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認知症介護、家族がたどる「4つの心理的ステップ」って?

 認知症の母を、遠距離(東京―盛岡)で介護を続け、その様子をブログで発信し、話題となっているクドヒロさんこと工藤広伸さんが、息子の視点で“気づいた””学んだ”数々の「介護心得」を紹介するシリーズ、今回は、工藤さんが「ぜひとも知ってほしい」とより強い思いをこめたアドバイス。

 認知症の介護をする家族の心境が、どのように変化していくか、段階(ステップ)ごとの解説です。認知症介護の人も、これからするかもしれない人も、必見!

 * * *

 4年間の認知症介護生活の中で、介護をラクにしてくれた一番のコトバは何ですか?と質問されたら、間違いなく今日ご紹介する「4つの心理的ステップ」と答えます。

 家族が認知症と診断されたとき、介護する側は、急に霧に覆われたような感覚になります。進む方向も目印もない、何をしていいか分からないという大きな不安のためです。しかし、この「4つの心理的ステップ」を知ることで、霧が晴れ、遠くまで伸びるまっすぐな1本の道が見えるようになるはずです。

 それぞれのステップ、どう攻略すれば、認知症介護がラクになるかについて解説します。

「4つの心理的ステップ」とは?

 このステップは、川崎幸クリニック院長・杉山孝博先生が考案されたものです。『公益社団法人認知症の人と家族の会』の副代表理事でもある先生は、認知症介護で苦労する家族の気持ちをよく理解されています。

第1ステップ 「とまどい」「否定」

 几帳面でしっかりしていた人が、突然変なことを言い出す、簡単なことが出来なくなる姿をみて、介護する側は「とまどい」ます。一瞬、認知症かも…と思うのですが、先月まで普通だった人が、急に認知症になるわけがないと「否定」します。このステップでは、認知症だということを家族が認めないので、誰にも相談できない状態になり、強い孤独を感じます。

第2ステップ 「混乱」「怒り」「拒絶」

 とまどい・否定をしたところで、認知症の症状は一向に改善されません。相変わらず、同じことを何度も言うし、勝手な行動を取ります。次第に家族は「混乱」し、どう対応していいか分からなくなります。昔と変わらず、自分の常識で認知症の方と接するのですが、全く理解してもらえないので、次第に「怒り」へと変わります。

「なんで分かってくれないの! さっきも言ったでしょ!」

 そんなイライラした日々を過ごすうちに、精神・肉体ともに疲れ果てた家族は、介護を「拒絶」します。

 あの人さえいなくなってくれれば、介護は終わる…そんな気持ちにすらなります。ここで適切な医療や介護サービスを受けずに、混乱・怒り・拒絶を続けると、認知症の症状はさらに悪化すると、杉山先生は言っています。

第3ステップ 「割り切り」または「あきらめ」

 人間がすごいと思うのは、第2ステップのようなつらく苦しい状況に追い込まれても、何か気づきを得ていることです。それは、認知症という病気だから、自分の常識に当てはめてもしょうがないという「割り切り」や、何回言っても改善されないのだから、注意するのは止めようという「あきらめ」の境地に達するのです。

第4ステップ 「受容」

 認知症の人のすべてを受け入れられる状態になることを、「受容」と言います。介護者が人間的な成長を遂げた結果、悟りの境地のようなところにたどりつきます。この頃になると、どんな言動でも許せてしまいますし、介護者の心は波のない水面のように穏やかです。

なかなか第3ステップに進めないワケ

 介護者の中には、何年経っても、第1ステップと第2ステップのままの人もいます。認知症を認められず怒り、混乱する日々は、介護者自身を疲弊させます。

 なぜ第3ステップに進めないかというと、認知症の症状がどういうものなのか、理解しようとしていないからです。どんな不思議な言動も、認知症ご本人にとっては事実であり、忘れてしまうから、何回も繰り返し言うのです。

 第1ステップ、第2ステップから早く抜け出すには、介護者自身が認知症の勉強をすることが大切です。

 わたしは、認知症の本を多く読み、症状を理解して対応方法を研究しました。そして、時間の経過もある程度は必要です。つらくて泣いてしまう、疲れ切ってしまう経験を重ねることで、そこから抜け出したいという強い思いが生まれ、認知症を学ぶ原動力となることもあります。

