コロナで激変!新しい人生の終わり方|愛する人の最期に一緒にいられない悲しみ
病室で面会できない、施設に入れない、葬儀さえできない…する人の最期に一緒にいられないなんて こんなにつらいことがありますか?
病院へお見舞いに行き、通夜で故人とお別れをし、火葬場で見送る―従来の日本人の「最期のお別れ」の常識は、新型コロナによって何もかも変わってしまった。最期の瞬間に駆けつけることは、いまや“美談”ではなく、感染を広げる危険な行為だ。「コロナ時代の死に方」には、想像を絶する悲劇があった。
女手一つで育ててくれた母との最期に一緒にいられない
未知のウイルスは、家族とのかけがえのない時間を徹底的に奪い取る。都内で夫と子供と暮らす吉野真梨さん(仮名・41才)は、緊急事態宣言が全国的に解除された6月になって、急遽、地元の福岡で暮らす弟から呼び出された。
「がんで入院していた母親の状態が急変し、緩和ケア病棟へ移ることになったんです。本当なら、家族全員で行って孫の顔を見せてあげたかったのですが、九州では緊急事態宣言の解除後にクラスターが発生していたため、私だけが慌てて駆けつけることになりました」
真梨さんの母は、福岡市の病院から、コロナ流行の「第2波」が懸念される北九州市の緩和ケア病棟へ移ることになっていた。そのため、転院先の病院では一切の面会が禁止されており、それまでに会わなければ二度と会うことができない状況だったという。
「母は、女手一つで私と弟を育ててくれました。気の強い女性だったのですが、久しぶりに会うと車いすに乗ってやせ細り、信じられないほど弱々しい姿で…。せっかく数年ぶりに親子3人がそろったのに、全員マスクをつけて、飛沫を飛ばさないようにヒソヒソ話しかできなくて、とてももどかしかった」(真梨さん)
面会時間は15分と制限されていたが、病院側の配慮で数分のオーバーは見逃してもらえた。しかし、真梨さんはあまりに味気ない別れだったと振り返る。
「おそらくこれが生きている母に会える最後なのに、抱きしめることも、手を握ることさえもできなかった。東京に帰る新幹線の中で、こんな別れってあるのだろうかと涙が止まりませんでした。本当ならいますぐ飛んで行って、何も気にせず母の手を握りしめたい」
岡江久美子さん、志村けんさん…家族の面会がかなわない
「久美子はいま帰ってまいりました。こんな形の帰宅は、本当に残念で悔しくて悲しいです。どうかみなさんもくれぐれもお気をつけください」
新型コロナウイルスに感染し、4月23日に肺炎で亡くなった岡江久美子さん(享年63)の夫・大和田獏(69才)は、自宅前でそう語った。火葬に立ち会えず、葬儀関係者が玄関前に届けた妻の遺骨を抱く大和田の姿は、日本中に深い悲しみと衝撃を与えた。
同じく新型コロナによって命を落とした志村けんさん(享年70、3月29日逝去)の兄・知之さんも、闘病中の志村さんとの面会がかなわず、死に目にも会うことが許されないまま、遺骨と対面した。
外出時はマスクを着用すること、人との間隔を2m以上空けること、県をまたいだ移動を避けることなど、新型コロナの感染拡大を防ぐための「新しい生活様式」が常識となり、私たちの生活は大きく変化した。それによって、病院、高齢者施設、葬儀場など、「人生の最期」にかかわる場所では、いままであり得なかった「悲劇」が起きている。
デイサービスにも行けず、ひとり家。寂しさで死んでしまう
2年前から、週3回のデイサービスが習慣となっている80代の女性はこう語る。
「4月に緊急事態宣言が出て、施設から、しばらくお休みすると連絡がありました。離れて暮らす子供からも、事態が落ち着くまで人の集まる場所には行かない方がいいと言われ、6月になるまで自宅でじっと過ごしていました。夫はもう亡くなっているし、ご近所の人と会うわけにもいかない。ひとりで家に居続けていると、寂しさで死んでしまうかと思いました」
大阪・西淀川区では、特別養護老人施設に入居していた91才の母親と57才の息子が無理心中する事件が起きた。息子は何年もの間、毎日のように見舞いに訪れていたが、新型コロナによって一切の面会を禁じられた。一時帰宅も認められず、強引に施設を退所した当日の悲劇だった。心中した理由は明らかではないが、“家族に会えない”という孤独が、いかに強いストレスになるのかがわかる。新潟大学名誉教授で水野介護老人保健施設施設長の岡田正彦さんはこう話す。
「感染拡大とともに、病院も介護施設も、入院患者や入所者の家族など訪問者の受け入れを断念せざるを得ませんでした。疾患を抱える人や高齢者は重病リスクが高いので、やむを得ない面もある。ただ、見舞いが禁止されたことで入所者と家族がいっさい顔を合わせられなくなった施設では、双方が不安を募らせている状態になるのでしょう」
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「なぜ会えないんだ」声を荒げる家族
終末期の患者が入院する緩和ケア病棟では、事態はさらに深刻だ。全国の緩和ケア病棟のほとんどで、面会時間の短縮や面会人数の減少など何かしらの制限が余儀なくされている。永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛さんは、「医師にとっても苦渋の決断」と語る。
「生死をさまよう患者さんには、一目でも会いたいという家族の要望は当たり前で、なかには『なぜ会えないんだ』と声を荒らげる人もいました。しかし感染が拡大するにつれ、『仕方ない』という雰囲気に変わっていった。医師としては、亡くなる間際に短時間でも会わせてあげられなかったことが本当に残念で、いまも申し訳なく思っています」
都内大手企業に勤める吉田省吾さん(仮名・58才)は、今年5月に母親を亡くした。入居一時金700万円、月々40万円という高級老人ホームで暮らしていた母の最期の瞬間に立ち会うことはかなわなかった。
「なぜこの施設を選んだかというと、看取りをきちんとやってくれるところで、さらに、看取りの時期に家族の受け入れも対応してくれるところが絶対条件だったんです。今年の1月に母の容体が悪くなり、そろそろだなと思い始めていた矢先、新型コロナの流行が始まった。3月半ばからは面会は完全にシャットアウトされ、最後に会ったのは亡くなる1週間前。防護服を着て30分だけ面会することができました。最期の瞬間には防護服などさまざまな手配が間に合わず、立ち会うことができませんでした」
吉田さんは幼少期に、母が最期まで祖母を看取っていた姿を覚えていた。その記憶から、自分も必ず最期まで見送るつもりだったと話す。
「結局、家族と会えないままひとりぼっちで逝かせてしまった。仕方ないとはわかっていますが悔やみきれません」
※女性セブン2020年7月2日号
https://josei7.com/
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