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連載

認知症の母が作る謎の料理「ゴールドブルー風」に衝撃を受けた話

 新型コロナの感染者がいまだゼロの岩手に住むお母さんの遠距離介護をしている作家でブロガーの工藤広伸さん。

 連載100回目となる今回は、お母さんの得意な料理の話だ。

 認知症が発症する前からよく作っていたというオリジナル料理に隠されていた事実とは…。

母自慢のごちそう『ゴールドブルー風』

 母の十八番料理である『ゴールドブルー風』。わたしの東京の友人が、岩手へ遊びに来たときのメインディッシュとして、食卓によく並んでいました。

 お客様に出す料理なので、見た目は豪華です。しかし母は「この料理は、小学生でも簡単に作れる」と言い、「シンプルだけど、ごちそうに見えるから重宝する」と、認知症が進行した今でも、お世話になっている介護職の方に対し、自慢げに何度も作り方を説明します。

 今回は、『ゴールドブルー風』という料理にまつわる、ある謎についてのお話です。

母の得意料理をレシピ検索すると…

 母の認知症が進行するにつれ、手の込んだ料理はできなくなってしまったのですが、『ゴールドブルー風』のような簡単な料理なら、最後まで忘れずに作り続けられるかもと思い、わたしは『ゴールドブルー風』のレシピを残しておくことにしました。

 料理が上手だった母は、どんな料理もすべて自分の感覚で作るタイプの人だったので、『ゴールドブルー風』に塩やコショウをどれくらい入れたらいいのかを質問しても、「自分の勘」という回答しか得られませんでした。

 困ったわたしは、インターネットで『ゴールドブルー風』のレシピを探してみたのですが、検索結果がなぜか1件も表示されません。どんな料理もネットで検索すれば、レシピがすぐに出てくる時代なのに、です。

 料理の名前に「風」がついていたので、『ゴールドブルー』で検索してみたのですが、1件もヒットしませんでした。

「ネットに載ってない料理が、あるわけがない」と思ったわたしは、改めて母に聞いてみると、

「ゴールドブルー風は、ゴールドブルー風よ」という回答でした。本当に母のオリジナル料理なのだろうと、この時は思いました。

→認知症の母が作った不思議な夕食に心がざわついた話

→介護で得するお金の制度12選|布団丸洗い無料、地震の備えやヘアカット助成金も…

2015年は付け合わせが豪華だった

認知症の母が作った謎の料理コールドブルー風2015年版

 結局、『ゴールドブルー風』の味付けはよく分からなかったものの、料理の手順だけは分かったので、レシピは中途半端に完成しました。

『ゴールドブルー風』の作り方

『ゴールドブルー風』の作り方は、料理をしないわたしでも覚えられるほど簡単です。まず、2枚の薄い豚肉でチーズとハムを挟んだあと、フライパンで焼き色をつけます。

 焼きあがった豚肉をフライパンから取り出し、小さな牛乳パックに入った植物性脂肪ホイップを泡立てずに、液状のままフライパンへ入れ、塩、コショウ、しょうゆなどで味付けをしてホワイトソースを作り、豚肉の上にかけて完成です。

『ゴールドブルー風』の謎が解けた!

 ネットにも載っていない謎の料理『ゴールドブルー風』に、なんとなく違和感を持っていたのですが、あることがきっかけで、ついにこの謎が解けたのです。

 わたしの介護ブログ「40歳からの遠距離介護」に、『ゴールドブルー風』の記事をアップしたときのことです。記事を読んだブログ読者の方から、こんなコメントが寄せられました。

≪≪何とオシャレな料理を得意とされるお母様でしょう!付け合せの彩りも美しいですね。

 ネーミングは、『コルドン・ブルー』がより親しみのある単語に寄せられたのではないでしょうか?≫≫(原文ママ)

「コルドン・ブルー?」

 20年以上『ゴールドブルー風』だと思い込んでいたわたしにとって、「コルドン・ブルー」という料理の存在は本当に衝撃的で、長年抱えていたモヤモヤが一気に解消された瞬間でもありました。

 早速「コルドン・ブルー」についてネットで検索してみると、「コルドン・ブルー」はスイスの料理で、作り方は『ゴールドブルー風』と途中まではほぼ同じなのですが、最後に小麦粉や卵、パン粉を付けて揚げると、「コルドン・ブルー」が完成することが分かったのです。

 料理の名前に『風』がついていた理由も、「コルドン・ブルー」をベースにした料理ではあるけれど、揚げずに焼いたそれっぽい料理だからという意味でした。

 さらに、母が料理の名前を勘違いして覚えていたために、『ゴールドブルー風』は生まれたのです。

謎が解けたわたしは、母に「コルドン・ブルー」というスイス料理があることを伝えたのですが、母は「20年前の料理本には、ゴールドブルー風と書いてあった」と言い張り、全く納得していませんでした。

→20代30代にも迫る「孫介護」の実態|祖母の介護で後悔していること

母の得意だった料理の味が…

 2018年に、母に作ってもらった『ゴールドブルー風』がこちらです。

2018年に認知症の母が作ったゴールドブルー風は付け合わせの人参の味が…

 2015年当時と比べると、付け合わせが人参グラッセだけになっています。

 以前はマッシュポテト、アスパラ、人参グラッセ、ホウレンソウ炒めの4品でしたが、作り方を忘れてしまったようです。ただ、付け合わせが物足りないという感覚だけはあるようでした。

 『ゴールドブルー風』は、レシピを見ずに母の感覚だけで完成しました。

 しかし、人参グラッセは、口の中に広がるいつもの甘さがありません。わたしは、味がないことを母に伝えようか悩んだのですが、そのままグッと飲み込みました。

 2020年はまだ1度も『ゴールドブルー風』を作ってもらっていません。

 新型コロナウイルスの影響で3月末より帰省できていないため、この料理を作ってもらう機会がないのです。県をまたぐ移動の自粛が解除されたら、もう1度『ゴールドブルー風』にチャレンジしてもらおうと思っています。

 今日もしれっと、しれっと。

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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