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『ウルトラマン』が誕生して55年後の今も人気がある理由|毒蝮三太夫インタビュー【連載 第34回】

 新しい一年が始まった。気分一新といきたいところだが、まだしばらくは、コロナを意識しながらの毎日になりそうだ。かつてはウルトラマンやウルトラセブンといっしょに、地球の平和を守っていた毒蝮さん。今年は『ウルトラマン』の放送がスタートして55年目にあたる。当時の思い出とともに、ピンチにどう立ち向かうかを聞いた。(聞き手・石原壮一郎)

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『ウルトラマン』のアラシ隊員役を引き受けたとき

 なんだか妙な雰囲気の正月だったな。いつもは「あけましておめでとうございます」って口にすると清々しい気持ちになるんだけど、頭の片隅でコロナのことが気になって、「おめでとう」って言っていいのかな……なんて迷いが出てきちゃう。でもやっぱり、新しい年を迎えたんだから「おめでとうございます」でいいよな。空元気も元気のうちだ。今年は去年よりいい年になることを信じて、張り切って一年をスタートしようじゃないか。

 2021(令和3)年は『ウルトラマン』の放送が始まってから、ちょうど55年目にあたる年だ。ちょうどって言うには半端かもしれないけど、「ゴーゴー」っていう威勢がいい響きに免じて、そこは大目に見てくれ。

 俺は『ウルトラマン』では科学特捜隊のアラシ隊員をやって、次の『ウルトラセブン』でも地球防衛軍のフルハシ隊員をやった。今でもたくさんの人が、アラシとフルハシのことを覚えていてくれる。宇宙飛行士の毛利衛さんも、「僕はアラシ隊員に憧れて、宇宙飛行士を目指しました」なんて言って敬礼してくれた。嬉しいよね。あのふたつの作品は間違いなく、役者・石井伊吉にとっての代表作だ。

 だけど、最初に話が来たときは、ここまですごい作品になると思ってなかったし、ここまで長く愛される作品になるなんてカケラも想像してなかった。「毎週決まった仕事があると、生活が助かるな」とホッとしたことは覚えてる。もう結婚してたけど、役者の収入なんて不安定だから、百貨店に勤めてたカミさんが“大黒柱”になってくれてたからね。

 それに当時は、子ども向けの番組は一段低く見られてた。役者仲間は「なんだ、ジャリ番組か」なんて言うしね。オレンジ色の衣装を着て、テレビ局の中を歩いたり街の中で撮影したりするのは、撮影が始まった頃は恥ずかしかったよ。当時まだ珍しかった「カラー放送」だったから、そういう派手な衣装にしたらしいけど。

 脚本をもらっても、自分に関係あるところしか読んでなかった。「あの天井のライトを見て驚いてくれ」なんて言われるままにやるだけで、全体がどういう話でどういうシーンを演じているのかはぜんぜんわかってない。今思うと、ふざけてるよな。

 ところが、放送が始まったら、何もかもがガラッと変わった。「人気がうなぎ上り」っていうのは、ああいうことを言うんだね。回を重ねるごとにどんどん評判になって、外で撮影してると、たちまち子どもたちに取り囲まれた。路地裏を歩いていても、悪ガキが「シュワッチ」なんて言ってジャンプしたりスペシウム光線のポーズをしたりしてる。

 そうなってからは、俺もさすがに背筋が伸びたね。「これは気合い入れてやらなきゃ」って思った。もちろん俺以外の役者は、最初から背筋が伸びてたと思うよ。とくにムラマツ隊長役の小林昭二さんは、先輩としてほかの役者のお目付け役もやってくれてた。「子どもにこびるんじゃなくて、一般のドラマと同じように演じないとダメだ」とよく言ってたな。

「ウルトラマン」が55年たった今でも人気があるのは、円谷英二監督をはじめ脚本家も演出家も、スタッフは誰ひとりとして「しょせん子ども向け」なんて気持ちがなかったからだと思う。むしろ「子どもの目は騙せない」と畏怖の念を持ってた。高度経済成長のひずみとか人間の持つズルさとか、そういった難しいテーマに挑んでたよね。

 人気番組だったけど、撮影環境はまあ過酷だったな。1週間であれだけのものを作るわけだから、とにかく時間がない。予算や機材だって限られてる。特撮のミニチュアも、全部手作りだからね。倉庫みたいなスタジオで、夏は汗だくになって、冬は寒さに震えながら撮影してた。言ってみれば、極限状態のピンチが毎日続いてたみたいなもんだ。

 それでも乗り切れたのは、スタッフも役者もみんながお互いを信頼して、それぞれが自分の役割を全力で果たしたからじゃないかと、俺は思ってる。トラブルはしょっちゅうあったけど、「あいつのせいだ」「俺は悪くない」とか何とか言ってるヒマはない。ましてや派閥を作って対立するとか足の引っ張り合いとか、それどころじゃないよ。

 いっしょにしていいかどうかわからないけど、今は世界中が極限状態のピンチにある。人間は不安になると悪者を探して責めたくなるけど、そんなことしたって余計に疲れるだけだし、コロナの感染拡大が収まるわけでもない。自分ができることをきっちりやって、まわりの人を大切にする。それが有効な“戦い方”なんじゃないかな。実際にはウルトラマンやウルトラセブンはいないんだから、地球は地球人で守っていこうよ。みんなで力を合わせて地道にがんばろう。

マムちゃんの極意

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!

たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

●毒蝮三太夫、風変わりだった父との思い出「俺の毒舌はおやじ譲り」【連載 第30回】

●「親が認知症になったら…」毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス【連載 第27回】

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