 認知症を深く知ることで、第3ステップが見えてきます。自分が第3ステップにいるなと感じられると、認知症ご本人にもプラスに働くと実感できると思います。

 私の経験では、症状が安定し、進行がゆっくりになる印象です。なぜかというと、次の法則と関係しているからです。

もうひとつ、覚えておきたい「作用・反作用の法則」

 その法則とは、「4つの心理ステップ」と同じく杉山先生が提唱する「作用・反作用の法則」です。これも合わせて覚えておいてください。

 簡単に説明すると、“認知症の方は、介護者の鏡”という意味です。介護者がイライラすれば、認知症の人もイライラするのです。第2ステップで怒る家族に当てはめて考えると、家族が怒るから、認知症の人も一緒に怒るというのが理解できます。

 わたしは、このステップに早く出会ったおかげで、第1、第2ステップの時間をかなり短くすることができました。また、意図的に、先のステップへ進む努力をしました。

 もうひとつ、子宮頸がんで余命半年と告げられた90歳の祖母のおかげで、第4ステップにもすぐ到達できました。これから死にゆく人に、怒りをぶつけることは、人としてしないでしょう? すべてを受け入れようと思えたのは、余命半年という時間の制約のおかげでした。

 いかがでしたか? とにかく第1、第2ステップから早く抜け出して、介護者自身を守ることが、介護者にとっても、認知症ご本人にとっても幸せなこととではないでしょうか?

 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸 (くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)

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この記事へのみんなのコメント

  • チャーチョビママ

    認知症の義母を介護してまだ1年位です。 発症し始めたのは三年前位。1年半前に介護していた二人暮しの義父が入退院を繰り返し、そこからお手伝いをする様になりましたが、先月父が亡くなってしまいました。 まだまだ介護初段回です。 …が、母の認知はもう後期になってきていると医者に言われ、薬も効果がないと言われ、今は内科と整形外科の健診のみです。 母は86歳介護3。父は先月84歳で他界しました。 まだまだ、私自身が工藤先生でいうステップ2段階で、質問責めの介護に振り回されている毎日です。 下の息子が小6ということもあり、近くですが、行き来して介護をしています。 デイサービスに週4位で行っている時が唯一ホッとできる時。 出口の見えない介護に自分と葛藤している毎日です。 周囲はよく頑張ると言って、もう預ければ…と言ってくれますが、私自身がまだ大丈夫、排泄が自分でできなくなるまで…と大体の目標を決めてはいますが、デイサービスの拒否やらデイサービスの方から今後の事を話したいと言われている為、どうしていいか悩む毎日です。 質問責めの対処法を調べたくて、このサイトにたどり着きました。 救われるました。涙が出ました。 代弁していただいてる様で…。 これで少しは頑張れます。 本当にありがとうございました。

  • Mano

    現在は施設にいる要介護4の父は、 介護スタッフや娘の私に対しては穏やかで、 唯一妻である母には大声を上げたり不穏状態になります。 私自身は、 その不穏状態になった父に私が穏やかな気持ちで接すると 驚くくらい急に父が大人しくなるので、一緒に居てお互い心が落ち着きますが、 実家で独り暮らしになった要支援1の母に対してはものすごくイライラします。 もちろん「父には諦め」、「母には期待(諦めてない)」ももちろんあるのですが、 なんといっても元気だった頃の人間関係が一番尾を引いています。。。 父には大声で怒鳴られた覚えがほとんど無く、 母はカリスマ教祖様クラスの毒親なので・・・。

  • fukuta

    もっと早くにこの記事に出会いたかった。けれど、どうしても介護側は認知症のひとに対してイライラしてしまいますよね。もっと優しく接してあげたかったけど、できずに後悔しています。

  • tanaka

    これはあくまで一例であってこうあるべし、こうありたいという理想の一つであると思います。実際はステップ3の段階で介護者の体調や精神に異常をきたすこともあります。そうなる前に包括センターへ相談したりケアマネージャーさんを見つけたり施設や介護サービスの検討を速やかに始めるといいと思います。

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