分とく山・野崎洋光さんの”七草粥”作り方|二十四節気を意識した豊かな暮らしを
1月7日は七草粥を食べる日。和食の達人、野﨑洋光さんが提案する七草粥は、だしのきいたあんがとろ~り、正月の疲れた体に染み渡る美味しさ。七草粥を食べる意味をはじめ、旬の食材や二十四節気(にじゅうしせっき)の行事について、その道の達人に教えてもらった。
七草粥を食べる意味とは?
「七草粥は無病息災を願う中国の行事食と、正月に若菜を摘む日本の風習から誕生しました」
こう語るのは、和文化研究家の三浦康子さんだ。また、分とく山・総料理長の野﨑洋光さんによると、
「年中快適で季節感が薄い現代でも、七草粥などの行事食は根強く残っていますし、食なら季節を取り入れやすいです。調味料で濃く味付けするのではなく、素材の味を引き出す工夫をすると、旬の恵みをより感じられますよ」(野﨑さん)
小寒(二十四節気については本文後半で説明)のこの時期、お正月明けの体に優しい野﨑さん流・七草粥のほか、寒さ厳しいこの季節に食べたい料理を教えてもらった。
※編集部注:七草、春の七草ともいう。せり(芹)、なずな(薺)、ごぎょう(御形)、はこべら(繁縷)、ほとけのざ(仏の座)、すずな(菘)=かぶ、
「千草の七草粥風べっ甲あんかけ」のレシピ
正月疲れの体に染み渡る、だしのきいたあんがとろ~り。七草粥は「お正月料理で疲れた胃腸を整います」(野﨑さん)。
<材料>
米…80g
水…4カップ
塩…小さじ1
大根…4cm
かぶ…1個
せり…2本
片栗粉…大さじ1
【A】
だし…3/5カップ
しょうゆ…大さじ1と2/3
かつおぶし…ひとつまみ
<作り方>
【1】米は洗って水(分量外)に15分浸し、ざるにあげて15分おき、水気を切る。
【2】大根はせん切りにし、かぶは葉を3cm残したまま縦半分に切って薄切りにする。せりは3㎝長さに切る。
【3】鍋に【1】と水、塩を入れ、ふたはせずに強火にかける。
【4】沸騰したら弱火で30分炊き、8割ほど火が入ったら【2】の大根とかぶを加え、仕上げにせりを加える。
【5】片栗粉を水大さじ1(分量外)で溶く。
【6】別の鍋にAを入れて火にかけ、ひと煮立ちしたら濾して鍋に戻し、再び沸騰したら【5】を加えてとろみをつける。
【7】【4】を器に盛り、【6】のあんをかける。
鏡開きの餅を使った「たらの雑煮」レシピ
鏡開きには、たらの雑煮を。“たらふく”食べられるよう祈りを込め、ゆずの香りとともに味わう。
「たらは“多良”とも 書き、縁起の良い食材です」(三浦さん)。「たらはさっと熱湯をかけ て臭みをとり、水から煮 ると旨みが引き立ち ます」(野﨑さん)。
<材料>
たら…2切れ(60g)
塩…適量
小松菜…1束
しいたけ…2個
焼きもち…2個
ゆず皮…適量
【A】
だし…1と1/4カップ
薄口しょうゆ…大さじ1弱
酒…小さじ1
<作り方>
【1】たらは両面に薄く塩を振って20分おき、霜降り(熱湯をかけてすぐ冷水にとる)する。
【2】小松菜は茹で、4cm長さに切る。しいたけは軸を取り除き、熱湯をかけて冷水にとる。
【3】鍋にA、【1】【2】のしいたけを入れて中火にかけ、沸騰してきたら焼きもちを入れて火を止める。【2】の小松菜とともに器に盛り、ゆず皮を添える。
冷えた体を温める「鮭の粕汁」レシピ
1月は冷え切った体を芯から温める”粕汁”を。鮭×酒の濃厚でまろやかな味わいに。「鮭は災いを“避け”、 生まれた地に成長して 帰る出世の象徴」(三浦さん)。
<材料>(4人分)
鮭(甘塩)…200g
里いも…約6個(130g)
大根…4cm
にんじん…約1⁄2本(70g)
こんにゃく…80g
しいたけ…3個
ごぼう…約1/3本(50g)
長ねぎ…1本
油揚げ…1枚
水…5カップ
昆布…10cm角
みそ…80g
練り粕…150g
七味唐辛子…適量
<作り方>
【1】里いもはひと口大に切り、大根とにんじんは1cm幅のいちょう切りにする。こんにゃくはスプーンでひと口大にちぎる。
【2】鍋に【1】と水適量(分量外)を入れて火にかけ、煮立ったら具を冷水にとってざるに上げ、水気を切る。
【3】鮭はひと口大に切り、しいたけは十字に切る。それぞれ熱湯適量(分量外)に30秒浸して冷水にとり、鮭はウロコや汚れをこすり取って水気を拭く。
【4】ごぼうは3㎜幅の小口切りにして水洗いする。
【5】油揚げは熱湯をかけて油抜きしたら、横半分に切って1㎝幅の短冊切りに、長ねぎは1cm幅の小口切りにする。
【6】鍋に水、昆布、【2】~【4】の野菜とこんにゃくを入れ、上に【3】の鮭をのせて火にかける。ひと煮立ちしたら鮭を取り出し、野菜が柔らかくなるまで煮る。
【7】【6】にみそを溶き入れたら⑤を加え、練り粕を溶き入れる。
【8】【7】に【6】の鮭を戻し入れ、長ねぎに火が通ったら器に盛り、七味唐辛子を振る。
二十四節気を知り豊かな暮らしを
二十四節気とは、太陽の動きを元に1年を24等分し、約15日おきに「立春」や「春分」など季節を告げるもの。古代中国が発祥で、日本でも昔から農作業の目安や年中行事に使われてきた。
「雪が残る頃と桜が散る頃では、同じ“春”でも大きく違います。
季節の移り変わりに敏感になると小さな幸せを感じられ、その積み重ねが人生に彩りをもたらします。外出しにくくても、箸置きなどで季節感を出すだけでも生活にハリが生まれるはず。
季節とともに生きる日本人には、四季折々のものごとを喜ぶ感性が息づいています。暮らしに季節を取り入れることで心と体が整います」(三浦さん)
食の欧米化が進み、せわしなく過ごす現代こそ、二十四節気を意識した和食に取り入れることで心と体の健康を保てるはず。二十四節気の意味を知り、2021年はちょっと丁寧で豊かな暮らしをしてみませんか?
