「和食は長寿食」その秘密ともっと長生きする食べ方|プラスしたい世界の食材リスト
長寿大国日本。日本人を支える「和食」は、今や世界中から「健康食」として注目を集めている。しかし、和食の塩分の多さやカルシウム不足については、かねてから指摘されている。そこで世界の料理に目を向けてみると、毎日の食卓に今すぐ取り入れたい長寿食材がわかった!
WHO(世界保健機関)が発表している世界の女性の平均寿命の統計を見ると、1位は日本の87.1才。男女の平均寿命でも日本が「世界最長」となった。
日本人の長寿を支えているのは、やはり「和食」文化だろう。名古屋学芸大学健康・栄養研究所所長の下方(しもかた)浩史さんが話す。
「世界では、ワンプレートやフランス料理のようなコース形式が主流で、日本のような『定食スタイル』は珍しい。主菜で魚や肉など動物性の栄養、副菜で野菜を摂り、エネルギー源である主食の米は人ごとに調整できる。これは日本独特の優れた食文化です」
下方さんが世界の食卓と比べて特に注目するのが、みそ汁の具の定番「わかめ」だ。実は、欧米では海藻を食べる習慣がほとんどない。
「古代ローマでは海藻は“奴隷が食べるもの”だったという説もあり、偏見がある。さらに欧米人は海藻を分解する腸内細菌があまり備わっていないこともわかっています」(下方さん)
日本では健康食材としておなじみの「大豆」も、欧米では飼料という認識が強いというから驚きだ。思わず世界の食文化に壁を感じてしまいそうだが、和食も完璧なわけではない。
塩分は「減らす」より「排出する」という考え方
まず、和食の「欠点」として指摘されやすいのが、「塩分」の多さ。管理栄養士の望月理恵子さんが解説する。
「世界で推奨される1日の塩分摂取量は5gですが、日本人は10gも摂取しているといわれる。女性はせめて、7g未満を目指してほしい」
しかし、しょうゆやみそなど、和食の基本となる調味料はどれも塩分が高く、それをなくしておいしい料理を食べることは正直、難しい。
そこで、塩分に対して「減らす」ではなく「排出する」という考え方をすすめる専門家もいる。管理栄養士の中沢るみさんは言う。
「りんごやバナナなどの果物に豊富なカリウムは、塩化ナトリウムを排出する作用に優れていますが、日本人は果物の摂取量が少ない。ほかの長寿国では日本の2倍以上、果物を食べるといわれています」
塩は天然塩を選ぶ
料理研究家の荻野恭子さんは、塩のミネラル分を評価。減塩するのではなく、塩の選び方を指摘する。
「糖質制限ブームの影響から炭水化物を避けてしまい、米や麦に豊富に含まれるミネラルが不足気味になっています。野菜や果物で補っているつもりでも、ミネラルや繊維などの栄養が多く含まれているのは皮の部分なので、剥(む)いてしまうと意味がありません。塩にもミネラルが含まれているので、控えすぎない方がいい。天然塩なら80%が体から排出されるので、たとえ食べすぎても塩分過多の心配はありません」(荻野さん)
カルシウム不足には乳製品の摂取を
ミネラル成分の1つであるカルシウムの不足も、和食で指摘されやすい。
日本人は古くから魚でカルシウムを摂取してきたが、農林水産省の調査では、2001年度の1人あたりの魚介類の年間消費量が40.2kgだったのに対し、2017年度には24.4kgと激減している。
魚以外でカルシウムが豊富といえば、牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品が思い浮かぶが、こちらも日本人の摂取量は多くない。
「日本の乳製品の摂取量は、スペインの2分の1、フランス、スイスの4分の1です。寿命が短い国の食文化の特徴として、乳製品や果物が極端に少ないことが指摘されている。日本人も決して他人事ではありません」(中沢さん)
乳製品の栄養素はカルシウムだけではない。ビタミンA、B2、B12などに加え、良質なたんぱく質や脂質も豊富に含んでいる。
