フレイルとは…予防に必要な老化対策3つ|一緒に食事、楽しく運動、あとひとつは?
要介護の一歩手前の状態を「フレイル」と呼び、早めに気づくことが健康・長寿には大事だという。「フレイル」とは何か? その兆候や予防、対策などについて東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢さんに解説いただいた記事をまとめた。まずは、自分の「フレイル」の状態がわかる「イレブン・チェック」に挑戦してみよう。
フレイルとは…
「フレイルとは、日本語では『虚弱』という意味です。虚弱という言葉には、マイナスイメージが強いため、明るく、前向きな気持ちで予防意識を高めてほしいという思いを込めて、日本老年医学会が2014年にこの言葉を作りました。フレイルは、『健康と病気・要介護状態の間』を指しており、その前段階を『プレフレイル』といいます」
そう話すのは、東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢さんだ。
一般的に、高齢者は健康な状態から、まずプレフレイルになり、フレイル、要介護へと徐々に進行していく。
「しかし、プレフレイルやフレイルの状態を発見して、適切な対策を行えば、現状を維持したり、元の健常な状態に戻すことも可能です。つまり、フレイルとは、健康に戻ることができるポジティブなものなのです」
フレイルとサルコペニアは違うの?
厚生労働省によると、高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく現象を「サルコペニア」と呼ぶ※。しかし「フレイル」には、それに加えてさらにいくつかの原因があるという。以下で詳しく解説していく。
※厚生労働省e-ヘルスネットより
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-087.html
フレイルの原因は…
これまで体の老化予防といえば、ウオーキングや筋トレなど体を鍛えることが中心だったが、フレイルを予防するには、実はこれだけでは不充分。
「フレイルの最も大きな原因の1つが筋肉の衰えですから、運動を定期的に行った方がいいのは明らかです。
しかしフレイルには、『身体的なフレイル』に加え、心の問題である『心理的フレイル』や、社会や人とのつながりを失うことで起きる『社会的フレイル』も、かなり大きなウエートを占めていることがわかってきました。
定年でリタイアして外出の回数が減ると、人とのつながりや行動範囲が狭まります。このように社会とのつながりを失うことが、フレイルの入り口であることもわかってきています」
フレイルの種類や原因は3つ
・身体的なフレイル
・心理的フレイル
・社会的フレイル
フレイルが進行しすると高齢者はどうなる?
フレイルの進行イメージとは…。以下の3段階を経て要介護状態へと進んでいく。
●第1段階:孤食、うつ傾向、社会参加の低下、健康意識の低下
↓
●第2段階:歯の損失、飲み込みにくい、滑舌の低下、食の偏り、食欲不振
↓
●第3段階:筋力の低下、腰痛やひざ痛、低栄養、病気がち
↓
●第4段階:要介護状態、嚥下障害、咀嚼障害、寝たきり
第1段階では、社会とのつながりを失い、生活範囲が狭まると、やる気の低下やうつ病などの心の問題も生じてくる。
第2段階では、食生活のバランスが崩れ、口腔機能の低下で充分に食べられなくなる。
そして、第3段階でますます体が衰え、判断力や認知機能の陰りが現れ始める。このように多面的な衰えが絡み合いながら要介護状態へと進行していく。
→高齢者が鍛えなければいけない筋肉は実はコレ!有効な運動は日常生活のアレ!
総合的なフレイル診断…イレブン・チェックで状態を知ろう
ずは自分の心身の状態を11個の質問に答える「イレブン・チェック」で把握しておこう。
イレブン・チェックに挑戦! はい…○ いいえ◇
【栄養について】
【Q1】ほぼ同じ年齢の同性と比較して、健康に気をつけた食事を心がけていますか?
【Q2】野菜料理と主菜(肉または魚)を両方とも毎日2回以上は食べていますか?
【口腔について】
【Q3】「さきいか」、「たくあん」くらいの硬さの食品を普通に噛みきれますか?
【Q4】お茶や汁物でむせることがありますか?
【運動について】
【Q5】1日30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施していますか?
【Q6】日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していますか?
【Q7】ほぼ同じ年齢の同性と比較して、歩く速度が速いと思いますか?
【社会性・こころ】
【Q8】昨年と比べて外出の回数が減っていますか?
【Q9】1日に1回以上は、誰かと一緒に食事をしますか?
【Q10】自分が活気に溢れていると思いますか?
【Q11】何よりもまず、もの忘れが気になりますか?
