幸せ物質「セロトニン」でがん予防|セロトニンを活性化する食品、レシピ
ストレスは、がんを発症させる大きな原因の1つ。がん患者である私にも心当たりがある。約10年前に乳がんを発症した当時は初期レベルのがんだった。ところが、8年前に東日本大震災で故郷が被災するなど大きなストレスを経験。それと同時にがんが一気に悪化した。長期避難を強いられた被災者の中に、がんを発症する人が多いとの報告もある。最近は研究も進み、持続的なストレスとがんとの関係が科学的に解明されつつある。
10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン治療等を行った本誌記者(59才・その後、再発なし)が、各種治療とともに真剣に取り組んだのが「食生活の見直し」。食事、運動、睡眠など日々の生活が、がん予防にいかに大切か、自らの体験を踏まえつつレポートします。
長年、脳神経細胞の研究に携わる佐藤拓己さんも、ストレスと病気との関係に着目してきた医学博士のひとり。佐藤さんは「幸せ物質」と呼ばれるセロトニンが、ストレス改善の鍵になると考えている。
ストレスががんやうつ病などさまざまな病気を引き起こす
――ストレスが病気を引き起こす仕組みを教えてください。
佐藤さん(以下、敬称略) ストレスと病気との関係は、「コルチゾン」というホルモン物質が大きくかかわっています。コルチゾンはステロイドホルモンの一種で、人体がストレスに対して反応する際に放出されます。一時的な放出ならば、コルチゾンは炎症を抑えるなど体によい働きをします。ところが、ストレスが長く続き、コルチゾンが持続的に放出されると副作用が出て、がんやうつ病などさまざまな病気を引き起こすんです。
――コルチゾンという物質が、がんを発症させる?
佐藤 ストレスでコルチゾンが持続的に放出されると、脳(精神活動)と腸(腸内細菌)の密接な関係である「脳腸相関」に支障が出ます。脳腸相関が減弱すると、腸管における消化機能、血液における免疫機能、脳における神経機能が抑制されて、がんの発症につながります。特にストレスの影響を強く受けるのが、NK細胞によるがんの免疫機能です。NK細胞は自然免疫の1つで、最も基本的ながんに対する防御機構。この免疫機能がコルチゾンによって強く抑制されると、がんの発症率がより高くなります。
――コルチゾンの放出を防ぐ方法は?
佐藤 もちろん、ストレスをためないことが大切ですが、体内に「セロトニン」という物質を増やすことも重要です。セロトニンは、脳内で働く神経伝達物質の1つで、睡眠、体温調節、食欲、骨密度、感情や気分のコントロール、精神の安定などに深くかかわり、科学者の間では「幸せ物質」と呼ばれています。この物質を増やすために重要となるのが「食事」です。セロトニンを活性化させる栄養を摂取することで、ストレスによるコルチゾンの放出も防げるというわけです。実は私も数年前に軽いうつ症状を発症し、食の改善を行いました。これが思いのほか効果があって驚いたんです。
セロトニンを活性化させる食品
――どんな食の改善を?
佐藤 まず、脳内でセロトニンが正常に働くための3つの条件を、積極的に取り入れました。
【1】セロトニンの原料であるトリプトファンという物質を多く含む、「魚」や「肉」を摂ること。人間が脳を正常に作動させるためには不可欠な食品です。トリプトファンは動物性のたんぱく質に多く含まれています。体の中では作り出せない物質なので、食品から摂ることが必要で、ほかに大豆食品、卵、ナッツ、バナナなども含んでいます。
【2】セロトニンの合成に必要な腸内環境を整える食品を摂ること。「発酵食品」「海藻」「野菜」を積極的に食べるようにしました。
【3】糖質の過剰摂取をさけて良質な脂肪(魚の脂、ココナッツオイル、オリーブオイルなど)を摂り、脳のエネルギー源となるケトン体を増やすこと。
これらの条件を、普段の食事にバランスよく取り入れて、自分の脳の中でセロトニンが正常に働く環境を整えたんです。結果、薬に頼ることなく、セロトニンを増やし、体調を改善させることに成功したんです。
――まさに幸せを呼ぶ食事ですね。
佐藤 脳内が幸せ物質セロトニンで満たされるためには、健全な腸内環境が必要です。これは「脳腸相関」という関係があるからです。トリプトファンは腸管で水酸化トリプトファンという物質に変化して血流に乗り、脳に到達してセロトニンに変わります。幸せ物質は“腸管”から供給されているのです。さらにセロトニンは、睡眠物質メラトニンに変化するため、健全な睡眠にも関与します。ストレスに打ち克ち、がんにならない、幸せなアンチエイジングのためには、セロトニンの果たす役割は限りなく大きいと考えています。
セロトニンを増やす食品
●バナナ
セロトニンの合成に必要なビタミンB6の含有量が多く、トリプトファン、炭水化物などセロトニンに必要な栄養をすべて補給できる優良食品。