「牛乳や乳製品の摂取量が多いほど、認知症発症のリスクが下がるといわれています。さらに肝細胞の炎症を抑え、肝細胞がんの予防になると考えられています」(望月さん)
和食の調理に乳製品を使用する「乳(NEW)和食」のすすめ
乳製品の不足から、近年、新たに提唱されているのが「乳(NEW)和食」だ。和食の調理に乳製品を使用することで、しょうゆやみそを減らしながらコクを出し、減塩しながらカルシウム不足をカバーするという。
「“牛乳みそ汁”や乳清(にゅうせい)で炊いたご飯など、さまざまなレシピが考案されています。カルシウムは骨や筋肉を丈夫にするので、特に成長期の子供は積極的に摂取してほしい。牛乳の『乳糖』を分解できずにお腹がゆるくなる人は、牛乳より乳糖が少ないヨーグルトやチーズを食べるといいでしょう」(下方さん)
欧米では、「ラクトース(乳糖)フリー」の乳製品が一般的なスーパーで売られている。日本の店舗ではあまり見かけないが、乳糖を吸収しやすくした商品などが増えているようだ。
「魚介類」「ナッツ」「カラフル」が長寿のキーワード
米ワシントン大学健康指標評価研究所は、2040年までにスペインが日本を抜いて長寿国1位になると予測している。
その理由は、スペインをはじめフランス、イタリアでも食されている「地中海式料理」にある。
「地中海式料理を食べる国では心血管疾患、がん、パーキンソン病、アルツハイマー病などのリスクが低く、肥満にもなりにくいことがわかっています。果物や野菜、ナッツやオリーブオイルなどの良質な油をたっぷり摂取する一方、加工食品や肉をあまり食べないこともポイントでしょう」(望月さん)
ナッツにはいろいろな種類があるが、いずれにも生活習慣病の予防にいいとされる不飽和脂肪酸が含まれる。そのまま食べるだけでなく、野菜と一緒に炒め物にするなど、料理の材料として使われるところが日本との違いだろう。
「地中海式料理には、魚介類も欠かせません。いかやたこに含まれるタウリンは血圧を下げ、ムール貝などの貝類は亜鉛や鉄などのミネラルが豊富。韓国やシンガポールなどの長寿国も魚介を多く消費しています」(中沢さん)
さらにスペインやフランスでは、パプリカやトマトなどのカラフルな野菜が好まれるほか、ローズマリーやバジルなどのハーブ、ガーリックもよく使われる。どの食材も抗酸化作用があり、がんや生活習慣病の予防に効果的だ。
肉なら「ラム肉」、「鶏肉」は薬膳スープに
漢方薬剤師の堀江昭佳さんは、「和食にはたんぱく質が足りない」と指摘する。
「年齢が上がると食が細くなる。肉をあまり食べなくなり、たんぱく質が不足します」
高齢者がたんぱく質不足になると、筋力の衰え、認知機能の低下などを起こしやすくなる。厚生労働省は、65才以上の女性に1日50gのたんぱく質摂取を推奨している。
新鮮な魚介をよく食べるアイスランドでは、肉食も盛ん。
「アイスランドではラム肉が好まれています。低カロリーで良質なたんぱく質が豊富な上、ほかの肉に比べてカルニチンという脂肪燃焼を助ける成分が多い」(望月さん)
地域別の平均寿命で日本を抜いて長寿1位の香港を筆頭に、台湾や韓国など「薬膳」が浸透している地域ではスープをよく食べる習慣がある。
「なかでもおすすめは鶏肉の薬膳スープ『四物湯(しもつとう)』です。中国では産前産後や、高齢者など、胃腸が弱い人が栄養をつけるために食べます。鶏肉は肉のままより、スープにした方がたんぱく質がアミノ酸に分解されて栄養が吸収しやすくなります」(堀江さん)
寒くなるこれからの季節、ぜひマネしたい一品だ。長寿国には、共通点があると望月さんが言う。
「1食あたりの食事量がほかの国より20%ほど少ないといわれていて、肥満になりにくい。また、小皿に取って食事をし、じっくり味わうという食文化もあります。食材が豊富で新鮮なものが多いので、濃い味つけをしなくても味わいを楽しめます」
