浴室での死亡事故は交通事故の6倍!まだ若いからと油断は禁物
厚生労働省が2015年に発表した推計によれば、入浴中の死者数は年間1万9000人。2019年に交通事故で死亡した人数は3200人。つまり、交通事故と比べて約6倍もの人がお風呂場で亡くなっていることになる。
風呂で転倒、53才で亡くなった妻
関東地方に住む飯野雄太さん(57才・仮名)がお風呂場で倒れている妻を発見したのは、1月下旬の深夜のこと。慌てて救急車を呼んだが、数日後に死亡が確認された。
「私は先にベッドに入って寝ていたのですが、夜中に目が覚めると妻の姿がない。お風呂場の電気がついたままなのに気がつきました。妻は私が眠った後にお風呂に入り、何らかの要因で転倒して頭を強打してしまったようです。まだ53才なのに…本当にショックで仕方ありません」(飯野さん)
死因は脳出血だった。飯野さんの妻に起きた悲劇は、決して他人事ではない。2010年に東京都が男女4000人を対象に調査した『浴室等に潜む危険』の報告書によれば、「浴室でヒヤリとしたりけがをしたことがある」と回答した2715件のうち「転倒」を含むものが2019件を占めた。
浴槽内の転倒は大きなけがや死につながる可能性が
倒れても軽いけがですめばいいが、飯野さんの妻のように死に至るケースも少なくない。お風呂場のどこが危険なのか。お風呂と健康の関係を医学的に研究している医師で、東京都市大学人間科学部教授の早坂信哉さんが言う。
「入浴中の浴槽内での転倒は、大きなけがや溺死につながる可能性があります。入浴剤の溶け残りがあると浴槽の底はヌルヌルと滑りやすく、お風呂から出ようと立ち上がるときに滑って転んでしまう。その際に壁や浴槽のふちに頭を打って意識を失い、お湯に頭がつかり、そのまま死亡してしまう事故も少なくないんです」
●吸盤付き滑り止めマットを敷いて対策を
浴槽内での滑り防止は、浴槽の底に「滑り止めマット」を敷くことでリスクを抑えることができる。洗い場の床も、石けんやシャンプーの泡が残っていると滑りやすい。
対策として設置した滑り止めのバスマットが、マットごと滑って転んでしまうこともあるので、吸盤付きのものをチョイスした方が安全性が増す。
●高齢者には脚の長い介護用椅子を
入浴剤や石けんなどに関係なく、片足立ちになるシチュエーションは注意が必要。浴槽に入るために片足を上げたときに、バランスを崩して倒れてしまう高齢者が多いという。
いったん浴槽のふちに腰をかけてから、ゆっくりと入ることで危険を回避できる。脱衣所にも片足立ちのリスクがあり、立ったままでズボンや靴下、ストッキングなどを脱ぐときに転倒してしまうケースもある。座ったら座ったで、危険な場所も。介護ジャーナリストの末並俊司さんが解説する。
「浴室内の背の低い椅子は、立ちくらみの原因になりやすい。立ちくらみは急に立ち上がった際に、脳の血流が一時的に低下することで起きます。体を洗い終わって立ち上がったと同時にクラっときて転倒し、頭を打つ事故も報告されています。脚が長い介護用の椅子だと、姿勢が大きく変わらず、立ちくらみを起こしにくい。取り替えることをおすすめします」
死を招く危険スポットと主な対策
・入浴剤を入れた浴槽内
溺死につながる転倒を防ぐため、手すりを設置したり、浴槽の底に吸盤付きの滑り止めマットを敷く。
・浴槽
片足立ちになる跨ぐ瞬間にリスク増。ふちに腰をかけてから入るようにする。
・バスマット
マットごと滑る危険性があるため、吸盤付きのバスマットに取り替える。
・脱衣所との段差
手すりをつけたり、すのこ等で段差の幅を狭める。
・シャンプーや石けんの泡が残った床
体を洗い終わったら熱いお湯で流しきる。
・低い椅子
立ちくらみを起こしやすいので、脚の長い介護用の椅子に取り替える。
高齢者が要注意なのは言うまでもないが、立ちくらみによるふらつきを経験したことがある人は多いはず。「まだそんな年じゃないから大丈夫」という油断は禁物だ。
教えてくれた人
早坂信哉さん/医師。東京都市大学人間科学部教授。お風呂と健康の関係を医学的に研究している。
末並俊司さん/介護ジャーナリスト。『週刊ポスト』を中心に活動する。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都板橋区にあるグループホームにて月に2回のボランティア活動を行っている。
※女性セブン2020年3月19日号
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