以下では、三浦さんに二十四節気の意味と行事について解説いただいた。
二十四節気の意味と行事
■小寒(しょうかん):1/5~19
本格的な寒さが到来。7日は七草粥を、11日(地域により15日)は鏡開きで正月に供えた鏡もちを雑煮やお汁粉にして食べよう。年神様との縁を繋ぐため、鏡もちは切らずに木槌や手で割って。
■大寒(だいかん):1/20~2/2
1年で最も寒い時期。この時期の水は良質で“寒の水”と呼ばれ、酒やみその仕込みの時期。凍てつく中でも、土の下ではほのかに暖かみが感じられ始め、少しずつ春へと向かう。
■立春(りっしゅん):2/3~17
立春前日の節分は冬と春を分ける日で、今年は124年振りに2月2日に。節分の翌日から暦の上では春となる。旧暦では立春から1年が始まり、春分までに初めて吹く南からの強風が“春一番”。
■雨水(うすい):2/18~3/4
雪に代わって雨が 降るようになり、積もった雪や氷が溶けて体感的にも春の兆しを感じる時期。せりやふきのとうなどの山菜が出始め、農耕の準備を始める目安とされてきた。
■啓蟄(けいちつ):3/5~19
蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)という四字熟語に由来。土の中で冬ごもりをしていた生き物たちが、大地が温まることで活動を始める頃を示す。陽射しも少しずつ強く、暖かくなってくる。
■春分(しゅんぶん):3/20~4/3
昼と夜の長さがほぼ同じになる春分の日は、自然をたたえて生き物を慈しむ国民の祝日。前後各3日間のお彼岸はこの世とあの世が最も通じやすいとされ、墓参りをする風習が。
■清明(せいめい):4/4~19
■穀雨(こくう):4/20~5/4
動植物の活動が活発になる「清明」、柔らかく温かな雨が降って田畑を潤し、種まきに最適とされる「穀雨」など、生命力が溢れる季節。
■立夏(りっか):5/5~20
■小満(しょうまん):5/21~6/4
■芒種(ぼうしゅ):6/5~20
■夏至(げし):6/21~7/6
■小暑(しょうしょ):7/7~21
■大暑(たいしょ):7/22~8/6
田植えが始まる「芒種」の頃から高温多湿になり、「小暑」から厳しい暑さが続き「大暑」でピークに。“う”のつくものを食べて疲労回復と無病息災を願う土用の丑の日(7月28日)には、うなぎでスタミナをつけ、きゅうりなど、うり科の野菜で熱を冷まして。
■立秋(りっしゅう):8/7~22
■処暑(しょしょ):8/23~9/6
■百露(はくろ):9/7~22
■秋分(しゅうぶん):9/23~10/7
■寒露(かんろ):10/8~22
■霜降(そうこう):10/23~11/6
暑さが徐々におさまる「処暑」から彼岸となる「秋分」までは残暑が続くが、秋らしくなる「寒露」から霜が降りて肌寒くなる「霜降」まではあっという間。9月9日の重陽の節句は不老長寿を願う行事で、別名“菊の節句”。菊の花びらを浮かべた菊酒、着物や生け花などにも菊を取り入れて。
■立冬(りっとう):11/7~21
■小雪(しょうせつ):11/22~12/6
■大雪(たいせつ):12/7~21
■冬至(とうじ):12/22~1/4
雪がちらつく「小雪」の頃は急に暖かな陽気になる小春日和の日も。太陽の力が盛り返して日が延び、運気が上昇していくという12月22日の「冬至」。この日は“運盛り”といって大根や南瓜(かぼちゃ)など“ん(=運)”のつく食材を食べ、体を温めるゆず湯に入ろう。
※日付は2021年の場合。
教えてくれた人
分とく山 総料理長 野﨑洋光さん
日本料理の研鑽を積み、『分とく山』を開店して30年超。家庭向けの和食を書籍等でわかりやすく提案もしている。
和文化研究家 三浦康子さん
テレビ、ラジオなどで現代に活かす和の文化を提案し、著書多数。All About『暮らしの歳時記』ガイドも務める。
撮影/鈴木泰介 イラスト/吉井みい
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