●ヨーグルト
ヨーグルトに含まれる乳酸菌は、人間の精神状態を支配する腸内細菌を整える働きも持つ。腸内に善玉菌を増やすとセロトニンも増える。
●レバー
レバーや牛、豚などの赤身肉の動物性たんぱく質にはトリプトファンが豊富に含まれている。セロトニンを増やすのに欠かせない食品の1つ。
●鶏肉
セロトニンを生成するために必要なビタミンB6と、トリプトファンをバランスよく含む食品。肉類の摂取は、うつ症状の予防に不可欠。
●いわし
いわし、さんま、さばなどの青魚は、トリプトファンとビタミンB6の両方をバランスよく摂取できる。良質の脂肪酸は脳のエネルギー源に。
●納豆
納豆や豆腐などの大豆食品には、必須アミノ酸のトリプトファンが豊富に含まれている。特に納豆は100gあたり240mgと多い。
●卵
セロトニンの原料になるトリプトファンを多く含み、ほかにもビタミンA、B群、D、E、鉄分、亜鉛、ミネラル類など栄養満点の健康食品。
●ほうれん草
ほうれん草などの緑葉物野菜に含まれる葉酸のビタミンB9は、セロトニンを生成するために必要な栄養素(補因子)。やる気や集中力を高める。
●鮭
トリプトファン、ビタミンB6を多く含み、セロトニンを効率よく作れる食品の1つ。DHA、EPAなどの必須脂肪酸も豊富。
●かつお
トリプトファン含有量が多い食品。脳の働きをよくするDHA、血液をサラサラにするEPA、肝機能を高めるタウリンなどが豊富。
●くるみ
オメガ3脂肪酸を豊富に含み、気分や睡眠に影響を与えるセロトニンとドーパミンを活性化。ストレス改善食として注目されている。
●ブロッコリー
ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは、強力な抗がん作用を持つ。セロトニン生成に必要なビタミンB群、葉酸も豊富ながん予防食品。
セロトニンをアップ!アンチエイジング料理
●いわしと豆のトマト煮
<材料>(2人分)
いわしのみそ煮缶詰……1缶
玉ねぎ……1/2個
にんにく……1片
赤唐辛子……1本
オリーブオイル……大さじ1
トマトの缶詰……1缶(400g)
ブロッコリー……小房2~3房
ミックスビーンズ……100g
塩・こしょう……少々
バジル……少々
<作り方>
【1】玉ねぎ、にんにくはみじん切り、赤唐辛子は輪切り、ブロッコリーは小房ごとに切り離す。
【2】フライパンにオリーブオイルを入れ、玉ねぎ、にんにくを炒める。
【3】にんにくの香りが出てきたら、トマトの缶詰とブロッコリーを入れて弱火で煮込む。
【4】ブロッコリーにある程度火が通ったら、いわしのみそ煮缶詰、ミックスビーンズ、赤唐辛子を加え、塩こしょうで味を調えながらひと煮立ちさせる。
【5】最後に、みじん切りにしたバジル(乾燥バジルでもよい)を散らせば完成。
●豆腐のドライカレー
<材料>(2人分)
木綿豆腐……200g
玉ねぎ……1/2個
にんじん……1/3本
ピーマン……2個
しいたけ……2個
オリーブオイル……適量
<A>
カレー粉……大さじ1
トマトケチャップ……大さじ1
オイスターソース……大さじ1
しょうゆ……大さじ1/2
かつおだし……大さじ1
<作り方>
【1】野菜はすべてみじん切りに。豆腐は水切りしておく。
【2】豆腐を適当な大きさに切ってフライパンに入れ、弱火で乾煎りして皿に取り出しておく。
【3】【2】のフライパンにオリーブオイルを入れてすべての野菜を炒め、②の豆腐を加える。
【4】Aを加え、汁気がなくなるまで炒めれば出来上がり。
●ほうれん草のくるみヨーグルト和え
<材料>(2人分)
ほうれん草……1/2束
くるみ……10g
プレーンヨーグルト……100g
すり白ごま……大さじ1
しょうゆ……小さじ2
塩……少々
<作り方>
【1】ほうれん草を茹でて一口大に切る。
【2】くるみを細かく刻んで、ヨーグルト、すり白ごま、しょうゆ、塩と混ぜ合わせる。
【3】ほうれん草と【2】を和えれば完成。
●豆乳バナナドリンク
<材料>>(2人分)
調製豆乳……300ml
すり黒ごま……大さじ1
きなこ……大さじ1
バナナ……100g
<作り方>
すべての材料をミキサーに入れて攪拌すれば出来上がり。
※バナナの量は、好みによって調節してください。
教えてくれたのは
医学博士・佐藤拓己さん/1961年、岩手県生まれ。東京大学農学部・畜産獣医学科卒業。京都大学大学院医学系研究科・分子医学専攻・博士課程修了。岩手大学工学部・応用化学生命工学科・准教授。大阪バイオサイエンス研究所・研究員。現在、東京工科大学・応用生物学部・教授。著書に『ケトン体革命』など。
撮影/茶山浩 料理協力/新谷君子
※女性セブン2019年9月5日号
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