フレイル度を判定
◇の数が2つ以下の場合はほぼ健康。3~5つの場合は「プレフレイル」の可能性があり、6つ以上は「フレイル」の可能性大。すべての項目が〇になるよう日常生活を改善を心がけよう。
フレイル予防と改善ポイント
上の11の質問により、健康を維持していく上で重要な「栄養」「口腔」「運動」「社会性・こころ」の4つに関する、あなたの生活習慣と心身の状態がわかる。
回答の中であなたが、「◇…いいえ」だった箇所が、フレイルを予防するために特に注意したいところ。以下のQ1~11の改善ポイントを読み、当てはまるところを改善しよう。
【Q1】
食と健康に対する意識不足。健康のためにはいろいろな種類の食べ物をバランスよく食べることが重要だ。
【Q2】
肉や魚に含まれるたんぱく質は、筋肉量を維持するために不可欠。野菜はその助けとなり、多くの健康効果が期待できる。意識して毎日、積極的に摂るといい(腎臓が悪いと指摘を受けたことがある場合は、かかりつけの医師に相談しよう)。
【Q3】
噛む力や口の筋力が弱まっている可能性がある。軟らかいものばかり食べないように注意しよう。
【Q4】
飲み込む力が低下している可能性がある。誤嚥につながりやすいので注意を。
【Q5】
健康維持のためには、汗をかく程度の運動を1回30分以上、週に2回以上行うことが推奨されている。もう少し運動をすることを心がけ、日々の運動を日課にしよう。“継続は力なり”。
【Q6】
少しでも活動量を増やすことが大切。特別な運動でなくても、日常的に歩いたり、体を動かすことをもう少し意識するとよい。
【Q7】
歩く速さは健康のバロメーターの1つ。筋力が低下し始めると、自分でも気づかないうちに歩くのが遅くなっていくもの。足腰の力を見直してみよう。
【Q8】
外出の回数は、社会参加の程度を示している。趣味や地域活動など、自分に合った社会参加の形を見つけて、もう少し外に出てみよう。
【Q9】
誰かと一緒におしゃべりをしながら食事をすることは、幸福感につながる。意識して複数の人と食事をする回数を増やすとよい。
【Q10】と【Q11】
少し心が疲れている可能性がある。うつ傾向にあるとも考えられるので、心のうちを話せる誰かを見つけ、家に閉じこもらないよう心がけるとよい。
→89才!日本最高齢のインストラクター瀧島未香さん【タキミカ体操】誕生秘話、やり方は?効果は…
身体的なフレイルとは…筋肉量をチェックしよう
筋肉量を自分でチェックするできる「指輪っかテスト」というものもある。東京大学高齢社会総合研究機構が実施した柏スタディ(*)をもとに考案されたテストだ。測定機器を使わず、自分の手指でふくらはぎを囲むことで、自分の筋肉量が把握できる。
*柏スタディとは、2012年から千葉県柏市でフレイル予防研究チームが行っている2000人規模の「大規模健康調査」のこと。
→柏スタディをもっと詳しく見る
やり方は、以下のイラストを参考に試してほしい。
筋肉量をチェックする指わっかテストのやり方
【1】椅子に座り、ひざが直角になるようにする。
【2】利き足ではない方のふくらはぎのいちばん太いところを、両手の親指と人差し指で囲む。
フレイルやサルコペニアの心配も…
上記のテストをしてみて、ふくらはぎを指で囲めない、または、ちょうど囲める場合は、筋肉量が充分な可能性が高い。
指で囲むない…筋力量は充分
指で囲んで隙間ができる…サルコペニアが心配
しかし、ふくらはぎを囲んだ指に隙間ができる場合は筋肉量が少なくなっている状態(サルコペニア)の可能性があるので要注意。
筋肉量の維持は、自立した生活を続けていくのにとても重要。今より10分多く歩いたり、スクワットなどの筋トレ運動を行うことで、足腰が鍛えられ、フレイルを予防できる。
フレイル予防に必要な3つのこと
フレイル予防の具体的な対策は、以下の3つが有効だ。
【1】社会参加:仕事やボランティア、趣味などで人とかかわる。
【2】運動:体を動かし、筋肉を鍛える。
【3】栄養:しっかり噛んで、しっかり食べる。
仲間と一緒に運動をすれば【1】【2】がクリアでき、その後に栄養価の高いものを食べれば、同時に【3】までクリアできるため、これは健康長寿の3つの柱と呼ばれており、この3つをバランスよく実践することが望ましい。
「運動で体を鍛えるのに加え、頭を使ったり、地域活動に参加することもフレイル予防に大きく役立ちます。リスク要因を見つけて改善していけば、フレイルからの脱却も予防もできます」
