猫が母になつきません 第459話「とんぼ」
母が私のスマホに残した留守電のメッセージが捨てられません。かといって聞くこともありません。残っているメッセージは認知症が進んでからのもの。聞いたとてつらい記憶が蘇るだけです。でもやはり捨てられないのです。残ったメッセージは11件。母、母、母、母と「母」の文字が並んだリストを見てもそれを聞いてみようという気にはどうしてもなれない。聞くのがこわい、のだと思います。スマホで撮影した動画もたくさんあるのに、留守電のメッセージのほうがずっとこわくて重いのはなぜなんでしょう。
庭で群れをなして飛んでいたトンボは「ウスバキトンボ」。別名、精霊(しょうりょう)とんぼと呼ばれているものでした。お盆の頃になると日本各地で群れて飛ぶのが見られるので、祖先の霊を乗せて帰ってくると言われているそうです。トンボは蚊を食べるので、トンボが飛んでいると蚊は逃げてしまいます。つくりもののトンボの虫除けというものがあるくらいで。なのでこの日はトンボのおかげで虫除けなしで庭仕事をすることができました。虫に刺されるといつもひどく腫れてしまって大変なのです。母はよく「私は全然刺されないわよ、えっへん」と自慢していましたが、蚊の唾液に対するアレルギー反応が鈍くなっていたか、免疫がついて、かゆみをほとんど感じなくなっていたかだと思います。 トンボの群れは次の日にはどこかに移動していなくなっていました。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。
※現在、1話~99話は「介護のなかま」にご登録いただいた方のみご覧になれます。「介護のなかま」のご登録(無料)について詳しくは以下をご参照ください。
https://kaigo-postseven.com/156011