ラブホは脱衣所、浴室が広く要介護や車いすの人が利用しやすい
これからは高齢者こそラブホテルを利用してほしい、と金さんは言う。
「肉体的なふれあいから遠のいている夫婦に、ラブホテルはとても効果的だと思います。“セックスができる場所に行く”という行為が重要なのだと思います。電車に乗り、歩いて門をくぐるという行為がすでに前戯になっている気がします。セックスをするためだけの場所があるというのは、世界でも日本だけ。ある意味、稀有な建物でもあるのです」
最大のチャンスは旅行時。普通のホテルではなくラブホテルを取ると、世界が変わるという。
要介護や車いすの人も利用しやすい広い脱衣所、浴室
「基本的にラブホテルは広いので、普通のホテルならスイートルーム級の部屋が格安で泊まれます。とりわけお風呂は、“第2の部屋”といわれるほどホテル側がお金をかけるので、シティーホテルとは比較にならないくらい大きい。
過去に私が感動したのは、要介護や車いすのかたがラブホテルを利用することでした。普通のホテルはユニットバスで、脱衣所もないでしょう。介助があっても入浴をすることが難しいんです。一方でラブホテルは脱衣所もあり、浴室も広い。旅先で疲れを取るには最適なのです」(金さん)
高齢者であれば、なおさら広い浴室が必要だろう。
『富貴』の客たちも、「一緒にお風呂に入る」という点に感動していた。背中を流し合う行為がとても幸せだった、と。
風呂は必然的に裸になる場だけに、体のふれあいにも発展しやすい。
「最近のラブホテルの中には、柱もベッドも、角がなくなるように作られている所もあります。長時間裸で過ごす場所だから、けがしないように考えられているわけです。セックスをする上で最高の環境を、ホテル側がわざわざ作ってくれている。セックスレスの解消にはもってこいだと思います」(金さん)
日本特有の文化ともいえるラブホテル。その社会的意義は大きい。だからこそ、『富貴』のようなラブホテルは現実の“遺産”にしてはならない。
『富貴』のオーナー、野本昭子さん(55才・仮名)が語る。
「ボイラーが老朽化してきました。本来なら交換しなくてはいけない時期に来ているのですが、業者さんに無理を言って、なんとか修理していただいています。交換費用は非常に高額で、今の富貴には難しい。ボイラー以外にも、エアコンや電気設備等の維持費用も年々高くなってきました。営業が継続できなくなるような故障が出てきたら、その時は覚悟しなくてはいけません。
でも、古いホテルを継いだ時から常に感じていたことでもあります。その時が来るまで、一日一日を大切に頑張ろうと思います」
午後6時、取材を終えてホテルを出ると、中高年カップルが入れ違いで吸い込まれて行った。
撮影/辻村耕司
※女性セブン2017年7月20日号