同じ物を食べ続けない
日本ほど“グローバル”な食卓はないと話すのは下方さん。
「海外でもほかの国の料理を食べることはありますが、家庭料理として食卓に出ることは少ない。パスタや中華料理など、外国の料理を日常的に食べる多様性も日本の食文化の特徴です」
長寿食において、最も重要な心がけは、“同じものばかり食べ続けない”こと。たとえ体によいとされる食材でも、有害なものが少しでも含まれていれば、毎日食べていると蓄積されてしまう。
「いろいろなものを食べるほどリスクは分散できます。和食のいい部分は生かしつつ、日本ではあまり食べない食材も積極的に食べることが長生きのコツです」(下方さん)
世界の「長生き食品」はまだまだ開拓しがいがありそうだ。
食のプロたちが選んだ「和食」に“プラス1”したい世界の食品
食のプロたちが選んだ和食にプラスしたい世界の食品をランキング形式でまとめた。
「老化」と「食事」の関係に詳しい下方浩史さん(名古屋学芸大学健康・栄養研究所所長)おすすめランキング
1位 乳製品
「牛乳でお腹がゆるくなる人は、チーズやヨーグルトを。日本人に不足している動物性たんぱく質を補うことができます」
2位 オリーブオイル
「地中海食の代表食材。地中海沿岸に住む人は毎朝オリーブオイルをコップで飲んでいます。動脈硬化を防ぐ効果があります」
3位 ナッツ類
「植物性の良質な油が豊富なので、食べても血糖値があまり上がらない。高い健康効果があることがわかってきています」
香港や台湾の「薬膳」に精通する堀江昭佳さん(漢方薬剤師)おすすめランキング
1位 亀(スッポン)
「漢方の世界で『補腎(ほじん)』といわれる食材で、老化を予防します。体の保水力を守り、乾燥や関節の痛みを防ぎます」
2位 鶏肉
「鶏肉は肉の中でも“血”を養う働きが最も高い。生薬と一緒に煮込んだ『四物湯』というスープにするのがおすすめです」
3位 きくらげ
「黒いきくらげは生命力を表す『腎』を養い、白いきくらげは乾燥を防ぐ。どちらも老化に効果的で体に潤いを与えます」
日本人の野菜不足に警鐘を鳴らす望月理恵子さん(Luce代表取締役、管理栄養士)おすすめランキング
1位 ナッツ類
「地中海料理では定番の食材。皮膚を健やかに保つなどの効果がある必須脂肪酸の『オメガ3』や食物繊維を補給できます」
2位 乳製品
「熟成チーズが肝臓がんを予防することがわかっています。牛乳や乳製品を多く摂取するほど認知機能低下のリスクも減少」
3位 クレソン
「日本人は1日に摂取する野菜の量が諸外国よりはるかに少ない。肉を食べる時は抗酸化作用の高いクレソンも残さず食べて」
世界60か国を巡った荻野恭子さん(料理研究家)おすすめランキング
1位 ナッツ類
「脂肪も食物繊維も豊富で、ビタミンやミネラルもバランスよく摂取できる。お通じの改善にも最適です」
2位 ドライフルーツ
「日本人が不足している食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富。特別な調理をしなくても、そのまま食べられる手軽さもいい」
3位 チョコレート(ハイカカオ)
「原料であるカカオにも、ビタミンやミネラル、食物繊維が含まれます。常備して間食にもおすすめ」
地中海料理に注目中する中沢るみさん(管理栄養士、野菜ソムリエ)おすすめランキング
1位 乳製品
「日本以外の長寿国は2~4倍、乳製品を食べています。発酵食品のヨーグルトやチーズは腸内環境を整えます」
2位 果物・ドライフルーツ
「生だけでなくドライでもいい。抗酸化作用があるトマトもドライのものを料理に活用しています」
3位 ナッツ類
「若返りの栄養素ことビタミンEの働きで血流をよくし、冷え症、肩こり、腰痛にも効果的。ホルモンバランスも整えます」
※女性セブン2019年12月5日・12日号
●医者が教える長生きする食事術 簡単で健康なご飯のレシピ5品