介護保険法改正!「自立支援」「負担増」などホントのところどうなる?
この4月から介護保険法が改正された。厚生労働省はその目的を「高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止」、「制度の持続可能性を確保」、「サービスを必要とするかたに必要なサービスが提供されるようにする」としている。
しかし、国民にとって本当に“正しく改められた”のか。そしていくら制度や仕組みが変わっても、介護者の負担は全く変わらないことを国はわかっているのだろうか。
ポイント1 リハビリ強化で自立支援を促す
まず大きな目玉として注目されているのが、リハビリなどの介護予防によって高齢者の「自立支援」を目的とした制度だ。
「寝たきりになればなるほど生きる気力がなくなってしまうから、リハビリに力を入れてもらい、少しでも自分の足で立ったり歩けたりするようになれば気持ちから回復すると思う」(80代の母を介護する40代女性)というように、高齢者のQOL(※クオリティー・オブ・ライフ)を高めることが期待されている。
しかし、自立支援や重症化の防止を積極的に行い、一定の効果を上げれば、その自治体や事業者を国が評価し、“インセンティブ(報奨金などの意味)”を与えるとしたことで、こんな危惧も指摘されている。ニッセイ基礎研究所の准主任研究員・三原岳さんが解説する。
「自立支援や重症化の防止で成果を上げた自治体には、国が交付金を給付します。2018年度は200億円が予算として計上されました。重症化予防に取り組む市町村には国からの交付金額が増えます。また、要介護度を改善した介護サービスの事業者には介護報酬も加算されます」
たとえば、脳梗塞で「要介護度2」と認定された人が、頑張ってリハビリをし、歩けるようになって「要介護度1」に改善すれば、本人も自由度が高まり、事業者にもインセンティブが…。しかし三原さんは、「いいことばかりではなく、注意も必要」と指摘する。
「すべての高齢者がリハビリで状態がよくなるわけではなく、年齢や認知症などさまざまな理由でよくならない人もいます。そんな要介護者の受け入れを、回復の可能性が低くお金にならないからと拒否する施設が出てくるかもしれない。なかには“つらいリハビリはあまりしたくない”と自主的に自立を望まない人もいます。個人の意思がどの程度尊重されるのか、不安が残ります」
介護保険が掲げていた本来の意味での「自立」ともかけ離れてしまうのではないかと三原さんは続ける。
「2000年に介護保険制度が始まった当初は、介護サービス利用者の尊厳を維持することが大切で、“利用者自らが受けたいサービスを選び、決められることこそが自立”だとされていました」
にもかかわらず、ここにきて政府主導で自立支援を促進しようとする背景には、介護保険の財政問題があるという指摘も。
「高齢化に伴い利用者は年々増加し、介護関連予算は2000年に比べて約3倍です。自治体や事業者にインセンティブというご褒美をあげて利用者の要介護度を改善し、介護サービスの利用を減らしていくのが目的です。高齢者が増えれば介護予算が足りなくなるのは仕方がないことですが、自立支援という聞こえのよい言葉でごまかすのではなく、増税や保険料引き上げ、給付カットなどを含め、きちんと議論すべきです」(三原さん)
ポイント2 利用者3割負担が導入、今後拡大の可能性も!?
利用者によっては介護サービスの利用者負担も増える予定だ。これまでは65才以上の介護保険の利用者負担は、所得が低い人は1割、高い人は2割だった。だが今年8月から、負担割合が3割に増える人が出てくる。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが解説する。
「具体的には、利用者本人の合計所得金額が220万円以上で、本人を含めた65才以上の人が世帯に1人なら、『年金収入+その他の合計所得金額』が340万円以上の場合(夫婦など2人以上なら463万円以上の場合)、利用者負担が2割から3割にアップします」
改正によって、これまで2割負担だった人の一部が、3割負担になるが、その割合は利用者全体の数%程度。
「高所得の人に負担してもらおうという考えです。多くの人は対象にならないので、過度に不安になる必要はありません。ただ、今回の改正をきっかけに今後は3割負担の人が増えていったり、1割負担の人が減っていったりする可能性はあるでしょう。今後の動きに注目が必要です」
負担は増える一方だが、だからこそ利用できる負担軽減制度は漏らさず活用したい。
「忘れがちなのは、申請すれば一定の自己負担限度額を超えた金額が戻ってくる高額介護サービス費制度です。自己負担限度額は収入に応じて異なり、申請しないと払い戻されません。たとえば、3割負担の人でも月額4万4400円(世帯)が上限なので、超えた額は戻ってきます」