キレる老人その理由|老化による「性格の先鋭化」」とは?対処法を解説
最近、駅や役所、コンビニエンスストアのレジなどで、怒りを抑えきれず爆発させている、“キレる老人” “暴走老人”を目にすることが増えている。あなたの親が、夫が…最近やけに怒りっぽくありませんか? ちょっとしたことで感情が爆発するのは、暑さのせいではありません。
人間、年を取ると丸くなると思いきや、真逆の行動に出る人が多いのはなぜなのか? その理由や接し方、明日はわが身とならないための予防策はあるのか、専門家に聞いた。
【目次】
前頭葉が衰えるとキレやすくなる!?
“キレる高齢者”や“事故る老人”など、シニアの問題行動が後を絶たない。 こうした背景には、かつてのような年長者への敬意が失われつつあるとともに、定年退職後にプライドや存在感を保てず、イライラを募らせる高齢者が多いのも事実だが、
「長寿で脳の前頭葉が萎縮している人の数が増えたことも問題行動の要因の1つです」と、老年精神医学の専門医・和田秀樹さんは指摘する。
「加齢による脳の老化には順番がありますが、最初に老化が表れるのが前頭葉。ここは意欲を司(つかさど)るとともに、感情のコントロールをしている場所なのですが、マンネリ化した生活をしていると、真っ先に萎縮してしまうのです」(和田さん・以下同)
そもそも前頭葉の働きが解明されたのは、前頭葉の一部を切除するロボトミー手術の発明による。
「この手術で前頭葉に損傷を受けた患者が、怒りの感情をコントロールできなくなったのです。その後の研究で、このような前頭葉の変化は、老化による機能低下でも表れることが解明されています」
40代から前頭葉の老化は始まる
40~90代までの脳の変化を整理してみると(下表参照)、認知症は70代までは発症確率が低いのに対し、前頭葉は40代で、すでに老化が始まるというのが一般的。
●年代別 私たちの脳はこう変化する!
・40代
前頭葉の委縮が始まり、セロトニンが減少(感情の老化の始まり)。精神面ではうつ病の親和性があり、セロトニンの減少で不安やイライラ傾向に。認知症有病率は1万人に2人。要介護比率は40~64才で0.4%に。
・50代
前頭葉の萎縮、セロトニンの減少がさらに進み、脳の動脈硬化も進行。精神面ではうつ病の親和性があり、自発性が低下する。認知症有病率は1万人に8人。要介護比率は40~64才で0.4%に。
・60代
さらに前頭葉の萎縮、セロトニンの減少、脳の動脈硬化が進む。うつ病の親和性や自発性低下のほか、一部が暴走老人化。定年後にアルコール依存などの危険性があり。認知症有病率は1%弱。要介護比率は2%未満に。
・70代
脳の神経細胞におけるアルツハイマー型変化の始まる人が増える。脳の動脈硬化が隠れ脳梗塞のレベルに。精神面ではうつ病と認知症の有病率が逆転。認知症有病率は8%、要介護比率は9~10%に。
・80代
ほとんどの人にアルツハイマー型変人化や、脳梗塞が見られ、実際に脳梗塞、脳出血のため、麻痺などの後遺症が残る人も増える。認知症急増。入院時にせん妄。認知症有病率は30%以上。要介護比率は40~50%に。
・90代
全員にアルツハイマー型変化と脳梗塞が見られ、機能が保たれている人でも、脳が若い頃と同じ人は皆無。認知症が普通に。認知症有病率は70%以上。要介護比率は70%以上に。
(和田秀樹著『年代別 医学的に正しい生き方 人生の未来予測図』(講談社現代新書)より要約引用)
前頭葉が萎縮して現れる4つの老化現象
「前頭葉が萎縮すると、(1)意欲の低下、(2)感情抑制の低下、(3)判断力の低下、(4)性格の先鋭化という4つの老化現象が表れます。なかでも『性格の先鋭化』は、頑固者はより意固地に、疑り深い人はより猜疑心の塊に、怒りっぽい人はよりキレやすくなるなど、生来の性格がキツくなる変化で、元来短気な人は、キレる老人になりやすいのです」
また、「判断力の低下」は暴走ドライバーにつながるリスクで、前頭葉が衰えると、新しいことへの対応が悪くなり、自動車の前に子供の集団がいるなどの緊急時にパニックを起こしやすいとも考えられている。
つまり、前頭葉の機能低下は“キレる高齢者”や“事故る老人”と密接に関係しており、前頭葉の老化をいかに防ぐかがその解決策となる。
「感情老化度をチェックすることで、自分の前頭葉の衰え具合を確認することができます。脳は使わないと衰えて萎縮もしますが、いくつからでも鍛え直すことが可能です」