暮らし

ずっと家族と顔をつき合わせうんざりしているときは…|700人以上看取った看護師がアドバイス

 元気な家族でも、何日も顔をつきあわせ続けていれば、もめごとが起きる。まして、身体の自由がきかず気難しくなった親との生活では、もう限界だと悲鳴をあげることになる。病院の看護師として700人以上を看取り、今は訪問看護師としてたくさんの家族の事情をみてきている宮子あずささんに、アドバイスをもらった。

→親が「痛い」と泣いているのに何もできず困ったときアドバイスを読む

自分の意志でやめられないからしんどい

 同じ空間で顔をつきあわせ続けていなくてはいけない。その中で何が一番ストレスになるかというと、自由がないこと、拘束感があることです。

 嫌になったときにやめられない、自分がその場をコントロールできないことがストレスを引き起こしているわけです。

●長時間の会議が嫌いでなくなった理由

 私は、病院で看護師として勤務していたとき、会議が大嫌いでした。病棟のナース会議が何時間も続いたりすると本当に嫌でした。ところが、自分が看護師長になって会議を開く権限を持たせてもらえると、時間が長くてもストレスにはならないんですね。やめたければやめられるからです。人間は、自分がやめたくてもやめられないと辛いのです。

 介護のしんどさは、それと同じで嫌でもやめられないことです。親も子もお互いに元気なときは会いたいときに会って仲良く過ごすことができた。しかし、同じ空間にいるのが、状況的に決められてしまっていて、自分の意志でやめることができないのがストレスになるのです。

 解決するためには、自分が自分の意志でそこから離れることができるようにすることです。

●部屋から出るかヘッドホンで何か聴くか

 例えば別の部屋でする用事を設けて、短い時間でも顔を見ないでいられるようにするのです。どうしても同じ部屋から出られないなら、ヘッドホンで何かを聴くということでもいいでしょう。

 ともかく、親とずっと顔をつきあわせているという状況から、自分の意志で離れることができるようにするのです。ヘッドホンを1日3時間以上聴くといいといったことではありません。極端に言うと今日はヘッドホンを聴けなかったという日があったとしても、「私はヘッドホンを聴くことができるんだ」と思っているだけでも楽になります。心理的な選択権を持っておくということですね。

●親の側に多くを求めるのは難しい

 親に、「友人とLINEで活発なコミュニケーションをして気分転換をしてくれ…」などと言っても難しい場合が多いでしょう。今から、やりがいの持てることを作ってということも大変です。親の側に多くを求めるのは難しいのです。介護する側が、自分ひとりの時間を持つとか、親との距離を持つとか工夫していくしかないと思います。

機能低下を防ぐためには運動や作業を

 親が外出できない状況が続くと、機能低下が起きる不安を抱えることになります。

運動でタッチングすることは精神的な安定にも

 毎日、家の中で一緒に運動したりできるといいでしょう。介護している子どものほうも、運動を習慣にすることになってメリットがあります。

 親がひとりでできない状態なら、介助して運動させるのもいいことです。筋肉を落とさないようにして、関節が固くならないようにするためには、動かしてあげることが必要です。また、人に触ってもらうタッチングで、精神的に安定することにもつながります。

※ただし、高齢者を感染から守るため、タッチングの前には手を洗うことをお勧めします。

折り紙や料理を一緒にやってみる

 機能低下が起きないようにするには作業的なことも有効です。デイサービスで折り紙を折ったりするのはそのためです。手作業に没頭することで無心になれるのは、日々ストレスにさらされている中で救いにもなります。反復があって少しクリエイティブなものが理想です。

 手芸が趣味だったという親御さんも多いと思いのではないでしょうか。料理を一緒に作るのもいいでしょう。親と顔をつきあわせている時間を、会話だけで埋めようとするのはなかなか大変です。昔得意だったことの延長で、なにかすることを探せるといいと思います。

<ずっと親と顔をつきあわせてうんざりしたときのためのまとめ>

●ストレスになるのは、自分の意志でやめることができない、決める権限を持てないから。

●別の部屋に行くとか、ヘッドホンを聴くとか、心理的な選択権を持つようにする。

●親との時間を会話だけで埋めようとするのはなかなか難しい。

●機能低下を防ぐためにも、運動や作業を一緒にやるといい。

今回の宮子あずさのひとこと

「自分だけの時間と空間が欲しいのは当たり前」

 私はひとりっ子だったこともあり、ひとりで過ごすことには慣れています。結婚してツレと住むようになって、原稿を書いたりできる自分の空間を確保するように工夫しています。
 
 自分だけの時間と空間が欲しいという当たり前の欲求が、かなえられないことが多いのが介護です。我慢しなくてはいけないと自分の気持ちを押し殺していると、続けることはできませんから、ぜひ自分なりのリフレッシュをなさってください。

 うちでも、ツレの会社が新型コロナウイルスの緊急事態宣言を受けて一斉休業になり、私の出勤日以外は、それほど広くはない家の中でずっと二人で過ごすことになりました。

 家族がずっと家にいることで家事も増えますね。例えばお昼ご飯。今までは適当にすませていたのですが、新たに献立を考えるとすると負担が増えてしまいます。

 そこで、お昼ご飯は、インスタントラーメンとかレトルトカレーと作りおきおかず、と決めてしまうことにしました。うちの冷蔵庫にいつも入っているおかずは、もやしのごま和え、手羽元の煮込み、味付けゆで卵など。お昼はマンネリになってもいいことにしました。

 それぞれの家庭で、今まで経験したことがない生活の知恵が求められているのだと思います。

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教えてくれた人

宮子あずさ

宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。

構成・文/新田由紀子

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