医療と介護の両方のサービスが受けられると注目の<介護医療院>1か月にかかる費用は?金額の注意ポイントと4つの負担軽減制度を専門家が解説
親族の施設入所を検討する際、多くの人が気になるのが費用のことではないだろうか。年金や貯蓄で費用を賄える施設に入所したいと考える人も少なくないはず。そこで、介護保険を利用できる公的施設として注目したいのが「介護医療院」。介護保険施設で相談員の経験のある中谷ミホさんに、「介護医療院」でかかる費用について詳しく解説していただきました。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
そもそも介護医療院とはどんな施設なのか
「介護医療院」は、介護保険を利用して入所できる公的な施設です。
主に地方公共団体や医療法人が運営し、長期療養が必要なかたの日常的な医学管理や看取り、日常生活に必要な介護を一体的に提供します。
介護医療では、医療と介護の両方のサービスを受けられることから、ほか2つの介護保険施設(特別養護老人ホームと介護老人保健施設)よりも利用料が高い傾向にあります。
介護医療院の種類は2つある
介護医療院には「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2種類があり、「Ⅰ型」は、医療の必要性が高い要介護者向け、「Ⅱ型」は、容体が比較的安定した要介護者向けの施設となっています。
居室のタイプは4つ
介護医療院の居室は「1部屋4人以下」「1人当たりの床面積は8㎡以上」といった基準が定められており、以下の4タイプがあります。
1.「従来的個室」:ユニットが構成されていない個室
2.「多床室」:1部屋の定員が2名以上の居室
3.「ユニット型個室」:10人程度の生活単位(ユニット)ごとに共有スペースを併設する
4.「ユニット個室的多床室」:可動しない壁(パーティションや家具など)で区切られた居室
受けられるサービス
介護医療院で受けられる具体的なサービスは、次の通りです。
■介護サービス
・食事、入浴、排せつなどの日常生活に必要な介護が受けられます。
・必要に応じて理学療法士や作業療法士などによる機能訓練を受けられます。
■医療処置
・医師が常駐し、看護師も配置されているため、痰の吸引、胃ろう、経管栄養、点滴などの医療処置が受けられます。
・看取りや本人の意思により延命治療をせず、苦痛や不安を緩和するターミナルケア(終末期ケア)にも対応しています。
詳しくはこちらを見る→「介護医療院」とは?費用はいくら?入所条件やサービス内容、メリット・デメリットを解説
介護医療院でかかる費用「相場は月額7~18万円」
介護医療院では、入居一時金などの初期費用はかかりません。費用の負担は、毎月の利用料金のみとなり、費用相場は月額約7~18万円程度になります。毎月の利用料金の内訳は以下の通りです。
【1】施設サービス費「居室によって変わる」
介護医療院で受けられる、身体介護、生活援助、医療処置などのサービスにかかる費用です。施設サービス費には、薬代やおむつ代も含まれています。介護保険が適用される費用のため、利用者の自己負担額は所得に応じて1〜3割となります。
施設サービス費は、「施設の種類」「要介護度」「居室のタイプ」などにより異なります。
【Ⅰ型介護医療院の場合】(利用者負担1割・1日あたり)
■要介護1
従来的個室…721円
多床室…833円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…850円
■要介護2
従来的個室…832円
多床室…943円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…960円
■要介護3
従来的個室…1,070円
多床室…1,182円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…1,199円
■要介護4
従来的個室…1,172円
多床室…1,283円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…1,300円
■要介護5
従来的個室…1,263円
多床室…1,375円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…1,392円
【Ⅱ型介護医療院の場合】(利用者負担1割・1日あたり)
■要介護1
従来的個室…675円
多床室…786円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…849円
■要介護2
従来的個室…771円
多床室…883円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…951円
■要介護3
従来的個室…981円
多床室…1,092円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…1,173円
■要介護4
従来的個室…1,069円
多床室…1,181円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…1,267円
■要介護5
従来的個室…1,149円
多床室…1,261円
ユニット型個室・ユニット型個室的床室…1,353円
【2】食費は「全額自己負担」
食費は、介護保険の対象外となるため全額自己負担(実費)となります。
