兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第39回 一緒にお風呂に入る兄妹がいました」
61才の兄と同居しているライターのツガエマナミコさんが、2人の日々の暮らしを綴る連載エッセイ。
兄は若年性認知症を患っている。先日、お風呂に入らなくなってしまった兄の頭髪を洗うために、入浴介助をしたツガエさん。ついに兄の全裸と対峙することとなってしまい、複雑な胸中だ。そんなツガエさんがある日目にしたテレビ番組で、衝撃のシーンに遭遇!?
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
兄妹入浴、ってありなんですか?
あまりにタイムリーな内容に「まじで?」と思いながらも興味津々で画面に食い入ってしまいました。
それはわたくしが兄の入浴介助という人生最悪の使命を終えて間もないある夜のこと。テレビを見ていたら「お兄さんが好きすぎて一緒にお風呂に入っている」とのたまっていらっしゃる女性芸人さまが満面の笑顔で出演されていたのです。なんと御年31歳。お兄さまはぽっちゃり体形の33歳。
その女性芸人さまは、小さい頃からお兄さまのことが大好きで、今でも「憧れています!お兄さんになりたい」と公言するほどの溺愛ぶり。こういう場合、たいてい溺愛されているほうは多少迷惑がっているものなのですが、こちらのお兄さまはまんざらでもないご様子。ご自宅が映り、女性芸人さまの裸体こそ映らないものの、一緒にお風呂に入ってキャッキャしている画が流れまして、わたくしは言葉を失うと同時に、向かいに座る兄の顔を見ることができませんでした。
かつて、二十歳を過ぎても父親とお風呂に入っているという女性タレントさまのお話しを聞いたことはありましたが、さすがに兄妹で入浴するなど、この世に存在しない現象だと思っておりましたので後頭部を鈍器で殴られたような衝撃でございました。おまけに親御さまも「普通ですけど何か?」的なスタンスでまったく疑問視していらっしゃらない。
番組的には「珍しい兄妹」というテイストで終わったのですが、このような兄妹が確実にここにいるということは、ほかにも存在する可能性が高いということ。“もしや世間ではわたくしが思っているほど兄妹入浴はナシではないのかもしれない”と思い、己の常識が揺らいでいくのを感じました。
こういう方々をマザコンならぬブラコンと呼ぶそうです。
わたくしも手放しで「お兄ちゃん大好き!」と言えたなら、今ごろ最高にハッピーな毎日でしたのに、じつに残念な結果でございます。
ただ、そのご兄妹、「どっちかが結婚しても3人でお風呂に入る」とおっしゃっていたので、大好きすぎるのもいろいろな問題をはらんでいるとお察ししました。何事もほどほどがようございます。
あれから兄の入浴介助はしておりません。通院の日にわたくしが医師に「先日、腕が痛くて上がらないと言うので頭を洗ってあげたら翌朝ケロッと治っていた」と告げ口したのが少し効いたのか、深夜に一人で静か~に入浴しております。
でも翌朝の髪は脂ギッシュのままでして、浴用タオルも乾いており、石鹸でゴシゴシした形跡がございません。お蔭さまで加齢臭はそこはかとなく漂っており、いつかまた「洗ってあげよか?」自爆砲を発動しなければならない日が来ると覚悟しております。
思考がそこにたどり着く度に「あたしゃ、あんたのお母ちゃんやないでぇ!」と心の底から叫んでしまいます。もっと見た目が痛々しいとか、見るからにボケている老人ならもう少し優しい気持ちになれるのでしょうが、兄は傍から見れば61歳の普通のおっさんです。近頃は、無精ひげも蓄えられて、見た目はちょい悪オヤジでございます。なのにできることは限られていて判断力は5歳児以下という絶望的なギャップ。たぶんわたくしの無垢なハートがその現実に追い付けていないのでございます。
つづく…。(次回は5月7日公開予定)
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、5年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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