《自分で自分を介護する》老後の暮らし方を介護ジャーナリストが提案「要介護でも最期まで自宅で暮らすことはできる」
年齢を重ね介護が必要になってもなるべく自分の家で暮らしたい。そう願う人に知っておいて欲しいのが、介護ジャーナリストの小山朝子さんが提唱する「自分で自分の介護をする」という考え方だ。いずれ訪れる老いや孤独、ひとり暮らしも心配…。漠然とした不安を抱えている人に、“じぶん介護”の極意について筆者が答えてくれた。
この記事を執筆した専門家
小山朝子さん/介護ジャーナリスト
洋画家の祖母を10年に渡って在宅介護した経験から、執筆や講演会など多方面で活躍。介護福祉士の資格も持つ。著書『介護というお仕事』(講談社)のほか、2023年に発売した『ひとり暮らしでも大丈夫! 自分で自分の介護をする本』はロングセラーに。新刊『【11の成功例でわかる】自分で自分の介護をする本』(ともに河出書房新社)
長年の介護経験と取材からたどりついた「じぶん介護」
「自分で自分の介護をする」ことについて綴った記事に、さまざまなご感想や疑問の声が寄せられ、反響の大きさを実感しました。そこで皆様からのご意見や質問に対し、Q&A形式でお答えします。
→今の時代「自分で自分の介護をする」心持ちが大切 要介護でも、おひとりさまでも「最期まで自宅で暮らすために」必要な3つのポイント【専門家解説】
Q1.「自分で自分の介護をする」とはどういうこと?
取材を通して出会ったある男性の例を挙げてお答えします。
田村凛太郎さん(74才・仮名)は、長年農家として働き、12年前に妻を亡くしました。以後、農家を続けながらひとり暮らしをしてきました。
白内障と診断されたことをきっかけに、免許の自主返納と農家を継続するかについて考えはじめた矢先、都市部に住む息子から同居をもちかけられたのです。
白内障の手術後、息子の家に滞在しますが、息子からの申し出をありがたいと感じる一方、生活パターンが異なる息子一家に気を遣いながら生活するのは窮屈だと思い、結果的に「何があってもその結末は自分で受け入れる覚悟でいるよ。心配かけてすまんね」と息子に自分の意志を伝え、郷里に戻る選択をしました。
「介護」とはその人が望む生活を送るための支援であり、その実現に至るまでの過程をも含むものだと私は考えています。
凜太郎さんは、「郷里に戻って生活したい」という自分の真の望みを息子にはっきりと伝え、ひとり暮らしの環境を整えることから始めました。
自宅に見守り機器の導入や、公民館で開催されている「男の料理教室」への参加を検討、地域包括支援センターに出向き、介護予防サービスを活用するなど、ひとり暮らしを続けるための準備を始めました。凜太郎さんにとって、こうした備えこそ「自分で自分を介護する」ことなのです。
*記事中の事例は、拙著『11の成功例でわかる 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)より再構成してまとめています。
Q2.「自分で自分の介護をする」なんて無理なのでは?
「自分で自分の介護をする」と聞いて、「身をよじりながら自分のお世話をしている」姿をイメージされたのかもしれません。
一般的に「介護」と聞くと、食事・入浴・排泄などの日常の動作の手助けのことだと考えている人は多いのではないでしょうか。私の見解では、それは「介助」という言葉で表現される行為です。
「高齢になっても介助を必要としない生活がしたい」という望みがあるのであれば、健康な段階から自分の心身を護るよう心がけることも「自分で自分の介護をする」ことだと考えています。
たとえば、よい睡眠を心がけること、毎日の口腔ケアを怠らないことなど、この先も健やかに生活するために意識したほうがよいことはたくさんあります。
介助が必要になってもひとり暮らしを続けている多くの人を取材する中で、彼らが口にしなかった言葉があります。それは「無理でしょう」という一言でした。
第三者からみると「ひとり暮らしは無理」だと思えるかたでも、その強い意志を貫き通している姿に感服しました。
Q3.老後「困りごと」を解決するための手続きが大変そう
困りごとは人それぞれ異なります。困りごとをワンストップで解決する場があればよいのですが、「たらい回し」に遭遇することもあり、そのことに疲れてしまう方も多いでしょう。焦って解決しようとすると、そのことでストレスが生じることもあります。
「介護保険のサービスを利用したい」という希望がある場合には介護サービスの必要度(どれくらいサービスを使う必要があるか)を判断する「要介護認定」の申請をします。この申請は居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーや家族も代行できます。
まず自分が困っていることを友人や周囲の人に伝え、そのことをきっかけに、時間はかかりましたが解決に導いてくれる人や機関にたどり着いたケースもありました。
Q4.サービスの手続きが多くストレスになりそうです
介護サービスの利用や手続きに関しては、「要介護」の認定を受けていれば、ケアマネジャー(ケアマネ)が采配します。
そもそも「自分にとって(サービスが)必要なのか」と疑問をもつ視点も大切です。サービスを利用するためのノウハウや解説は本やネットに情報が溢れていますが、「サービスの引き算」をする視点については、あまり触れられていません。
介護サービスを利用することは困りごとが解消される面がある一方、事業者や介護スタッフとの関係性が生じることになり、サービスにまだ慣れていない場合などはそのことがストレスになるケースもあります。
何か不安があるときの最初の一歩としては、具体的に書き出すことです。書くことで自分が抱いている不安が明確になります。気がかりなことと、今できる対応策をセットで書き出してみると不安が軽くなることがあります。
■将来に向けてどんな不安を抱えている?
