌』が、アルツハイマー型認知症患者の脳から検出されたという報告もあります。また2019年には、九州大学の研究グループが、歯周病患者の歯茎にアルツハイマー病の原因といわれる『アミロイドβ』が生じていることを明らかにしました」(小垣さん)
恐ろしいのはそれだけではない。2人に1人が罹患し、いまや国民病といわれるがんもまた、口腔内の環境と無関係ではない。秋葉原駅クリニックの内科医・佐々木欧さんが解説する。
「歯周病がある人ほど口腔内のがんが増加するという報告は、いくつもあります。加えて、最新の研究によれば大腸がんと歯周病の関係も明らかになりつつある。歯周病の原因菌が大腸がんの腫瘍から発見されたという報告もあります。唾液とともに飲み込まれた菌が、がんを引き起こしている可能性も指摘され始めています」
教えてくれた人
小垣佑一郎さん/草加ファミリー歯科院長。
佐々木欧さん/秋葉原駅クリニック、内科医。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2020年4月9日号
https://josei7.com/