千葉県柏市で約5万人を対象に運動を定期的に行う「身体活動」、囲碁・将棋、手芸などの足腰はあまり使わないが頭を使う「文化活動」、社会的な「ボランティアや地域活動」という3つの活動と、フレイルリスクの関係を調査した結果が上のグラフだ。
「3つとも行っている人を1とすると、『運動のみ』を行っている人(上グラフの右から2つ目)のリスクが6.42倍、『運動以外の2種』を行っている人(同じく、左から4つ目)のリスクが2.19倍に。運動だけしていたのでは、フレイル予防にはならないのです」(飯島さん)。
【1】社会参加でフレイル予防
フレイルの最初の入り口は孤立にある。とはいえ、社会とのつながりを持つためには、地域活動やボランティアなど、社会貢献をしなくてはならないと身構える必要はない。友達と一緒にカラオケに行く、趣味の手芸サークルに入るなども、立派な社会参加だ。
「足腰に不安があり、外出して他人とかかわるのを躊躇する場合は、自宅に友人を招くのもいいですね。そのために掃除をし、お茶を入れたり、料理をするのは体も頭も使うことになりますから。それも無理なら、電話をかけて声を聞きながら話をするものいい」
家族以外の他人とかかわりを持ち、孤立を防ぐことも、フレイル予防につながるのだ。
【2】運動でフレイル予防…「楽しみ」に運動を結びつける
運動が苦手な人に、ウオーキングや筋トレを勧めても、なかなか続かないことが多い。無理して挫折するよりも日常生活の中のできる範囲で、体を今より10分長く動かす方が、毎日続けられる分、効果は期待できる。
「毎日8000歩歩くなど、数字だけを目標にすると、運動が苦痛になりかねません。むしろ『誰と歩くのか』『歩いたあとに何が待っているのか』が重要です。目的地を決めて出かける、誰かに会いに行くなど、外出する理由をたくさん見つけましょう」
孫に早く会いたいと思えば、歩くスピードは上がるもの。その後、公園で一緒に遊べば、1日に必要な運動量は、軽くクリアできる。
【3】食事でフレイル予防…誰かと一緒に食べる
食事と健康の関係は深く、中年から高齢期の入り口にかけては過栄養のメタボ対策として、塩分や脂肪を控えるなどの食事制限が重要だ。しかし、後期高齢者になると栄養の吸収力が落ちてくるため、たんぱく質を積極的に摂取し、野菜などの栄養もバランスよく摂ることが大切になってくる。
これに加え、食べる環境もフレイル対策には重要だと、前出・飯島さんは言う。
「若い頃から太りすぎは健康によくないため、お腹をひっこめるために食事に気をつけるよう指導されてきた人が多く、市民講座で『あと3kgやせなきゃと思っている人は?』と問うと、6割近くの人が手を挙げます。でも、フレイル対策には、この意識を変えることが必要なのです。実は今、もっとも怖いのは、肥満よりも孤独です。同居家族がいるにもかかわらず、ひとりで食事をする『孤食』の人は、フレイルチェックのほとんどのデータが悪く、うつ傾向をはじめ、さまざまなリスクが高いことがわかってきました。ひとり暮らしの方が危険なようですが、そうとは限らない。ひとり暮らしでも友達と食事をする機会が多ければ、リスクは低いのです(上グラフ参照)」(飯島さん・以下同)
フレイル予防にとっては「誰かと食べる」ことが重要。家庭内の社会性も必要なのだ。
■食事スタイルによるフレイルリスク
【ひとり暮らしだけど誰かと供食】
・うつ傾向 0.78倍
・食品の多様性が少ない 1.4倍
・低栄養 0.88倍
・咀嚼力の低下 1.3倍
・残存歯数が少ない 1.6倍
・歩く速度が遅い 1.1倍
【同居者がいるけど孤食】
・うつ傾向 4.1倍
・食品の多様性が少ない 1.8倍
・低栄養 1.6倍
・咀嚼力の低下 1.7倍
・残存歯数が少ない 1.6倍
・歩く速度が遅い 1.6倍
フレイルとは厚生労働省も予防を推進
なお、厚生労働省もフレイル予防に力を入れている。令和元年度の食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業として、「食べて元気にフレイル予防」マニュアルを公開している※
それによると、フレイル予防のための食事のとり方は、3つ。
1.3食しっかりとる
2.1日2回以上、主食・主菜・副菜を組み合わせて食べる
3.いろいろな食品を食べる
誰かと一緒においしく食べてフレイル予防に役立てたい。
※厚生労働省「食べて元気にフレイル予防」より
https://www.mhlw.go.jp/content/000620854.pdf
イラスト/坂木浩子(ぽるか)
※初出/女性セブン2019年10月24日号
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