入浴中の心肺機能停止で助かる可能性は1% 急な血圧低下にも要注意
入浴中の死者数は年間1万9000千人(平成15年、厚生労働省発表)で、お風呂場での事故は身近な問題だ。中高年は、浴室でのヒートショックには真っ先に注意しなければいけない。ヒートショックは、急激な温度変化により、血圧が急上昇することで起こると言われている。
しかし、危険なのは血圧の上昇だけではない。
湯船で溺れて亡くなった40代だった父
「私が大学生の頃、まだ40代後半だった父が湯船で溺れて亡くなりました。“なぜこんなに浅い湯船で溺れるの?”と信じられない気持ちでしたが、血圧が下がりすぎたことによる意識障害が原因ではないかと聞かされました」(三田園子さん・28才・仮名)
ヒートショックは血圧が急上昇することが原因だが、同じ入浴中に逆の現象がなぜ起こるのか。国際医療福祉大学大学院教授の、前田眞治さんが指摘する。
「問題なのは入浴時間です。湯船につかると血圧は一時的に上昇しますが、しばらくすると今度は急激な低下に転じるのです。血圧が下がることで脳に血液がいかなくなると意識障害を起こし、湯船に鼻までつかって溺死してしまうケースがある。意識があるときなら水が鼻に入れば気づいて目覚めますが、意識障害の状態だと目覚めることがなく、ものの数分で溺死してしまいます」
長時間の入浴で血圧急低下
前田さんは年代ごとにグループに分け、日本人が好む42℃の湯船に入ってもらい、血圧変化を測定する実験を行った。
「危険が伴うため、実験対象者は50代までで、入浴時間も“10分まで”にしました。それでも50代のグループでは、血圧が50ほど急激に低下しました。10分以上入っていたら、さらに血管が開いて血圧は下がっていくでしょう」(前出・前田さん)
しかも血圧の低下は、湯船から出るときにも影響を及ぼすという。
「血圧が下がった状態で浴槽から立ち上がろうとすると、お湯の水圧から解放されることでさらに血圧が下がる。ひどい立ちくらみを起こして意識障害を起こし、転倒してしまうリスクが増してしまいます」(東京都市大学人間科学部教授 早坂信哉さん)
さらに、食後は食べ物を消化するために血液が腸などの消化管に集まる。これにより脳に流れる血液が減り、その状態で入浴すると血圧低下も加わって意識障害のリスクが増すという。食後30分は入浴を避けた方がいい。
「肩までゆっくり」で心停止の重大リスク
入浴時間は、生死をわける境界線にもなる。千葉科学大学危機管理学部教授の黒木尚長さんは「入浴熱中症」に注意を促す。
「肩まで湯船につかった場合、41℃のお湯なら33分、42℃なら26分、43℃なら21分で、人の体温は40℃に達します。40℃を超えると、入浴中であっても重度の熱中症に陥り、意識を失う危険性もある。そのまま入り続ければ、当然、体温はさらに上昇し、体温が42.5℃を超えてしまうと心停止を起こします」
入浴熱中症は年齢に関係なく、若い人にも起こり得るというから怖い。
「ただし、若い人は“熱い”と感じたり、のぼせや頭痛といった初期症状を感じるので、その段階で湯船から出ることがほとんど。一方、年配になると温度感覚が鈍くなり、体からのSOSを受け取りづらくなる。気づかないまま長湯をして熱中症になってしまう危険性はより高いといえます」(前出・黒木さん)
東京防災救急協会によると、入浴中の心臓機能停止事例の救命率は約1%。ほとんどが死亡してしまうからこそ、普段から注意を払う必要があるのだ。
教えてくれた人
前田眞治さん/国際医療福祉大学大学院教授。
早坂信哉さん/医師。東京都市大学人間科学部教授。お風呂と健康の関係を医学的に研究している。
黒木尚長さん/千葉科学大学危機管理学部教授
※女性セブン2020年3月19日号
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