金額は施設との契約により決められますが、基準となる額(基準費用額)が定められています。加えて、利用者の所得に応じた負担の上限額も設定されているため、所得の低い方は負担が軽減される仕組みになっています。
介護医療院における食費の基準費用額は、1日あたり1,445円です。
【3】住居費「所得に応じて負担額が軽減される場合も」
部屋代やベッド代、光熱費など「家賃」に相当する費用です。介護保険の対象外となるため、全額自己負担(実費)になりますが、所得に応じて負担額が軽減される場合があります。また、居住費の金額は、部屋のタイプによって異なります。
【居住費の基準費用額】(2024年8月〜)
・従来型個室: 1,728円/日
・多床室 :437円/日
・ユニット型個室: 2,066円/日
・ユニット型個室的多床室 :1,728円/日
【4】日常生活費
日常生活費には、以下のような費用が含まれます。
・理美容代
・口腔ケア用品
・洗濯代
・家電費(テレビ・冷蔵庫など)
・嗜好品 など
【5】サービス加算
職員の配置体制や提供するサービスなどに応じて基本料金に加算される費用です。
介護医療院で加算対象となるサービスの例は、次の通りです。
・初期加算:入所した日から起算して30日以内の期間
・栄養マネジメント加算:管理栄養士による継続的な栄養管理
・経口移行加算:栄養チューブなどで栄養摂取している方に対し、経口摂取できるよう栄養管理などを行う
2つのケースで見る費用例
要介護5の介護者が入居した場合の、月々の費用例を紹介します(30日間分)。同じ介護医療院でも、部屋のタイプによって料金が異なるので注意しましょう。
ケース1:要介護5 介護医療院Ⅰ型「ユニット型個室的多床室」を利用
<合計金額> 146,950円
・施設サービス費(I型)…41,760円(1,392×30)
・食費…43,350円(1,445×30)
・住居費(ユニット型個室的多床室)…51,840円(1,728×30)
・サービス加算…5,000円
・日常生活費…5,000円
ケース2:要介護5 介護医療院Ⅰ型「多床室」を利用
<合計金額> 107,710円
・施設サービス費(I型)…41,250円(1,375×30)
・食費…43,350円(1,445×30)
・住居費(ユニット型個室的多床室)…13,110円(1,728×30)
・サービス加算…5,000円
・日常生活費…5,000円
申請すると利用できる4つの負担軽減制度
介護医療院に入所する際には、次の4つの負担軽減制度を確認しましょう。
これらの制度は、自ら申請手続きをしないと受けられないものがほとんどのため、家族や親族が手伝うようにしてください。
1. 負担限度額認定制度(特定入所者介護サービス費)
所得や資産等が一定以下の方に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給される制度です。
この制度を利用するには、市区町村から「介護保険負担限度額認定証」の交付を受ける必要があります。
参考:厚生労働省「介護保険最新情報」https://www.mhlw.go.jp/content/001266890.pdf
2. 高額介護サービス費制度
介護保険のサービスを利用した際、1か月分の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、その超過分が支給される制度です。
一度申請すれば、2回目以降は手続き不要で、上限額を超えた月に自動的に払い戻されます。
参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf
3. 高額医療・高額介護合算制度
同じ医療保険の世帯の中で、医療保険と介護保険の両方を利用し、年間の自己負担額が決められた限度額を超えた場合、その超過分が支給される制度です。同世帯内で異なる医療保険に加入している家族の合算は認められません。
参考:高額介護合算療養費制度 概要 https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kaigi/doc/senmon138shi02_6.pdf
4. 医療費控除
介護医療院を利用した場合、施設サービス費、食費、居住費にかかる自己負担額分が医療費控除の対象となります。日常生活費や特別なサービスを受けた場合の費用は対象外です。
高額介護サービス費の払い戻しを受けた場合は、その金額分を差し引いて医療費控除の金額の計算をすることになります。
参考:国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1125.htm
国の制度を上手に活用しよう
介護保険を利用して入所できる「介護医療院」は、長期療養を必要とする方にとって医療と介護の両方のサービスが受けられる貴重な施設です。
医療面でのケアを含む分、ほかの2つの介護保険施設(特別養護老人ホームと介護老人保健施設)よりも「施設サービス費」の設定が高めになっています。
しかし、「負担限度額認定制度(特定入所者介護サービス費)」や「高額介護サービス費制度」などの負担軽減制度を組み合わせて使用することで、費用を安く抑えることが可能です。
入所を検討していかたで、費用面に不安のある場合や負担軽減制度の申請手続きについて詳しく知りたい場合は、入所を希望する介護医療院や地域包括支援センター、担当のケアマネジャーにご相談ください。
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