□ずっと健康でいられるかわからない
□病気になって入院したらどうすればいい?
□介護をしてくれる人がいない
□認知症で人と会話ができなくなったらどうしよう
□働けなくなったらどうしよう
□パートナーがいなくなったらどうしよう
□友達がいなくなったらどうしよう
□物が多すぎて遺品整理ができるか心配
□自分が亡くなった後の手続きはどうしよう
■将来の不安なことリスト
・不安の種類| 不安なこと → 対応策
・体のこと|持病がいつ再発するかわからない → 定期的に検診を受ける
・介護のこと|ひとり暮らしがいつまで続けられるかわからない → 自宅近くの介護施設へ見学に行ってみる
・医療のこと|今かかっているクリニックは訪問診療に対応しているかわからない → 次回の診察のときに確認してみる
・住まいのこと|病院で亡くなった後の対応はどうすればいいの? → 死後事務委任契約について調べてみる
Q5.介護には「最終的にはお金が大事」なのでしょうか?
必要な介護や医療のサービスを利用するには「お金」が必要です。しかしながら、「心豊かなひとり暮らし」を送れるかどうかという観点においては、必ずしもイコールではないということをある女性の取材から実感しました。
野沢宏子さん(88才・仮名)さんは、約20年、ホームヘルパーとして働き、いろいろな家庭を訪問してきました。その経験から、野沢さんは「たとえ家族がいて、経済的な苦労はしていなくても、寂しさを抱える人がいる」ことを知りました。
彼女自身は、経済的な余裕はあるとは言えない状況で生活してきましたが、寂しがってばかりの生活は送りたくないと、家族以外の頼れる仲間や友人をつくることを心がけてきました。
現在、宏子さんは認知症と診断され、その後もひとり暮らしを続けていますが、趣味でつながっている仲間が彼女の自宅をときどき訪れ、おしゃべりを楽しんでいます。これまで大切にしてきた友人や仲間の存在によって、宏子さんは認知症になってもひとり暮らしを続け、心豊かな生活を送っているのです。
Q6.認知症の診断を受けたいのですが、まずどこに行けばよい?
前出の野沢宏子さん(88才・仮名)は、友人との約束を忘れることが増えたことから、認知症の診断を受けることを決めました。そのときに頼りになったのも友人でした。どの病院に行ったらいいのか、まずは友人に相談したそうです。
認知症の不安を感じたら、認知症専門の医療機関『認知症疾患医療センター』のほか、「精神科」、「脳神経内科」、「老年科」でも対応しています。
日本老年精神医学会のホームページでは「高齢者のこころの病と認知症に関する専門医」を検索でき、都道府県別に専門医が調べられます。
Q7.ひとり暮らしでご近所とのつながりもなくこの先心細いです
私は数年前から地域の高齢者を対象にした『よろず相談サロン』の活動をボランティアで行っています。『よろず相談』といっても、その内容の多くはスマートフォンの使い方についての相談です。
地域の公民館などでこのような活動をされている場があれば参加してみるのも一案です。さらに、こうした場にボランティアとして関わることでお仲間もできるでしょう。
私がボランティアを始めたのは民生委員として活動したことがきっかけです。民生委員は厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務委員で住民の身近な相談相手です。支援が必要とする人がいたら、行政や専門機関につなぐパイプ役となります。
民生委員と聞くと「何度も家にこられそう」と感じる人もいるかもしれませんが、「今のところ訪問していただく必要はありませんが、ひとり暮らしで近所に知り合いがいないので万が一のときはお世話になるかもしれません」と伝えておけば、気にかけてもらえるはずです。
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「自分で自分を介護する」ことを実践してきた人の例を、拙著『11の成功例でわかる 自分で自分の介護をする本』で詳しく紹介しています。11人の体験談を参考に、老年期の暮らし方を考えてみてはいかがでしょうか。