ビール&ワインには中性脂肪を減少させる効果も 休刊日も不要?日本人の3人に1人が抱える「脂肪肝」予防の最新常識【医師監修】
病気になっても自覚症状が出づらく、「沈黙の臓器」とされる肝臓。異変を感じて病院にかかった時には病が進行しているケースが多いが、正しい知識で向き合えば早期発見は可能なうえ、日々の生活のなかで機能の改善も十分に見込めるという。肝臓を100年維持するための最新常識を名医が解説する。
教えてくれた人
栗原毅さん/肝臓専門医・栗原クリニック東京・日本橋院長
サラダにマヨネーズ、納豆に酢ほか肝臓を復活させる食事の鉄則
「肝臓は好不調のサインがほとんど出ません。それゆえ、日々の習慣が肝臓にプラスなのかマイナスなのかわかりにくく、病気の予防や改善策を立てにくい臓器です」
そう語るのは、『肝臓大復活』(東洋経済新報社)の著者で肝臓専門医の栗原毅さん(栗原クリニック東京・日本橋院長)だ。
肝臓の機能について、栗原医師は「体の一大化学工場」だと説明する。
「食事で得た栄養を代謝し、脳や全身へエネルギーを供給します。また、体内に入ったアルコールや毒素の解毒作用で腸や腎臓などを守り、脂肪の消化を助ける胆汁を生成することで心臓や血管の健康に大きく関係します。それゆえ肝機能の低下は重大な病気に繋がりやすく、肝硬変や肝臓がんをはじめ、糖尿病や動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞といった死に直結する病を招きます」(栗原さん。以下「」内は同じ)
一方で、肝臓は回復力が高く、適切な処置をすれば“若返る臓器”としても知られる。問題は、正しい肝臓のケアが行なわれていないことだという。
「特に中性脂肪が肝臓に蓄積する『脂肪肝』の怖さが十分に理解されていないと感じます。いま世界の医療界では『脂肪肝こそあらゆる病気の出発点』と見られています。脂肪肝がある人の心筋梗塞や脳卒中のリスクは約2倍と言われ、10年後に2型糖尿病になる確率がぐんと上がります。また、脂肪肝が悪化して脂肪肝炎を患えば肝硬変や肝臓がんを招きます」
ビール中ジョッキ2杯で中性脂肪が減少する効果も
脂肪肝は血液検査の項目「ALT」や「γ-GTP」などが指標になる。どちらも肝臓に含まれる酵素で、肝細胞の炎症によって数値が上昇する。特にγ-GTPはお酒を飲む人ほど上がりやすいとされ、検査で基準値超となり医師から酒を控えるよう注意されるケースは多い。
「日本人の3人に1人、推定4000万人が脂肪肝とされています。これまで肥満体質の人やアルコールが発症の原因だと思われてきましたが、痩せている人やお酒が原因ではない脂肪肝患者が増加している。酒を控えれば肝機能が改善するといった従来の常識からは脱却する必要があります」
そう話す栗原さんによれば、むしろ近年の研究ではお酒が肝臓に与えるプラスの影響がわかってきたという。
「適量の飲酒であれば、肝臓がアルコールを分解する際に肝臓内の糖が消費され、中性脂肪が減少する効果が期待できます。1日あたりの純アルコール量7~40gが体に良いとされており、ビールなら中ジョッキ2杯分、日本酒なら2合、ワインならグラス3杯程度が40gに相当します」
酒を飲まない「休肝日」を作る必要もないという。
「肝臓の健康のために週1~2日の休肝日を設けている人は多いですが、適量であれば毎日飲んでもいい。むしろ休肝日を設けたせいで、我慢していた反動で翌日に飲み過ぎる人が多いんです」
食事についても誤解が多いと栗原さんは言う。
「肉や揚げ物といった脂肪が多いものを控えればいいと考えがちですが、脂肪の量は脂肪肝とほとんど関係ありません。脂っこい食べ物を避ける必要はなく、同様にカロリーの高い・低いも気にする必要はありません。それよりも糖質の摂取方法が重要です」
糖質は体内でブドウ糖に分解されるが、過剰摂取すると余ったブドウ糖は肝臓で中性脂肪に変換され、脂肪肝が進行する。ご飯やパンの食べ方には注意が必要だ。
「ただし、単に糖質摂取を制限すればいいわけではありません。厳しい糖質制限をすると体がエネルギー不足になり、逆に脂肪を溜め込むモードになってしまいます。主食の炭水化物は1~2割減らせばよく、ごはん茶碗1膳なら1~2口分残せば十分です。減らした分を肉などのタンパク質で補い、ご飯の代わりに玄米や雑穀米をたまに取り入れるのも効果的です」
チョコレートの力で脂肪肝を解消
栗原さんが特に気を付けたいというのが果物だ。
「フルーツの果糖は脂肪肝を招きます。最近のフルーツは果糖がたくさん含まれており、毎日食べる習慣がある人は気を付けてください。1週間毎日シャインマスカットを食べた患者が脂肪肝になった例もあります」
甘味料として利用される果糖ブドウ糖液糖も避けたい成分のひとつだという。
トウモロコシなどから抽出した甘味成分を人工的に精製したシロップで、清涼飲料水や野菜ジュース、菓子パン、スナック菓子やカップ麺、納豆ダレなど多くの食品に使われる。
「果糖の割合が多く、肝臓に悪影響を与えますが、現代人は日常的に口に入れています。例えば健康に良いからとサラダにノンオイルドレッシングを使う人がいますが、実は多量の果糖ブドウ糖液糖が使われている商品が多く、逆効果です。糖質をほとんど含まないマヨネーズをサラダにかける方が肝臓にはプラスになる。納豆をよく食べる人は市販の納豆パックのタレの代わりに大さじ1杯分の酢をかけるなどのひと工夫をするといい。酢と納豆は脂肪解消効果が高く、脂肪肝を防ぐ最強の組み合わせです」
率先して食べたほうがいいのがチョコレートだ。
「カカオが70%以上のチョコレートが理想です。私の患者の多くが高カカオのチョコレートで脂肪肝を解消しました。カカオには血糖値の急上昇を防ぐ力があり、結果的に食べ物から得たブドウ糖を中性脂肪に変換するのを抑えます。食事前に1かけら5g程度を食べるとより効果を得られます」
このほか、食後の「歯磨き」も肝機能の改善には欠かせない。
「歯周病になると炎症性サイトカインという物質が産生され、これにより高血糖状態が進み、肝臓内のブドウ糖の中性脂肪化が加速してしまう。つまり歯周病を放っておくと脂肪肝になりやすいのです。起床直後と就寝直前は歯間ブラシも活用しながらしっかり歯磨きをして、舌磨きも1日1回は必ず行なってください」
栗原さんによると、正しい肝臓ケアを意識して生活習慣を改善したところ、ひと月でALTが81から34に、γ-GTPが108から65に改善したケースもあったという。
100年肝臓は、自力でつくれるのだ。