18年ぶりにセックスレスが解消した60代夫婦の話|きっかけはある映画と…
「コロナ禍の夏、20年ぶりに…夫としたんです」
こう語るのは、ふんわりしたボブヘアが可憐な竹下景子似の大村淳子さん(55歳・仮名)だ。淳子さんは、夫(55歳・会社員)と結婚30年。20代の1人娘はすでに独立し、夫と2人暮らし。
「娘が生まれてから夫とは、男と女ではなく、パパとママになってしまい、自然にしなくなっちゃったんです」
最後に夫とセックスをしたのは、35歳のときに家族で行ったハワイ旅行のときだった。
「6歳の娘が疲れて眠ってしまって、夫と2人で部屋からダイヤモンドヘッドを見ながら“大人のキス”をしたことはいい思い出(笑い)。寝ている娘を起こさないように、最後までしたことはしたんですが、全然気が乗っていないことはお互いにわかっていて…。ハワイ以降、そういうことは一度もありませんでした。
我が家では、夫は裸でうろうろするし、私もオナラをするし。お互いに“愛している”と言ってハグはするけれど、猫がじゃれ合っているような感じで、そういう雰囲気にはならないんですよ」
乳がん疑いから介護脱毛を決意
そんな淳子さんは、2019年の春、乳房にしこりが見つかった。結果は良性で経過観察となったが、ある決心をしたという。
「乳がんの疑いで死を意識したというか、そういう年齢になったんだと思ったんです。
いずれ介護を受けるかもしれないし、病気で入院して誰かのお世話になるかもしれないと本気で考えました。人に見られたり、お世話をてもらったりするときに、アンダーヘアがないほうがいいかなって、介護脱毛(VIO脱毛)を決心したんです。
介護脱毛の施術はまあまあ痛かったですよ。1度や2度ではツルツルにはならないんですね。完全に生えなくなるまで何度も通って8か月くらいかかりました」
淳子さんは実は、乳がんのしこりのことも、介護脱毛のことも夫には打ち明けていなかった。
「夫は心配性だから余計な気を使わせたくなくて、何も話していなかったんです」
そんなある夏の日、夫婦に驚くことが起こる――。
→介護脱毛は本当に必要?介護士・看護師の本音|痛い?料金は?【体験ルポ】
自粛生活の夏、夫が脱衣所に…
「真夏の暑い日、夫が仕事が休みの日でした。昼間にシャワーを浴びて風呂場から裸で出てきたら脱衣所に夫がいて体を見られてしまったんです。
すると夫は、私の下半身を凝視して、『どうしたんだ、それは!』と驚いている…。
私は仕方なくタオルをつかんで事情を話すと、夫の目つきが変わって『もっと見せて』と言ってきたんです」
夫はタオルを奪って妻の体を拭くと、裸のままダイニングテーブルに座らせた。
「“ちょっと寒いよ”と言うと、肩にバスタオルをかけてくれました。脱毛した部分を見られて…。だんだんそういう雰囲気になって寝室に行きました。
20年というブランクがあってお互いに久しぶりすぎて、どうしていいかわからなかったというのもありますが、体は覚えているものですね。彼は途中で元気がなくなっていましたが、何度かするようになって、5回目くらいから調子を取り戻したようでした」
それから3か月、今は1週間に1回程度、夫婦生活を営んでいるという。
「だいたい夫から誘ってきますね。夫とするようになってから、私の中で何かが変わったのか、街で男性から声をかけられることが多くなりました」
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まだまだ終わりそうもないウィズコロナ生活だが、取材を重ね女性たちの声を聞くにつけ、長い期間を経て再び新婚気分を取り戻したというシニア夫婦は増えていることを実感する。
不安な世の中、死の恐怖に晒されて、本当に大切な存在がわかったからだろうか…。
過ごす時間の密度や質、そして言葉によって夫婦関係は変わっていく。パートナーに言葉をかけるかかけないかは自分次第、その一言がどう変化していくかは、これまで過ごしてきた夫婦の歳月にかかっているのかもしれない。
取材・文
沢木文さん/1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。
イラスト/上村恭子
※プライバシー保護のため実話を元に一部設定を変えています。