親にうんざり、悪感情を抱いてしまったら…|700人以上看取った看護師がアドバイス
介護で顔をつきあわせていることが長引くと、親に対して悪感情がたまってきてしまうことがある。うんざりし、顔も見たくないと思い、憎らしいと思い、いちいち腹が立つ…。宮子あずささんは、看護師として700人を看取り、自身の母を介護するときには衝突も重ねた経験がある。宮子さんはまず、親に嫌な感情がわいたことについて、罪悪感を持たなくていいのだとアドバイスする。
→ずっと家族と顔をつき合わせうんざりしているときの対処法を読む
嫌な感情がわいてもいい、ひどいことを言ってしまっても仕方ない
介護をしていて、親に対して嫌な感情がわいてきてしまうことがあります。顔をつきあわせているのが長期化してきて、逃げ場がないとなおさらです。煮詰まって、どんどん暗い気持ちになってしまっているという話もよく聞きます。
●これが、相手を嫌いになっていくメカニズム
私は、大病院をやめて、訪問看護の仕事をしています。1対1で患者さんと向き合っていて、嫌な感じになることがあります。そういうときには、感情をごまかしてはいけない、と自分に言い聞かせるようにしています。
人は、自分が相手に悪意を持ったことを認めないで、そんな気持ちにさせた相手が悪いと思ってしまいがちです。
「私はまともだけど、こんな人だから私はこんな気持ちになってしまったんだ」と相手のせいにする。モードが切り替わって、どんどん相手のあら捜しをし、無意識に自分を正当化していく。
これがますます人を嫌っていくメカニズムです。
そちらに行ってしまわないためには、一瞬嫌だと思ったことを「ああ、思っちゃった」と認めることです。
●親を嫌がってはいけないと思うから、事態が悪くなっていく
嫌ってはいけないと思っていることが、事態を悪くしていきます。患者さんを嫌ってはいけない、親を嫌ってはいけない。建前として、嫌がってはいけない関係なのに、嫌だと思ったことを認めたくないのですね。
まずは自分に起こった感情を認めること。そして私は、ともかく一度、その場から去るようにしています。切り替えるのには時間が必要です。少し離れたほうがいいのです。
●「こういうことは決して言ってはいけない」のかどうか
自分が嫌な感情を持ったことを親に伝えたほうがいいかはケースバイケースでしょう。しかし私は、基本的には「こういうことは決して言ってはいけない」と気にする必要はないと思っています。
介護を毎日続けていれば、どうしようもなく煮詰まって、激しい言葉を投げつけてしまうことがあるでしょう。ひどいことを言ってしまったとしても、そんなに取り返しがつかないことはないはずです。がんじがらめにならずに、たまには爆発しても仕方がないと思っていてはどうでしょうか。
親がなにか楽しみを持つようにしむけてみる
外に出られない日々が続くと、介護する側もされる側もネガティブになってしまうものです。
●自慢話や他人の悪口を繰り返してしまう
まして親は、考えてみれば何の楽しいこともないし、やりがいのあることもありません。ほめてもらいたくて昔の自慢話を繰り返したり、他人の悪口を繰り返したりします。
そういう話は聞き流すとして、できれば親に、なにか楽しみを持つようにしむけてあげられるといいでしょう。
●「暴れん坊将軍」「あしながおじさん」などをすすめてみる
私の母(作家・評論家の吉武輝子さん 享年80)は、外出できないようになって、時代劇チャンネルをよく観ていました。「大岡越前」とか「暴れん坊将軍」なんかが好きだったようです。
「私が読み返してみたら面白かったんだけど、お母さんも読んでみない?」と言って、母親に、自分が昔読んだ児童書をすすめたという人もいます。「あしながおじさん」「赤毛のアン」といった、字が大きくて読みやすい本を読んで、親の気持ちが明るくなったそうです。
親は、インターネット犯罪だとか企業買収をあつかった展開の早いドラマでは楽しめないでしょうし、分厚い最新のベストセラー小説も同じです。子どものセンスで面白いと思うものではなく、少し昔のもの、シンプルなものをすすめると、楽しんでもらえるかもしれません。
〈親にうんざりして悪感情を持ってしまったときのためのまとめ〉
●人は自分が悪意を持ったことを認めないで、そんな気持ちにさせた相手が悪いと思ってしまいがち。
●どんどん相手のあら捜しをするのが、人を嫌いになっていくメカニズム
●まずは自分の感情を認める。その場から立ち去る。
●「こういうことは決して言ってはいけない」とがんじがらめにならなくてもいい。
●外に出られない日々が続くと、介護される側も介護する側もネガティブになってしまう。
●親の自慢話や他人の悪口は聞き流す。
●少し昔のシンプルなドラマや本などをすすめて、楽しみを持つようにしむけてみる。
今回の宮子あずさのひとこと
「親と子は気が合うと決まっているわけではない」
介護は、実際のところ、相手が自分にとって親だからという理由でしているものです。親の面倒はみるべきだという倫理観ですね。
夫婦だったら、一度はその人と気が合うと思って選んだのだから仕方ないというのがありますが。親と子どもは、気が合うと決まっているわけではない。そんな親子が、狭い空間の中にずっと顔をつきあわせていなくてはならない状態は、大変に決まっているのです。
新型コロナウイルスの感染拡大で、家族がずっと一緒にいなくてはならないために、児童虐待や家庭内暴力などが起こっています。家族関係の問題が噴出することが多いこうした事態の中で、介護をしている多くの家族の皆さんもストレスを抱えて暮らしていらっしゃるでしょう。ともかく頑張りすぎないでお過ごしいただければと思います。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子
●みんなのマスク事情調査|入手方法は?使い捨てを洗ってる?…驚きの事実が